goo blog サービス終了のお知らせ 

団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

全国大陶器市

2011年11月04日 | Weblog

 外に出たがらない妻が珍しくチラシ片手に書斎に入ってきた。私は妻が行きたいと言い出すセール、催物、行事は、私の評価において低いものが多い。加えて駐車場がないとか少ないとか混むとか駅からの乗継が不便なところだと過去の経験から学んでいる。手渡されたチラシは「全国大陶器市 全国の有名産地 窯元のやきものが一挙に勢ぞろい いいモノ見つかる50万点」とあった。

 実は先日鎌倉での勉強会に参加した折、会場への途中小町通りにある飲食店の店前で店が使っていた陶器類を机に並べて売っていた。中々の陶器があった。私は有田焼き、九谷焼き、備前焼きなどいう産地や窯元などの知識や素養がない。陶器を選ぶ時、ただ自分が作る特定の料理を盛って調和が取れるかだけを考慮して買う。とても気に入った3枚セットの皿があった。直径10センチぐらいで白地に5ミリ幅の緑色の縁が塗られ、さらにその上に金色で2ミリ幅に縁取りされている。気に入った。ちょうどその時店主らしい男性が店の中から出てきた。値段を尋ねると「それは品物がいいので3枚で7千円です」と答えた。私はいつもの早とちりで「この店は経営がうまくいかず、店じまいするのだろう。可哀相だな」と自分勝手に受け止めていた。財布を調べると5千円札が一枚しかなかった。勉強会の会費とそのあとの食事の費用ギリギリだ。勉強会が終ってから銀行で金を降ろしてから買おうと決めた。店主は「いいものから売れちゃいますよ」と商売上手な言葉をかけた。勉強会の後、いつものように私はすっかり陶器のことを忘れていた。家に帰って来て思い出した。次の勉強会でその店に行くと、その店は何もなかったように平常営業していた。もちろん店頭に陶器は並んでいなかった。

 大陶器市の会場へは車に装備されたナビに従った。私の車のナビは頼りがいがなく、まったく私は信用していない。今回もとんでもない狭い路地に誘導された。やっとことで方向転換して、あとは私のカンで会場にたどり着いた。頼みもしないのに、私の車のナビは近道優先で安全を無視する。腹立たしい。駐車場の入り口の前で5,6台が路肩に並んで入る順番を待っていた。相当な賑わいのようだ。車をとめて会場に向かった。球場のグランドでやっているのではなく、球場の周りに併設された公園の広場だった。大型のテントでTの字型に左右二列に陶器のテントが並び、突き当たりに物産店が並んでいた。あまりの数の陶器に目がくらんだ。最初に私は鎌倉で買いそびれた皿を探そうと歩いた。それだけを目指したので歩きやすかった。しかし一つとして、あの皿に似たものを見つけることができなかった。あきらめて二周目は、以前から欲しかった取り皿を探した。有田焼きの店で気に入ったものを見つけた。

 店には店主らしき男性がひとりしかいなかった。その人は接客中だった。客は執拗に店主に値段をまけるように交渉していた。買わずに客が出て行くと、「3千円でも高いだって。作るものの身に成ってみろってんだ」と吐き捨てるように言った。店主は自分の工房で土をこね、ロクロを回して絵付けして窯で焼く。その工程は、部外者にとって気の遠くなるような時間がかかる。窯を開けても売り物にならない不良品も出る。できた自信作を積み込んでこうして全国をトラックで他の産地の業者とキャラバンを組んでまわる。私は、職種は違うが職人だった父を知っているので、彼の言ったことを理解できる気がした。よくモノを買うとき、値切る人がいる。職人は自分の仕事に誇りと意地を持っている。その仕事を客がつける値段で判断されると思い込んでいる傾向がある。昨今のデフレ経済で100円ストアに始まる値段の下落は、職人にとって辛いものがあるのだろう。私は気に入ったものなら、値段にこだわらない。本当に欲しいモノを探し当てるまでに、エネルギーと時間を使うので、自分が求めていたモノと出会うと嬉しくて値段が見えなくなる。当然そのモノとの出会いに時間がかかるので、それに対する予算も徐々に格上げされる。一年二年待つことがザラにある。今回、自分の料理を盛り合わせるのに私の狙いや想いが一致したのは、買いたいと思い初めて一年半が過ぎている。久々の陶器購入が決断された。先の客で失望していた店主が、まけろとも言わぬ私が素直に買うのに気を良くして、丁寧に包装してくれ、私が迷っていたセットを手で指し示しながら「あと4日ここにいます。またぜひおこしください。お待ちしております」と送ってくれた。

 帰宅途中、家の近くの食料スーパーに寄った。入り口を入るとそこで陶器大放出セールと銘打ってワゴンに私が陶器市で買ってきたのと同じサイズや形もある山積みされた皿や小鉢があった。大きく「全品200円大特価」と書かれていた。私は,陶器市で私が陶器を買った店の店主の顔を思い出し、深呼吸してから通り過ぎた。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« まつ毛 | トップ | ブータンシボリアゲハ »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事