現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

平澤信一「『風の又三郎』の新しい課題」

2016-09-20 08:21:52 | 参考情報
 四季派学会・宮沢賢治学会イーハトーブセンター合同研究会 ―宮沢賢治から「四季」派へ―で行われた研究発表です。
 研究発表要旨は以下の通りです。
「宮沢賢治が晩年に執筆し、未完成のまま遺された少年小説『風の又三郎』には、よく知られた「三年生」の問題というのがある。草稿冒頭の分教場の記述に、作者は推敲時に「三年生がないだけで」という加筆をしているが、そのあとの部分では、三年生が何人もいることになっているという問題である。この問題については、最初の子供向け刊本である羽田書店版の坪田譲治編『風の又三郎』や、いまも書店に並ぶ岩波文庫版の谷川徹三編『風の又三郎』では、「三年生」を「一二年生」と読みかえたり「四年生」に直すなどのつじつま合わせをしようとして、かえって一部に新たな矛盾を生じていた。未来の『風の又三郎』本文では、これをどのように処置すべきか?
また『風野又三郎』「九月一日」の後期下書稿(賢治自筆)と「九月二日」以降の行間筆写稿(教え子の松田浩一筆写)は、これまで別の時期に書かれたものと推定されていたが、『新校本宮沢賢治全集』刊行後に、共通の綴じ穴が、天沢退二郎氏によって発見された。これは何を意味するのか?
『風の又三郎』をめぐる様々な未解決の問題について、考えてみたい。」
 宮沢賢治の「風の又三郎」の流布本において、「三年生問題」及び「登場人物の誤記問題」がどのように処理されているかを詳細に検討しています。
 宮沢賢治の本は、著作権が切れた関係で各社から様々な形で流布本が出版されていますが、ここでは三種の文庫本を取り上げています。
 結果として、岩波文庫は筑摩書房の校本が出る以前の研究に基づいており、ちくま文庫は校本に準拠していて、角川文庫は新校本を新かな表記にしたものを採用しています。
 発表は書誌学によるもので、使われた原稿用紙の違いや、その使い方(行間に文字を書いた場合もあります)や、さらには綴じ穴の位置まで、詳細に検討しています。
 一般の方にとっては非常にニッチに思える世界ですが、そのマニアックに検討する世界には惹かれるところもありました。
 また、有名な「風の又三郎」と最近注目されている初期形の「風野又三郎」との関係など、興味深い内容でした。
 発表が今回のテーマである「宮沢賢治から四季派へ」とは無関係だったせいか、質疑の時にだれも質問しなかったので、私が聞いてみました。
「「三年生問題」と「登場人物の誤記問題」を、流布本ではどのようにすべきとお考えですか?」
 平澤の回答は、「「登場人物の誤記問題」は結論が出ていると思いますが、「三年生問題」はまだ検討を続ける必要があります」とのことでした。
 宮沢賢治の多くの作品は未発表なので決定稿がなく、これからもこういった研究が続けられていくのでしょう。
 正直言って今すぐにはこういった深いが狭い世界へは進みたくないのですが、「現代児童文学」の研究に区切りがついたら、学生時代に、退職したら(その時は定年後(当時は55歳でした)の自分をもっと老成しているものと想像していました)やりたいと思っていた、「宮沢賢治」、「エーリヒ・ケストナー」、「プロレタリア児童文学」のいずれかのテーマに、どっぷり浸るのも悪くないなと思っています。

新編 風の又三郎 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

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