猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

窓辺にて

2022-11-27 21:54:38 | 日記
2022年の日本映画「窓辺にて」を観に行った。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)
が担当している売れっ子作家と浮気していることに気づきつつも、何も感じ
ない自分にショックを受けていた。ある日、文学賞の取材で出会った高校生
作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市
川は、この小説にモデルがいるなら会わせて欲しいと願い出る。

今泉力哉監督・脚本による大人のラブストーリー。セリフが多く、会話劇と
いう感じである。フリーライターの市川茂巳は昔小説を書いて出版したこと
があるが、その1冊だけでもう小説を書いていなかった。市川は編集者をし
ている妻の紗衣が浮気をしていることに以前から気づいていたが、怒りも悲
しみも湧かず、そのことに自分自身戸惑っていた。ある日、文学賞の取材に
行った時、受賞した高校生作家の久保留亜に出会う。取材陣が陳腐な質問し
かしてこないことに留亜はうんざりしていたが、市川の質問に対してよく本
を読み込んでいると感じた留亜は、後で市川に面会を申し込む。
フリーライターや作家や編集者が何人も登場するので当たり前だが、本が色
んな場面で登場する。今泉監督はとても本好きの人ではないかなと思った。
この映画、本好きの人には合うかもしれない。市川は自分の悩みを誰に相談
すればいいのかわからず、日々をやり過ごしていた。留亜は市川に信頼を寄
せ、カフェに呼び出したりして色んな話をする。留亜はマイペースで17歳
にしては達観しているような少女である。市川はそんな彼女をおもしろいと
思い、呼ばれるままに付き合う。そして市川が彼女の小説のモデルに会わせ
て欲しいと言うと承諾する。
紗衣は市川が小説を書かなくなったのは自分が彼の芽を摘み取ってしまった
からではないかと気にしている。正直なところ、市川が何故小説を書かない
のかはよくわからなかった。周りからも「もったいない」と言われたという。
そして、市川は紗衣と何気ない話をしている時に、紗衣の浮気を知っている
ことを言ってしまう。紗衣は「ごめんなさい。別れるから」と言うが、ずっ
と知っていて何故何も言わなかったのか、ということで口論になってしまう。
浮気した方が怒るのもおかしいのかもしれないが、夫が知っていて怒りも悲
しみもしなかったら、それはそれで淋しいのかもしれない。市川は「結局僕
は冷たい人間なんだよ」と言う。
市川が冷たいというのは何か違う、と思った。喜怒哀楽をはっきりと表さな
い人はいる。感情が薄いというか、でもそれは冷たいとは違うと思う。キャ
ストが脇役に至るまでとても魅力的で、特に主演の稲垣吾郎ははまり役だと
思った。彼もあまり喜怒哀楽をはっきりと表さないタイプのように見える。
紗衣役の中村ゆりも儚げできれい。時間をもう少し短くしてもいいのではな
いかと思ったが、おもしろかった。


ゴシゴシ。

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ダーク・アンド・ウィケッド

2022-11-23 23:13:44 | 日記
2020年のアメリカ映画「ダーク・アンド・ウィケッド」。

父の病状が悪化したとの報せを受けたルイーズ(マリン・アイルランド)と
マイケル(マイケル・アボット・Jr.)の姉弟は、生家であるテキサスの人
里離れた農場を久々に訪れる。そこには、母に見守られながらひっそりと
最期を迎えようとする父の姿があった。しかし母は「来るなと言ったのに
」と彼らを突き放し、姉弟は両親の様子がおかしいことに気づく。その夜、
母は首を吊って死亡。やがて姉弟は、想像を絶する恐怖に巻き込まれてい
く。

