Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/15(金)東京・春・音楽祭2013/松山冴花&津田裕也/スペイン音楽の魅力を超絶技巧で余すところなく

2013年03月17日 02時51分22秒 | クラシックコンサート
東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2013-
ミュージアム・コンサート「エル・グレコ」展 記念コンサート
vol.1 スペイン音楽紀行 ~松山冴花(ヴァイオリン)


2013年3月15日(金)14:00~ 東京都美術館 講堂 自由席 1列 13番 2,000円
ヴァイオリン: 松山冴花
ピアノ: 津田裕也
【曲目】
グラナドス/クライスラー編: アンダルーサ ホ短調 作品37-5(《スペイン舞曲集》より)
アルベニス/クライスラー編: タンゴ 作品165-2(《スペイン》より)
ファリャ/クライスラー編: スペイン舞曲(歌劇『はかない人生』より)
ファリャ/コハンスキ編: スペイン民謡組曲
      1.「ムーア人の織物」 2.「アストゥリアアス地方の歌」
      3.「ホタ」 4.「ナナ(子守歌)」 5.「カンシオン(唄)」 6.「ポーロ」
トゥリーナ: ナバラへのオマージュ 作品102
サラサーテ: アンダルシアのロマンス 作品22-1(スペイン舞曲集より)
サラサーテ: ボレロ 作品30
サラサーテ: グノーの「ロメオとジュリエット」による演奏会用幻想曲 作品5
サラサーテ: 序奏とタランテラ 作品43
サラサーテ: カルメン幻想曲 作品25
《アンコール》
 サラサーテ: サパテアード 作品23-2

 「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2013-」が本日より開幕した。上野の東京文化会館を中心に、近隣の旧東京音楽学校奏楽堂(東京藝術大学)や上野学園石橋メモリアルホール、さらには東京都美術館、上野の森美術館、国立科学博物館、国立西洋美術館など、上野周辺の様々な会場で、1ヵ月間にわたり、有料公演だけでも44回に及ぶ大小のクラシック・コンサート、そしてオペラが開催される。日本の音楽祭としては最大規模のものだ。ところが、日頃あちらこちらの沢山のコンサートに行っているので、この音楽祭をとくに意識することはあまりなかった。
 音楽祭といっても、とくに開会式のようなものがあるのかどうかさえ知らないのだが、実は今日が幕開けの初日である。訪れたのは、東京都美術館。今年が没後400年にあたるスペイン三大画家のひとり、「エル・グレコ展」が1月19日から4月7日まで開催されており、その記念コンサートとしての位置づけでのミュージアム・コンサートが美術館内の講堂で開催された。平日の午後2時からで、全自由席だが、およそ230席完売である。
 その内容は、「エル・グレコ展」にちなんで「スペイン音楽紀行」と題し、Vol.1は、お馴染みのヴァイオリンの松山冴花さんとピアノの津田裕也さんのデュオ・リサイタル。ただし、曲目は上記の通りに、すべてスペイン音楽。心浮き立つような企画コンサートである。

