元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「野蛮人のように」

2022-02-13 06:16:03 | 映画の感想(や行)
 85年作品。封切り時は正月映画の目玉として公開され、事実それなりの興行成績を上げたのだが、実はそれは併映の那須博之監督の「ビー・バップ・ハイスクール」のおかげである。当時テレビで興行評論家の黒井和夫が“7対3の割合で「ビー・バップ~」が引っ張っている”と言っていたらしいが、観客の反応を見ていればそれは明白だった。とにかく何とも形容しようのないシャシンで、評価出来る余地はない。

 主人公の有楢川珠子は15歳のとき作家デビューして早々に頭角を現したものの、20歳になった今ではスランプ気味だ。アイデアが浮かばない夜、彼女は気晴らしに仕事場である海辺のコテージを飛び出し、六本木まで車を走らせる。一方、六本木の風俗店の用心棒を務める中井英二は、兄貴分の滝口から突然電話で呼び出される。

 中井が指定された場所に出かけてみると、滝口は誰かに撃たれて負傷しており、そばには彼が属する山西組の組長の死体が転っていた。実はこれは滝口の偽装殺人だったのだが、彼は中井に“犯人は組長の情婦で、水玉のブラウスに白いパンツを着ていた”とデタラメを吹き込む。ところが、六本木にやってきた珠子は偶然にも同じ服装をしていた。これまた偶然に珠子と遭遇した中井は、彼女ともども事件をもみ消そうとする組織の連中から追われることになる。

 話自体はかなり剣呑で、流血沙汰も少なからずあるのだが、陰惨な印象は受けない。ならばポップな線を狙っているのかというと、それにも徹し切れていない。何とも煮え切らないシャシンだ。展開は行き当たりばったりで、作劇のテンポはかなり悪い。キャラクター設定もいい加減で、珠子はとても作家には見えないし、中井はカッコ付けただけのチンピラだ。

 ヒロインたちが悪漢どもと攻防戦をやらかすのは海辺の小屋なのだが、いかに危機突破のためとはいえ、仕事場を爆破して笑っていられる作家なんていないだろう。斯様な不手際を回避するには、攻防戦の場所をどこか別の場所に変えることで容易に達成するのだが、作者にはその程度の配慮も見られない。また、単純娯楽編という触れ込みのはずだが、カメラワークは不自然に凝っているあたりも痛々しい。

 監督と脚本担当は川島透だが、当時の彼には才能は感じられなかった(その後いくらか持ち直したが、今は何をやっているのか不明)。珠子に扮した薬師丸ひろ子はこれが角川事務所を辞めてからの第一作だが、どうやら作品の選定を間違えたようだ。相手役の柴田恭兵をはじめ、河合美智子に太川陽介、清水健太郎、ジョニー大倉、寺田農とキャストは多彩だが、上手く機能していない。ただ、音楽担当が加藤和彦であるのは、多少の興味は覚えた。

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