ストレンジャーズ/戦慄の訪問者」のブライアン・ベルティノ監督によ
るオカルト・ホラー。すごく怖い映画だった。ルイーズとマイケルの姉弟
は、父が危ないとの連絡を受けて長らく帰っていなかった実家を訪れる。
しかし母は自分が呼んでおきながら「来るなと言ったのに」と言って態度
が冷たい。姉弟は顔を見合わせる。父はもう意識がない状態でベッドに寝
たきりで、母と訪問看護師に世話をされていた。実家はたくさんの羊を飼
っており、母だけで世話ができるのかと思った。
夜、母が料理をしているシーンが怖い。野菜を切っている手がアップにな
り、必死でトントントンと切っているので、「指を切りそう」と思ってい
たら指4本を切断し、切断した指を更に刻んでいるのだ。ゾッとした。そ
してその後母は首吊り自殺をする。明らかに何かに取り憑かれている。シ
ョックを受けるルイーズとマイケルだが、不審な出来事は続き、この家全
体がおかしいと思い始める。
終始暗く重たく不穏な雰囲気で、とても怖い。ブライアン・ベルティノ監
督の映画を観るのは2本目だが、かなり怖い映画を作る人のようだ。「ス
トレンジャーズ/戦慄の訪問者」はオカルト系ではないので、怖さが全然
違うのだが。とにかく登場人物がルイーズとマイケル以外皆どこかおかし
い。ルイーズは独身で、マイケルは妻子持ちのようだが、マイケルはたま
らなくなって帰りたいと思うようになる。ドキッとするシーンやビクッと
するシーンが満載で、心臓に悪い。羊が一夜にしてほとんど死んでしまう
シーンも怖かった。
気になるところが2つあって、マイケルがルイーズを「お前」と呼んだの
で、姉をお前と言うかな?と思った。姉ではなく妹?と思ったが解説には
姉弟と書いてあったし。もう1つは神父が昔自分の娘が自殺して云々と話
すシーンがあったが、神父は結婚できないので娘がいるはずないのだが、
と思った。字幕(翻訳)ミスだろうか。そして物語はちゃんと対決してしっ
かり解決するラストではない。でも不満は感じない。充分推測できるから
だ。とにかく怖い映画だった。


パフェを食べに行ってきました。おいしかったです
そして店員さんがかっこよかったです

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シンプルな情熱

2022-11-19 22:07:49 | 日記
2020年のフランス・ベルギー合作映画「シンプルな情熱」。

パリの大学で文学を教えるエレーヌ(レティシア・ドッシュ)は、ある
パーティーでロシア大使館に勤める年下の男性アレクサンドル(セル
ゲイ・ポルーニン)と出会う。エレーヌは彼のミステリアスな魅力に
強く惹かれ、瞬く間に恋に落ちる。自宅やホテルで逢瀬を重ね、彼と
の抱擁がもたらす陶酔にのめり込んでいくエレーヌ。今まで通り大学
での授業をこなし、読書も続け、友達と映画館へも出かけたが、心は
全てアレクサンドルに占められていた。エレーヌは年下で気まぐれ、
既婚者でもあるアレクサンドルからの電話をひたすら待ちわびる日々
になってしまう。

フランスの作家アニー・エルノーの自伝的小説の映画化。夫と離婚し、
息子(10歳くらい)と2人で暮らしているエレーヌは、大学で文学を教
えていた。ある日ロシア大使館に勤める年下の男性アレクサンドルと
出会い、一瞬で恋に落ちる。子供がいない昼間の自宅やホテルで逢瀬
を重ね、アレクサンドルにのめり込んでいくエレーヌ。今まで通りの
生活を続けながらも心の中はアレクサンドルで一杯だった。アレクサ
ンドルはだいぶ年下で(見た感じ10歳くらい年下のようである)既婚
者、そしていずれはロシアに帰る身なので、やめておけとエレーヌは
親友に忠告される。
不倫の実体験を小説に書くというのがフランス人らしいと思った。不
倫って普通隠すものではないだろうか。良くないこと、という認識が
あまりないのかもしれない。一応エレーヌも隠れてアレクサンドルに
会ってはいるのだが。彼女はアレクサンドルからの電話やメールを待
ちわびて、常に気もそぞろになる。授業中も電話がかかってきて慌て
る。いや授業中は電源切っておきなさいよ、と言いたくなる。小学生
の息子も母親の様子がおかしいことに気づいている。
アレクサンドルはもちろん遊びなのだろうが、エレーヌのことを好き
ではあるようだ。嫌いなタイプの女性だったら不倫はしないだろう。
けれどもエレーヌがどんどんアレクサンドルに依存していく様子は、
「ヤバいなー」という感じ。アメリカ映画の「運命の女」を観た時も
思ったが、不倫にもルールがある。いずれ終わるのだからそんなにの
めり込んではいけないと思う(終わらない場合もあるが)。
やがて元夫がエレーヌの家へ訪れて「数日間息子を預かる」と言う。
おそらく息子が父親に電話したのだろう。ここ2週間ほどエレーヌは
息子の面倒もろくに見ておらず、車から降ろした息子をひきそうにな
ったりしていた。元夫は大体気づいていて、「息子の世話を放り出し
て情事にふけっているのか」と言う。こうなると本当にダメ。
それでも最後はフランス映画らしいというか、「運命の女」は不幸な
終わり方をしたが、こちらはあっさりとしている。アレクサンドル役
のセルゲイ・ポルーニンは世界的に有名なダンサーということだが、
そんなに有名なダンサーがこういう映画に出演するんだなあ、と思っ
た。ほぼ彼とエレーヌの全裸シーンしか印象にない。でもあんなに美
形の男性だったら恋に落ちても仕方がないかもしれない。




