元・副会長のCinema Days

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「予告された殺人の記録」

2023-01-13 06:20:35 | 映画の感想(や行)
 (原題:Cronica de una Muerte Anunciada )87年フランス=イタリア合作。フランチェスコ・ロージ監督作品としては比較的珍しい純文学の映画化だが、見応えのある作品に仕上げられている。正直、今ではあまり映画ファンの間では記憶に残っているシャシンとは言い難いものの、決して悪い出来ではない。ただ、本作が公開された80年代後半には他にも(賞レースにおける)大作・話題作が目白押しで、影が薄くなったのは仕方がないとも言える。

 おそらくは20世紀前半の南米コロンビアの小さな町に、バヤルド・サン・ロマンという若い男がやってくる。彼は謎めいた風体であったが、実は相当な金持ちで、結婚相手を探して各地を旅していたのだ。広場を通りかかった若い娘アンヘラを見初めたバヤルドは、彼女こそ運命の人だと思い込みプロポーズする。

 気の進まないアンヘラを周囲は説得し、町をあげての婚礼がおこなわれる。しかし初夜で新婦が処女でないことを知ったバヤルドは、絶望して婚姻取り消しを申し出る。どうやら彼女の貞操を奪ったのは、富も名誉もある青年サンティアゴ・ナサールらしい。アンヘラの家族は名誉を守るため、サンティアゴの殺害を予告する。ノーベル賞作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの同名小説の映画化だ。

 物語は古風な愛憎劇で、しかも25年ぶりに故郷に戻ってきた医師クリストの回想によって進められることもあり、神話的な雰囲気が横溢する。殺人事件が起きることを町の誰もが予想していたにも関わらず、止めようとする動きはない。警察すら捜査に乗り出した形跡も無いのだ。さらには、サンティアゴが本当にアンヘラの初めての男だったのかも不明。すべては町が孤立したロケーションにあり、閉鎖的な風土によって不条理な因果律が暴走したことによる。

 フランチェスコ・ロージの演出は、このカリブ海に面した風光明媚な土地柄とは裏腹の、偏狭で不寛容な空気をジリジリと描出する。そして、バヤルドとアンヘラの関係性の実相が示される終盤の処理は、一種のカタルシスになって強い印象を残す。ルパート・エベレットにオルネラ・ムーティ、ジャン・マリア・ボロンテ、イレーネ・パパスと、顔ぶれも実に濃い。

 サンティアゴ役のアントニー・ドロンはあの有名スターの二世だが、良い演技をしている。まあ、彼は映画俳優としては父親にとても及ばなかったが、彼の半生は映画並みに面白いようだ。パスカリーノ・デ・サンティスのカメラによる南国の美しい光景、ピエロ・ピッチオーニの音楽も万全である。

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