 さて、ステージに登場した松山さんと津田さんだが、どういうわけか松山さんは私服(?)。下の画像のように春・音楽祭に相応しい水色のお洋服で、下は黒のパンツ。ステージドレスとは違って、これはこれでカジュアルな雰囲気で素敵だ。津田さんはいつものように黒のスーツである。
 1曲目はグラナドス/クライスラー編の「アンダルーサ」。元はピアノ曲をクライスラーがヴァイオリンとピアノ用に編曲したもの。クライスラーだけに品が良い。松山さんもまだまだ大人し目に、今日の調子をうかがうように弾いている。
 2曲目はアルベニス/クライスラー編の「タンゴ」。同様にピアノ曲をクライスラーの編曲で。こちらはスペイン風のタンゴということで、ひと味違う。ゆったりとしたヴァイオリンの低音部が豊かに響いた。超絶技巧というほどでもない曲なので、ウォーミングアップというところだ。
 3曲目は、やはのクライスラーの編曲で、ファリャの「スペイン舞曲」。オペラ『はかない人生』の中で使われる曲らしい。タイトルの印象とは違って、情熱的なスペイン情緒の曲だ。松山さんのヴァイオリンもかなり調子が上がってきて、伸び伸びとした演奏になってきた。そうなると、豊かな低音部と弦の上を跳ね回る弓使いが縦横無尽になって、技巧的にも冴えてくる。
 4曲目はファリャ/コハンスキ編の「スペイン民謡組曲」。最近どこかで聴いたことがあると思ったら、今年2013年の1月~2月に聴いた、川久保賜紀さんと村治香織さんのデュオ・コンサートである(1月20日/印西市文化ホール2月2日/フィリアホール)。その時はヴァイオリンとギターのデュオにさらに編曲されていた。今日の演奏は、ファリャの原曲をポール・コハンスキがヴァイオリンとピアノ用に編曲した元の方である。スペイン音楽は、なぜか親しみやすく分かりやすいので、一度聴いただけで旋律が耳に残る。松山さんのヴァイオリンはラテン系もよく似合う。自由度が高く、音楽をいつも楽しむ姿勢に溢れている。繊細にして豪快、豊穣な音色で、歌心もいっぱい、踊り出せるような抜群のリズム感…。この曲は6曲の組曲だが、それぞれに多彩な技巧と表現も加わって、素晴らしい演奏であった。
 5曲目はトゥリーナの「ナバラへのオマージュ」。トゥリーナというスペインの作曲家は聴いたことがなかったが、この曲自体はどこかで聴いたことがあるような気がする。ナバラというのはサラサーテの故郷の名だそうで、つまりはサラサーテへの尊敬の念を表しているのだろう。そういえば、ツィゴイネルワイゼンの旋律が出てきたりする。松山さんもそろそろエンジン全開で、松山節が歌い出した。
 6曲目以降はサラサーテ尽くし。ご本家の登場といった感じだ。「アンダルシアのロマンス」は民謡の旋律を「ロマンス」風に描き出す。サラサーテにしては技巧的というよりは美しい旋律を大らかに歌わせる曲だ。松山さん自由度の高い演奏は、テンポを気ままに揺らしながら、旋律を大きく歌わせて行く。大陸的なスケール感が素敵だ。
 7曲目の「ボレロ」は、陽気で弾むような曲。松山さんのヴァイオリンは中音域がとくに明るい音色で、抒情的な旋律によく似合う。随所に現れる超絶的な技巧もサラリと弾きこなすのはお見事。
 8曲目の「『ロメオとジュリエット』による演奏会用幻想曲」という曲は知らなかった。グノーのオペラから主題を取って演奏会用に作曲された曲で、オーケストラ伴奏版もある。この曲は原曲がグノーだけに、感傷的な甘い旋律が、オペラの場面転換のように次々と表れてくる。もちろん名アリアの「私は夢に生きたい」も出てくる。この有名な旋律がサラサーテの手にかかってヴァイオリンによる変奏曲風に変わっていくのだ。
 9曲目は「序奏とタランテラ」。ヴァイオリン演奏するにあたって技巧の限りを尽くしたような曲である。右手も左手も筋肉に乳酸が溜まる曲だ。松山さんの演奏技巧については昔から定評のあるところで、どんな超絶技巧曲でも、サラリとこなしてしまう。もちろんただ上手いというだけではなくて、低音部の豪快な音量や装飾的な速いパッセージの流麗さ、高音部やフラジオレットに描き出すニュアンスなど、一言でいえば松山節、具体的に言えば非常に多彩な表現力の持ち主だと言うことだ。
 最後が「カルメン幻想曲」。オペラ『カルメン』自体がスペインを舞台にしているのだから、ワックスマンの方でも本日のテーマからはずれないと思うが、やはりサラサーテで統一して、徹底的に超絶技巧を楽しませて頂く方が良いに決まっている。またこの曲ほど、松山さんの個性を思いっきり前面に押し出して映える曲もないだろう。自由に生きるロマの女のイメージとは必ずしも一致するものではないが、松山さんの自由度の高い演奏は、個性的ではあっても自己中心的な感じはしない。聴く者が思い描いているイメージを想像以上に増幅させた演奏を聴かせてくれるので、個性的な演奏であっても、我が儘でもなければ嫌らしく感じることもない。こればかりは実際に演奏を聴いた人にしか分からないだろう。一度聴いただけで、大抵の人は松山さんのファンになってしまうことからもそのことがよく分かる。先日のグリーンホール相模大野でのリサイタル(2013年2月10日)で初めて松山さんを聴いたという人が、さっそく今日のコンサートにも来ていたくらいなのである。

 アンコールもサラサーテで「サパテアード」。これもまた陽気で楽しく、そして超絶技巧の塊のような曲。実は今日のコンサート、途中の休憩も無しで、60分間くらいの予定と発表されていたが、実際にこのプログラム内容で60分で収まるはずもなく、アンコールも入れて100分近いものとなった。とくに後半のサラサーテ尽くしは超絶技巧曲のオン・パレードで、相当に体力を消耗するはず。ニコニコ笑いながら最後まで元気いっぱいの松山さんであったが、お疲れ様でした。そして、Braaaava!!



 230名のホールのリサイタルだったが、CDも販売していたし、終演後にはサイン会も開かれた。最後まで待って、先日の相模大野の時の写真をプレゼントし、サインしていただいた。今回は津田さんとのツーショット写真。津田さんにも漢字でサインしていただいた。松山さんは、明日、ニューヨークに帰るという。今年はもう東京近郊では演奏の予定が組まれていないとのことで、しばらくはお会いすることができないようである。どこかのオーケストラで呼んでくれないものだろうか。

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