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スイス・アーミー・マン

2022-11-15 21:54:42 | 日記
2016年のアメリカ映画「スイス・アーミー・マン」。

遭難して無人島に漂着した青年ハンク(ポール・ダノ)。いくら待てども
助けは来ず、絶望して命を断とうとした時、波打ち際に男の死体(ダニ
エル・ラドクリフ)が打ち上げられているのを発見する。死体からは腐
敗ガスが出ており、浮力を持っているのに気づく。その力は次第に強ま
り、死体は勢いよく沖へと動き出す。ハンクはその死体にまたがるとジ
ェットスキーのように発進し、無人島脱出を試みる。何とか別の島へ辿
り着いたが、そこにもまた人はいなかった。ところが死体が「僕の名前
はメニー」と言って、しゃべり出す。

サバイバル・コメディというのだろうか。ジャンル分けがしにくいが、
シュールでとてもおもしろかった。無人島で絶望を感じた青年ハンクは
首を吊って自殺しようとしていたが、波打ち際に若い男の死体らしきも
のを見つける。人工呼吸や心臓マッサージをしてみたがやはり死んでい
た。ハンクはもう1度自殺しようとするが、死体が動いていることに気
づく。腐敗ガスのせいで動いているのだとわかるが、死体は海に向かっ
て動き出し、ハンクは思い切って死体にまたがる。そしてジェットスキ
ーの要領で沖合を目指す。
別の島に着くが、ハンクは死体をそのままにしておくのが忍びなくて、
死体をかついで陸を捜す。孤独なハンクにとって死体でも仲間のような
気持ちになっていたのだ。ハンクは死体と共に夜を明かすが、やがて死
体は「メニー…メニー…」とつぶやき出す。驚いたハンクは「君の名前
はメニーなのか?」と話しかけ、それから死体は色々とおしゃべりを始
める。メニーにはどうやら記憶がないようで、ハンクはあれこれと教え
てやる。
ダニエル・ラドクリフは「ハリー・ポッター」シリーズのイメージを払
拭するためか変わった映画によく出ているが、これは本当にヘンテコな
映画だ。全編死体の役だなんて。でもさすがの演技力である(ポール・
ダノもだが)。登場人物は2人だけで、ラスト近くで他の人が出てくるだ
け。2人がずーっとしゃべっているだけなのだが、不思議と飽きない。
ハンクは内気な青年で、いつもバス停で見かける女性を好きだったが、
声をかける勇気はない。それに彼女は既婚者だった。けれども彼女を隠
し撮りしてスマホの待ち受けにしていて、メニーはその写真を見て彼女
のことを好きになる。
下ネタ満載の映画で、笑える。そしてハンクとメニーのやり取りがとて
もおもしろい。生きた青年と死んだ青年のサバイバルはどのように着地
するのだろうと思って観ていたが、ラストはホロリとする感じで、ハン
クとメニーの笑顔がいい。映画のタイトルはどういう意味かと思ってい
たが、スイスアーミーナイフというものがあるのだと知った。そういえ
ば聞いたことがあるような。多機能ナイフのようなもので、メニーはと
にかく色々と役に立つ死体なのでこのタイトルなのか、と思った。奇抜
すぎて人によってはおもしろくない映画かもしれないが、私はとてもお
もしろかった。




