元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夜明けまでバス停で」

2022-11-06 06:22:58 | 映画の感想(や行)
 社会問題を真っ向から描く映画になるはずが、途中から“妙な方向”に舵が切られ、観終われば釈然としない気分が残る。考えれば監督の高橋伴明は団塊世代の影響を大きく受けていることは「光の雨」(2001年)などでも明らか。そういうスタンスでこの題材を扱って良いとは思えない。また、主人公の造形も現実感を欠く。

 居酒屋チェーン店のパートとして働いていた北林三知子は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で失職の憂き目にあう。しかも勤め先の寮に入っていたため、住む家も無くなる。新たな仕事どころかコロナ禍により寝泊まりする場所も見つけられない彼女が行き着いたのは、バス停に隣接したベンチだった。やがて彼女は公園で同じホームレスのクセの強い面々と知り合う。一方、三知子が働いていた居酒屋の店長である寺島千晴は、チェーン統括会社のマネージャーの態度に不審感を抱いていた。2020年に起こった渋谷ホームレス殺人事件をヒントしてに作られている。



 今世紀に入ってからの構造改革万能主義により、勤労者の多くが不安定な身分に甘んじるようになった中、思わぬパンデミック発生で窮地に追い込まれる者が多数発生。本作はその理不尽さを告発するはずが、ヒロインが出会うホームレス仲間が往年の新左翼の闘士だったことから、映画は“権力vs庶民”という全共闘時代の古いテーゼをトレースするようになる。これでは問題解決の方法論を何も提示していない。

 そもそも、三知子はアクセサリー制作などの手に職を持っており、友人もいて帰るべき故郷もある。真に困窮した立場ではない。そして困ったことに(?)、演じる板谷由夏はスタイルが良くて垢抜けておりホームレスには見えないのだ。

 むしろ映画の主題に相応しいのは、実際の事件で狼藉に及んだ犯人の方ではないのか。どうして見ず知らずの者を襲ったのか、その背景を丹念に追えば、我々が直面する深刻な問題が明らかになったかもしれない。あるいは千晴が直面するディレンマとか、三知子の元同僚たちの苦境など、明らかに映画的興趣を喚起できるのは本筋とは別のモチーフである点が何とも悩ましい。

 板谷以外のキャスト、三浦貴大やルビー・モレノ、片岡礼子、土居志央梨、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明、柄本佑らの熱演も空回りしている感が強い。なお、唯一印象的だったのが千春に扮した大西礼芳で、難しい役回りをひた向きな姿勢で演じ、共感性の高いキャラクターに押し上げていた。今後も注目したい。

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