Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/20(日)川久保賜紀&村治佳織デュオ・コンサート/印西市/ヴァイオリンとギターの不思議で素敵な世界

2013年01月21日 01時48分39秒 | クラシックコンサート
印西市文化ホール主催事業/川久保賜紀&村治佳織デュオ・コンサート

2013年1月20日(日)14:00~ 印西市文化ホール 指定席 A列 12番 3,000円
ヴァイオリン: 川久保賜紀
ギター: 村治佳織
【曲目】
モーツァルト: ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K.423
パガニーニ: 協奏的ソナタ イ長調 作品61 MS2
バルトーク: ルーマニア民俗舞曲
      1.「棒踊り」 2.「飾り帯の踊り」 3.「足踏みの踊り」
      4.「ブチュムの踊り」 5.「ルーマニア風ポルカ」 6.「速い踊り」
ファリャ: 7つのスペイン民謡集より(スペイン民謡組曲全6曲)
      1.「エル・パーニョ・モルーノ(ムーア人の衣装)」 3.「アストゥリアアス地方の歌」
      4.「ホタ」 5.「子守歌」 6.「カンシオン」 7.「ポロ」
ピアソラ: タンゴの歴史
     1.「酒場1900」 2.「カフェ1930」 4.「現代のコンサート」 3.「ナイトクラブ1960」
《アンコール》
 パガニーニ: カンタービレ ニ長調 作品17 MS109(ヴァイオリンとギター編)
 クライスラー: 美しきロスマリン

 ヴァイオリンの川久保賜紀さんとギターの村治佳織さんのデュオによるコンサートのツアーは、1月6日の知立から始まり、豊橋、都南(岩手県)、盛岡とまわって、今日の印西市、この後、東北大学、横浜(フィリアホール)が予定されている。東京では開催されないので、意外に近い印西市とフィリアホールに席を確保した。いつものように最前列である。
 川久保さんは毎度お馴染みだが、村治さんのギターをナマで聴くのは、実は初めてである。今回はソロのリサイタルではないし、プログラムを見れば分かるように、すべてがヴァイオリンとギターのデュオである。その中で、パガニーニの「協奏的ソナタ」以外は、いずれも元曲からヴァイオリン用に編曲されたもので、さらにギター伴奏へと編曲されている。従って、今回の曲目では、ギターのパートは主に伴奏的であり、そういう意味では、ギターの魅力を発揮しきれなかったのが残念である。プログラムの中に、ヴァイオリンとギターのソロの曲も加えれば、より魅力的なコンサートになったのではないかと感じた。

 さて実際のコンサートだが、ヴァイオリンとギターという組み合わせは珍しいので、どのようなステージになるのか想像を膨らませていた。実際は腰掛けて演奏するギターが右側、左側のヴァイオリンは立って演奏された。ちょうどヴァイオリンとチェロの二重奏のような感じだ。そして、ヴァイオリンとギターの音量差を補うために、ギターにのみPAを備え、演奏一の後方にスピーカーが置かれていた。それでも気にならない程度の拡声に留めていたため、ギターの音量は控え目であった。

 1曲目はモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲」。当然、ヴィオラのパートがギター用に編曲されている。音が延ばせるヴァイオリンと、延ばせない代わりに和音が奏でられるギターとのアンサンブルは、ちょっと不思議な世界。ギター独特の柔らかい音色では、ピアノの伴奏ともまた違って、全体が優しい雰囲気になる。川久保さんの滑らかなヴァイオリンとのアンサンブルで、いかにもサロン的な優雅なモーツァルトであった。
 2曲目は、本日唯一のヴァイオリンとギターのための曲、パガニーニの「協奏的ソナタ」である。ヴァイオリンの超絶的な名手として知られるパガニーニだが、実は幼少の時よりギターにも親しみ、ヴァイオリンとギターの二重奏曲だけで32曲も書いているのだそうだ。この「協奏的ソナタ」は1803年頃の作品。やはりヴァイオリンを中心にギターの伴奏という構成に近いが、2つの楽器が対話したり絡み合ったりして、魅力的だ。ソナタ形式の第1楽章の第2主題などはパガニーニらしい伸びやかで陽気な旋律である。川久保さんのヴァイオリンは流麗だが、所々にキリッとしたアクセントを付けて、抒情的な中にも情熱的な部分を覗かせていた。第2楽章はギターの役割が増して、掛け合いの息遣いが素敵だった。第3楽章はスケルツォのような諧謔性と明るさに満ちていて、ギターの音色が活き活きとした色彩感を見せた。陽気で素敵な演奏であった。
 3曲目は「ルーマニア民俗舞曲」。これはバルトークの有名な曲で、元はピアノ曲らしいがヴァイオリン用の編曲は比較的お馴染みである。ピアノ伴奏に比べるとギター伴奏では音量差もあってインパクトに欠ける感じがするが、一方でギターの方が民族舞曲的な雰囲気が強く出るので、意外に面白い。第3曲の「足踏みの踊り」はヴァイオリンがフラジオレットで演奏され、川久保さんの技巧がさりげなく冴えていた。土の香りの強い東欧の音階の曲としては、二人の演奏はむしろ洗練されて美しすぎたなどといったら贅沢であろうか。

