今朝の朝刊の一面には、硬骨の演劇人、“木下順二さん死去”の文字が記されていました。
漢字博士の白川さんの死を惜しむコメントを入れられた香HILLさんへの返事に、「何故か年の終わりが近くなると、偉大な仕事を遺された方の訃報が決まってあります。」と、書いたばかりでした。
山本安英の演ずる“つう”は、能の舞台に通う幽玄の雰囲気をかもして、舞台装置も極度に省略され、抽象化されて美しく、照明も優雅でした。
全国1037回の公演を重ね、オペラでも上演されています。
「民話劇の無垢な魂をうたい、戦争責任と人間のモラルを厳しく問い、天空から人の営みと運命を見つめる壮大な叙事詩劇に到達した、戦後新劇の良心だった。」
朝日新聞のこの記事が簡潔に、不足なく彼の業績を纏め上げています。
私たち世代にとっては、青春の日の思い出の一齣と重なり、未熟な思考に指針をもたらすよき代弁者でもあった忘れがたい人です。
最後まで妥協とは無縁の、硬骨の生涯を貫いて、今年4月、「審判」上演の際の、「過去というものが、きれいさっぱりと清算できるものでない以上、清算への努力は怠りたくない」という言葉を残されています。
あらゆる名誉ある賞、勲章の類を固辞し、芸術院会員にとの選出も辞退されたその生き方に、今、あらためて頭を下げ、心よりご冥福を祈ります。
今年も巨きな星が子午線のかなたに翔び去りました。