Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/8(火)東京・春・音楽祭/マキシミリアン・ホルヌング&河村尚子/落ち着いた風情の中から煌めく瑞々しい感性

2014年04月11日 00時32分52秒 | クラシックコンサート
東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2014
マキシミリアン・ホルヌング & 河村尚子


2014年4月8日(火)19:00~ 東京文化会館・小ホール S席 A列 22番 5,500円
チェロ: マキシミリアン・ホルヌング
ピアノ: 河村尚子
【曲目】
シューマン: アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70
ファリャ/マレシャル編: スペイン民謡組曲
      1.ムーア人の手紙 2.ナナ(子守歌) 3.カンシオン(歌) 4.ポーロ 
      5.アストゥリアス地方の歌 6.ホタ
ベートーヴェン: チェロ・ソナタ 第3番 イ長調作品69
ヴェーベルン: チェロとピアノのための2つの小品(1899)
      1.ゆっくりと 2.ゆっくりと
ヴェーベルン: チェロとピアノのための3つの小品 作品11
      1.中庸な速度で 2.非常に活気づいて 3.きわめて静かに
ブラームス: チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 作品99
《アンコール》
 フランク・ブリッジ: セレナード
 ドビュッシー: 美しい夕べ

 偶然に近い形で最前列の一番好きなポジションのチケットを入手することができたので、急遽、「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2014~マキシミリアン・ホルヌング & 河村尚子」を聴くことになった。ホルヌングさんは、バイエルン放送交響楽団の元第一主席チェロ奏者。現在はソリストおよび室内楽奏者としてヨーロッパで活躍中とのことだ。河村尚子さんについては今更説明はいらないだろう。人気、実力ともに若手のトップクラスいって良いピアニスト。もちろん、インターナショナルで、という意味でだ。私としては、協奏曲やリサイタルはこれまでたくさん聴いてきたが、室内楽分野ではほとんどなく、もちろんチェリストとのデュオを聴くのは初めてのことである。実際に、チラシなどにも期待のデュオ誕生と書かれているし、河村さんとチェロとのデュオ自体が珍しいのではないだろうか。
 ちなみに、今回の来日では、昨日4月7日、同プログラムによるデュオ・リサイタルが大阪のフェニックスホールでも開催されている。

 1曲目はシューマンの「アダージョとアレグロ」。元はホルンのピアノのための曲だが、実際にホルン版は聴いたことがない。ヴァイオリンやチェロで演奏されることが多い。ロマン趣に溢れた素敵な曲である。初めて聴くホルヌングさんのチェロは柔らかな暖色系の落ち着いた音色で、強い印象は残さないが、いかにもヨーロッパ的という感じだ。河村さんのピアノも表情豊かな表現は相変わらずで、音楽の「楽しさ」がいっぱいだ。

 2曲目は、ファリャの「スペイン民謡組曲」。歌曲集の「7つのスペイン民謡」からの編曲版で、フランスのチェリスト、モーリス・マレシャルの編曲による。この曲は、スペインをテーマにする時によく採り上げられる。原曲の歌曲版は昨年の「ラ・フォル・ジュルネ2013」で小林沙羅さんの歌唱と荘村清志さんのギター伴奏で聴いたことがあるし、パウル・コハンスキ編曲のヴァイオリンとピアノ版(チェロ版と同じ6曲)は、昨年の「東京・春・音楽祭」で松山冴花さんと津田裕也さんのデュオで「せんクラ」では川久保賜紀さんと横山幸雄さんのデュオで聴いている。他にも、ヴァイオリンとギター編曲版を、川久保さんと村治佳織さんのデュオでも聴いた。スペインの音楽だけに、ギターとの相性は良い。
 チェロとピアノで聴くのは初めてだが、低音域のチェロだと、スペイン風味が若干削がれるような気もするが・・・・。ホルヌングさんのチェロは全体的なまったりとした印象(フラットなイメージ)で、スペイン風の熱っぽさは感じられないが、洒脱で粋な感じがして、別の意味で魅力的である。一方、河村さんのピアノは弾むようなリズム感で情熱的な描き方をしているが、これは彼女の幅広い表現力の範疇であろう。