 後半はファリャの「7つのスペイン民謡集より」。パウル・コハンスキのヴァイオリン用の編曲による「スペイン民謡組曲」全6曲として演奏されることが多いが、これももちろんピアノ伴奏の編曲。ギター伴奏だと、ヴァイオリンのピチカートとギターの掛け合いが面白い。ヴァイオリンのピチカートもかなり大きな音が出ることが分かった次第。スペインの陽光溢れるイメージと民族的な旋律の融合した感じが独特の曲想となっているが、ヴァイオリンの陰影のある音色と、ギターの情熱的な演奏の対比なども新鮮な響きだった。
 最後はピアソラの「タンゴの歴史」。今日のプログラムは各曲ともお国柄が違う。オーストリア、イタリア、ルーマニア(ハンガリー)、スペイン、そして最後はアルゼンチンだ。4曲の組曲だが、各曲の標題通りに、時代を追ってタンゴがよく演奏されていた場所をイメージした作品ということだ。元曲はフルートとギターのための曲。今日の演奏では曲順が変えられ、第3曲と第4曲が入れ替えられた。第1曲「酒場1900」ではギターが楽器を叩いたりして、陽気な酒場のイメージが楽しい。ギターはもとよりヴァイオリンも活き活きと陽気に踊るよう。第2曲「カフェ1930」は暗いイメージから一転してロマンティックな旋律が美しい。先に演奏された第4曲「現代のコンサート」は、現代音楽っぽい曲想で、タンゴも現代音楽化が進んでコンサートでしか採り上げられなくなってしまったということだろうか。最後に演奏された第3曲「ナイトクラブ1960」は、タンゴが爛熟期にあり、豊潤で頽廃的でもある。ヴァイオリンの切なげな音色とギターのアルベッジョが雰囲気を盛り上げる。フィナーレは激情的で、コンサートの締めくくりに合わせて、曲順を変えたのだろう。

 アンコールは2曲。パガニーニの「カンタービレ」は、美しく抒情的な旋律が有名な曲。川久保さんのヴァイオリンの流れるようなレガートがことのほかエレガントに聞こえたのは、優しい音色のギターの伴奏も一役買っていたに違いない。クライスラーの「美しきロスマリン」も人気のアンコール・ピース。ギター伴奏もなかなか素敵である。

 今日は初めて聴いたヴァイオリンとギターの共演。どんなものになるのか興味津々であったが、意外と素直に楽しめた。性格の異なった弦楽器のコラボレーションだったが、意外と相性は良いみたいだ。ただ難点は、ふたつの楽器の音量差が大きいこと。ギターの音量がもう少し大きい方が、音楽的にはバランスが取れるのではないかと感じたが、ギターをPAで拡声するのは良いとしても、クラシック音楽の世界でスピーカーから流れる音というものには潜在的に違和感を感じてしまう。その辺りの問題はさておき、コンサート自体は素晴らしい演奏で、とても楽しいものだったのだから、まあ良しとしよう。

 終演後は恒例のサイン会。地方での公演、そして一般的な意味での村治さんの知名度は抜群で、村治さんの方には長い列ができたのに、川久保さんの方は意外なくらい少なく…。そして今回は、写真も握手もNGであった。これも村治さん効果ということだろうか。
 今日は川久保さんとお話しする時間があればと思い、プレゼントにCDを用意してきた。それは2年前の2011年4月、震災直後でコンサートの中止が相次いでいた頃、東京フィルハーモニー交響楽団の東京オペラシティ定期シリーズで、川久保さんがヴィヴァルディの「四季」を演奏した時の録音である。後日NHK-FMで放送された時に録音しておいたものに、オリジナルのジャケットをデザインしたもの。川久保さんも放送があったことはご存じなかったらしく、喜んでいただけた。画像は自分用にサインをいただいたものである。
 川久保さんはこの後、2月2日にフィリアホールで今日と同じプログラムがある。その後は、6月のドレスデン・フィルとの共演、9月の東京交響楽団との協演などが予定されていて、もちろん最前列で聴く予定だ。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1/19(土)東京交響楽団オペラ... | トップ | 2/2(土)フレッシュ名曲/日本... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お疲れさまでした (こみ)
2013-01-23 01:17:17
ヴァイオリンとギター、改めて珍しい組み合わせですね。最前列で聴けるなんて尚更貴重な体験でした。ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事