元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ユメノ銀河」

2022-03-06 06:16:11 | 映画の感想(や行)
 97年作品。70年代後半にデビューしてから主にバイオレンス物を手掛けたことから、武闘派(?)と思われていた石井聰亙(現:石井岳龍)監督だが、90年代からは静謐でスタイリッシュな作風を露わにしていく。本作もその傾向にある一編で、特にモノクロのアーティスティックな映像と凝った大道具・小道具により、文芸物としての佇まいも感じさせる。一般受けはしないが、これはこれで存在価値のあるシャシンだ。

 戦後も間もない頃、ある地方都市で友成トミ子は乗合バスの車掌の職を得る。当時は若い女子の間では人気のある仕事に就けたはずのトミ子だが、次第に退屈な日々に嫌気がさしていた。ある日、彼女の友人である月川ツヤ子が婚約者の運転するバスに乗っていて事故死したという知らせが届く。葬式の帰りに、トミ子は関係者から、事故の当事者である運転手と組んだ車掌が次々と謎の死を遂げているという話を聞く。



 不穏な気持ちに陥った彼女だが、そんな中トミ子が勤める会社に新しく採用された運転手の新高竜夫が、くだんの怪しい男ではないかという噂が広がる。しかも、トミ子は彼と仕事上のコンビを組むことになる。彼女は当初は居心地の悪い思いをするが、やがてミステリアスな雰囲気を持つ竜夫に惹かれるようになる。夢野久作の小説「少女地獄・殺人リレー」の映画化だ。

 形式としてはサスペンス物に属するが、謎解きの趣向はあまりなく中途半端に終わる。どちらかといえば内実はラブストーリーだろう。しかし、相思相愛のスタイルにはなっておらず、完全にヒロインの病的な一方通行の思い込みに終始する。

 よからぬ噂を聞いて竜夫を疑うトミ子。その反面、惹かれていくのを止めようがない。普通に映像化すれば主人公の奇態な言動がクローズアップされるところだが、本作では静かなタッチを維持し、その代わりに独特の美意識に貫かれた画面造形と、芸術的とも言える白黒の色彩の配置がトミ子の揺れ動く内面を表現する。撮影担当の笠松則通にとって、この映画での仕事は大きなキャリアになったはずだ。

 石井の演出はケレンが大きいのだが、全編を覆う沈んだ雰囲気により、そのあざとさは感じられない。90分という尺も適切だ。主演の小嶺麗奈は難しい役を上手くこなしていて感心したが、不祥事により今は芸能界から退場してしまったのは残念だ。竜夫役の浅野忠信をはじめ、京野ことみ、黒谷友香、真野きりな、嶋田久作など、他の面子もイイ味を出している。

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