 3曲目はベートーヴェンの「チェロ・ソナタ 第3番」。傑作が多数生まれたベートーヴェン中期の作で完成度が高く演奏頻度も高い。最大の特徴は、チェロとピアノがほぼ対等の重きをなしていることだろう。
 第1楽章はガッチリとした構造のソナタ形式。雄壮な第1主題と対位法的な第2主題の可憐さの対比が、いかにもベートーヴェンらしい。ホルヌングさんのチェロは、低音が伸びやかでよく歌う。低音部もガリガリしたところがなく、柔らかい音色だけに、余計に歌う感じがするのだろう。河村さんのピアノは、ドイツ育ちらしい、ちょっと地味目ではあるが、大地に根付いたような安定感と、抑制されたロマンティシズムが素敵だ。
 第2楽章は短調のスケルツォ。ピアノが表情を変えて、立ち上がりの鋭いタッチを聴かせると、チェロがやや控え目に追いかける。長調のトリオ部分は、二人の音色が明るさを増して柔らかくなるが、スケルツォ主題に戻ると鋭いタッチに変わる。
 第3楽章は、Adagio cantabileの序奏付きのソナタ形式。序奏部分を緩徐楽章と位置づければ、緩徐楽章とスケルツォが入れ替わった4楽章形式とも考えられる。序奏のチェロはカンタービレを効かせて大らかに歌っていた。この悠然とした歌わせ方はチェロならではの魅力だ。そして、Allegro vivaceのソナタ形式の主部は軽快そのものに変わる。河村さんの弾むように躍動的なピアノが跳ね回り、迸るような生命力を感じさせる演奏は、何よりも音楽の素晴らしさを表現しているといえるだろう。ホルヌングさんのチェロも音色が軽くなり、ここでは軽快に飛ばしていく。速いパッセージの飛び跳ねるような軽快感は、超絶的な技巧でもあるが、それよりもむしろ明るく躍動的な表現力の方が素晴らしい。
 このベートーヴェンは、ドイツの伝統を受け継ぎつつも、ふたりの瑞々しい演奏が、楽曲に鮮やかな色彩を与えた、そんな印象の素晴らしい演奏であった。

 後半はヴェーベルンの「チェロとピアノのための2つの小品」(1899)と「チェロとピアノのための3つの小品 作品11」(1914)、合わせて5つの小品が続けて演奏された。1899年の「2つの小品」は、濃厚な後期ロマン派の作品だが、1914年の「3つの小品」は無調となり現代音楽ともいうべき曲想となる。同じ作曲家とは思えないほどの変貌ぶりだ。この鮮やかな対比を生む選曲の妙に思わず唸ってしまう。
 「2つの小品」のふたつのゆっくりとしたテンポの曲は、ロマンティックにチェロを歌わせる曲で、ホルヌングさんの若さが感じられる明るめの音色と、低音域から中音域を豊かに鳴らせて、抒情性を描き出していた。「3つの小品」は、無調、変拍子、不協和音と揃った現代調の短い曲で、それなりの面白さを持っている。若い演奏家により現代音楽(といっても1914年作)は、その論理性が明晰に表されていて、清々しく感じる。

 最後は、ブラームスの「チェロ・ソナタ 第2番」。4楽章構成で30分に及ぶ大曲だ。ピアノのパートもかなり重厚で、技巧的にも高度なものになっている。第1楽章はソナタ形式だが、曲全体と第1主題を構成するシンコペーションのような独特のリズムが曲全体を支配している。ホルヌングさんのチェロは、雄壮で力強さを増してきたが、節度は保たれていて、決して音を荒れさせることはなく、品位を保っている。リズム感も良く、音色が艶やかで美しい。河村さんのピアノは、派手に鳴りすぎない程度に煌びやかで、鮮やかであった。
 第2楽章は緩徐楽章。単調で息の長い旋律をチェロが歌い、その後ろでピアノが重要な和声を構築していく。さりげないようで、河村さんのヒアノは抒情性豊かに、女性的なロマンティシズムを表現していた。ホルヌングさんのチェロは、ピチカートがプツンプツンと音が詰まった感じがするのがちょっと気になった。
 第3楽章はスケルツォ楽章に相当する。短調に変わるため、急に激情的になり、チェロとピアノが激しく応酬し合う。その辺りの掛け合いは、息もピッタリだ。トリオ部分で長調に転じた時の一瞬の色彩の変化が鮮やかで素晴らしい。
 第4楽章はロンド。主題は快活で躍動的だ。とくにこの二人が演奏しているのを聴くと、内省的になりがちなブラームスが明るく楽しげに聞こえてくるから面白い。とくに河村さんのピアノは、ドイツ的な落ち着きはあるものの、常に音楽を楽しんでいるようなところがあり、本質的に陽性である。明瞭闊達、生命力に溢れたブラームスになった。

 アンコールは2曲。1曲目はイギリスの作曲家フランク・ブリッジの「セレナード」。ちょっと憂いを秘めたロマンティックな小品である。2曲目はドビュッシーの「美しい夕べ」。こちらはお馴染みの印象主義の傑作だ。ホルヌングさんのふわりとしたチェロが、ピアノの美しい和声の流れとうまく絡み合っていた。

 今日のホルヌングさんと河村さんのデュオは、全体に音楽の作り方としては若い演奏家らしい瑞々しさに溢れていた。その中で、高い完成度を求め合った、いったところだろうか。決して派手にならないように、常に抑制的ではあるものの、時折囲みからはみ出すような煌めきがある。演奏の質感は極めて高いのに、それを聴くものに押しつけて来るようなところがなく、大らかに包み込まれてしまうというか、時間と空間を共有しているんだ、という共感が得られる。何とも言えない、心温まるような充実した音楽であった。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 4/5(土)東京・春・音楽祭『ラ... | トップ | 4/11(金)読響/気楽にクラシッ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事