元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「由宇子の天秤」

2021-11-08 06:31:28 | 映画の感想(や行)
 これは、先日観た吉田恵輔監督の「空白」とよく似たタイプのシャシンだ。つまりは、作者が無理なシチュエーションを仕立て上げ、登場人物たちを迷路に放り込んだ挙句に、何か問題提起をした気になっている。手練手管を弄しただけの筋書きに、観終わって暗澹とした気分になってきた。もっとスマートな作劇が出来なかったのだろうか。そもそも、プロデューサーは何をやっていたのだろう。

 ドキュメンタリーディレクターの木下由宇子は、3年前に北関東の地方都市で起こった女子高生イジメ自殺事件の真相を追っていた。テレビ局の意向と衝突することも珍しくはないが、それでも自らの筋を通すために毅然とした態度で職務に当たっている。一方、彼女は父親の政志が経営する学習塾を手伝っていたが、新しく入ってきた高校生の小畑萌が妊娠していることが発覚し、成り行きでその面倒を見ることになる。そして何と、萌の相手は政志らしい。由宇子は自分の仕事と身内の不祥事との間で揺れ動くことになる。



 ヒロインはディレクターと学習塾の講師を“掛け持ち”しているのだが、昼夜問わず取材に追われるテレビの番組製作スタッフが、仕事の片手間に塾講師や塾生の世話が出来るほどの時間を取れるとは、とても思えない。教え子に手を出したと言われる政志の内面は理解出来ないし、だいたい素人相手に避妊の手立ても講じないとは、呆れるばかりだ。

 萌の父親は定職に就いておらず、公共料金や社会保険費も払えないほどの貧乏暮らし。しかし、なぜか娘を(月謝が高いはずの)学習塾に通わせている。くだんのイジメ自殺事件は、さんざん深刻さをアピールした挙句に、腰砕けするような“結末”しか用意されていない。由宇子(及びその仲間)と対立する局の責任者も、描写が通り一遍で訴求力不足。

 結局はマスコミの独善もイジメ問題の根深さも、社会的格差や教育問題も、何ら深く突っ込まれることなくエンドマークを迎えてしまう。しかも、2時間半という長尺だ。キャラクター設定を見直してエピソードを整理すれば、あと30分は削れたのではないか。脚本も担当した春本雄二郎監督の仕事ぶりは感心せず、ここ一番の盛り上がりに欠ける。

 主演の瀧内公美は相変わらずの熱演を見せるが、筋書きが要領を得ないので独り相撲の印象しかない。あと関係ないけど、彼女は全編地味なセーターと地味なアウターに身を包んでいるが、何か意味があったのだろうか。光石研に川瀬陽太、丘みつ子、松浦祐也、河合優実ら脇の面子のパフォーマンスは良好ながら、作品自体が低調なので効果が上がらず。とにかく、社会派作品を撮りたいのならば、もっと真摯に題材に向き合えと言いたい。

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