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声もなく

2022-11-11 21:49:51 | 日記
2020年の韓国映画「声もなく」。

口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と片足を引きずる相棒チャンボク
(ユ・ジェミョン)は、普段は鶏卵販売の仕事をしながら、犯罪組織から
死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、テインたちは犯
罪組織のヨンソク(イム・ガンソン)に命じられ、身代金目的で誘拐され
た11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。チョ
ヒの父親は身代金を出し渋っていた。しかしヨンソクが組織に始末され
てしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が
始まる。

サスペンスだが人間ドラマの側面もある悲しい物語。冒頭から口のきけ
ない青年テインと相棒のチャンボクの興味深いシーンから始まる。どこ
かの建物内で2人はレインコートを着て、ビニールの帽子をかぶり、ビ
ニールの手袋を身につけ始める。そこには血だらけになった男が吊るさ
れている。彼らはその男の下にビニールシートを手際良く広げていく。
吊るされている男を包むためだ。そして彼らは男を包むと、どこかへ埋
めに行く。テインとチャンボクは表向きは卵の販売をしながら、裏では
こうして犯罪組織から死体処理を請け負っているのだ。
そのシーンを観ていて、韓国映画お得意の血生臭い物語になるのかと思
っていたら、違う雰囲気になっていく。テインとチャンボクは身代金目
的に誘拐した人を1日だけ預かれと言われ、その場所へ出向くと、そこ
にいたのは11歳の少女チョヒだった。チャンボクは「子供だなんて聞
いてないぞ」と戸惑う。仕方がないので彼らはチョヒをテインの家に連
れていく。家と言っても何もない田舎にぽつんと建っている小屋のよう
なものである。韓国映画は本当に底辺に生きる人々をよく描くなあ、と
思う。テインとチャンボクは底辺も底辺、最下層の人間だ。死体処理の
仕事で生計を立てているのだから。
チョヒは誘拐犯たちが本当は弟を誘拐する予定だったのが、間違えて姉
を誘拐したのだった。そのため親は身代金を出し渋っているのだった。
それを知ったチャンボクは「同じ子供なのにひどいな」と言う。テイン
もチャンボクも根は悪人ではないのだ。日本でも年配の人だと女の子よ
り男の子を優遇するような人はまだいるようだが、韓国社会も同じなん
だな、と思った。チョヒの親は誘拐されたのが息子だったらすぐに身代
金を払っていただろう。チョヒは何となくそれを察していて、「パパは
お金を払ってくれるかな」と言っている。
この、チョヒが察しているところが悲しい。チョヒは家で弟の方が大切
にされていることを感じているようだ。きっと親に嫌われないようにと、
行儀良くいい子にしているのだろう。テインたちの前でもチョヒはおと
なしい。チョヒは家に居場所はあるのだろうか、と思った。テインは口
がきけないので、テイン役のユ・アインは表情や仕草で感情を表現しな
ければならない。それがとてもうまい。テインは底辺の人間で、チョヒ
は裕福な家の子供。生活環境はまるで違うが、2人には何か心で感じ合
うものがあるのではないだろうか。
チョヒの父親はなかなか身代金を払わず、テインとチャンボクのボスで
あるヨンソクが殺されてしまったため、彼らはどうすればいいのかと困
ってしまう。彼らは誘拐には直接関わっていないのだ。テインとチョヒ
の間には次第に兄妹のような不思議な感情が芽生えていく。逃げ出せる
隙はあっても1人では帰れないチョヒにとって、頼れるのはテインだけ
なのだ。けれども2人の間に通う温かい感情のままでは終わらない。ラ
ストはやっぱりそうなるんだな、という感じ。孤独な青年であるテイン
の、最初から最後まで悲しい物語だった。とてもおもしろかった。




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