元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ようこそ映画音響の世界へ」

2022-06-03 06:19:56 | 映画の感想(や行)
 (原題:MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND)2019年作品。興味深いドキュメンタリー映画だ。まず、題材を映画音響に特化している点が面白い。映画製作に関するドキュメンタリーは過去に数多くあったが、サウンドに着目したものは(私の知る限り)他には見当たらない。それだけでも存在価値はある。

 映画がトーキーになったのは1927年の米作品「ジャズ・シンガー」からだが、それから映画音響はコンスタントに進化を続けてきた・・・・と思ったら、実は少し違う。確かに技術革新により音響機材のクォリティは上がり、聴感上の物理特性は時代を重ねるたびにアップしてきた。しかし、真に映画的効果を狙ったサウンド展開が普及するようになったのは、意外にも70年代以降なのだ。まさにトーキー誕生から50年以上も経過している。



 それまでは映画の音響は基本モノラルで、サウンド・エフェクトといえば文字通り“効果音”でしかなかった。それが映画上映時の“音場”まで考慮されるようになったのは、サラウンドという考え方が一般化するようになってからだ。オーディオの世界では4チャンネル・ステレオが取り沙汰されるようになった時期で、ピュア・オーディオにおけるサラウンドは早々に廃れたものの、その方法論は映像再生時のノウハウとして定着した。そして今や音響効果は映画の質を左右するほどの重要性を獲得。

 本作はジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグ、デイヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーランら監督陣をはじめ「スター・ウォーズ」のベン・バート、「地獄の黙示録」のウォルター・マーチ、「ジュラシック・パーク」のゲイリー・ライドストロームといったレジェンド級の音響エンジニアたちのインタビューを織り込み、もはやサウンド効果なしでは成り立たなくなった映画作りの現状を浮き彫りにしていく。

 ただし、演出担当のミッジ・コスティンは平易な内容を第一義的に考えていたせいか、網羅されている情報が入門編レベルに寄せており、マニアックな興趣に乏しい点は不満だ。観客を置いてけぼりにするのは禁物ではあるが、もう少し知的好奇心を喚起するような作りが望ましかった。しかしながら、こういうモチーフを取り上げたこと自体は評価されるべきだろう。

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