孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  経済崩壊、抗議行動弾圧、不正選挙・・・それでも続くマドゥロ政権

2017-10-21 22:46:15 | ラテンアメリカ

(政府寄りの州知事候補者を支持するスローガンを叫ぶ有権者たち【10月16日 CNN】 チャベス以来の政権支持者が存在するのも事実です。)

崩壊しない強権支配体制 権力の座を追われた独裁者のうち民衆の反乱によって追放されたのはわずか7%
下記記事は、“一向に現実のものとならない「中国崩壊論」”に関するものですが、引用部分は中国だけでなく、多くの問題を抱えながらも維持される強権支配体制全般についても当てはまるものでしょう。

****共産党支配が崩壊しない理由****
何度も終焉を予測されながら一党支配が続いているのは体制崩壊の「必要条件・十分条件」がそろわないから
共産党は周到な対策を重ねるが永続を信じるのは危険だ

・・・・(中国が崩壊するという)一連の予測が外れた原因は、タイミングのまずさだけではない。政治体制の崩壊は、それが民主的なものであれ独裁的なものであれ、もともと起こる確率が極めて低いのだ。
 
英ケンブリッジ大学の調査によれば、政治体制が崩壊する確率は平均して2.2%前後。つまり、誰かが体制崩壊を予測しても、100回中98回までは外れるということだ。
 
独裁体制が民衆蜂起によって崩壊する確率も同様に低い。別な調査によれば、1950~2012年の間に権力の座を追われた独裁者は473人いるが、そのうち民衆の反乱によって追放されたのはわずか33人(7%)だ。
 
体制崩壊の事例を精査してみると、独裁体制の終焉には必要条件と十分条件の両方がそろわなければならない。
 
必要条件は、比較的に分かりやすい。
インフレ率や失業率の上昇、経済成長率の低下などだ。経済的な恩恵がなければ民衆は独裁体制を支持せず、反乱
が起きやすくなる。支配層のエリートによる腐敗や権力乱用も、同様に民衆蜂起のリスクを高める。

体制崩壊の引き金は予測不能
まずは社会的な緊張が高まり、そこにラジカルな反体制の政治勢力が出現すること。一般論として、これが革命の必要条件だろう。また軍事政権などの強権的な支配層が無能で非効率的な統治を続けていれば、そうした体制を支えてきた産業界のエリートから見放され、結果として体制崩壊を招く可能性が高まる。
 
しかし、こうした必要条件だけでは体制崩壊の「引き金」にならない。無能な独裁政権が上述のような弱みや失敗の兆候を見せながらも権力の座を維持している例はたくさんある。
 
つまり、体制崩壊には必要条件に加えて、いくつかの十分条件がそろわねばならない。ところがこちらは概して偶発的な事象であり、予測不能だ。
 
筆者が70年代以降の体制崩壊の歴史を通覧した限りでは、一般に独裁政権崩壊の直接的な引き金となる事象には4つのタイプがある。

選挙での不正、軍事的な敗北、近隣国での独裁体制崩壊、そしてアラブの春のような偶発的暴動の民衆蜂起への拡大だ。

ちなみに、97~98年のインドネシアの例を除けば、経済危機が体制崩壊の引き金となったことは一度もない。この点は留意しておくべきだろう。(後略)【10月24日号 Newsweek日本語版】
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無力感も漂うベネズエラ情勢
南米・ベネズエラのマドゥロ政権は、国民生活を犠牲にする深刻な経済危機を抱えながらも、また、野党勢力の強い抗議行動を受けながらも、いまだ存続しています。(その混乱ぶり、批判に対する弾圧等については、これまでも再三取り上げてきましたので、今回はパスします。)

餓死者が出ているとか、三食満足に食べられない国民も少なくないとか言われる経済の崩壊、無能で非効率な支配体制、これに強く抗議する野党・国民の抗議・・・・等々はあるものの、それでもマドゥロ政権は終わりません。

そうした“悪政”だけでは、政権は崩壊しないこと、崩壊に至るには“引き金”が必要なことを上記は論じています。

体制崩壊の“引き金”要因のいくつかが挙げられていますが、ベネズエラの場合、それすらも決め手にはならないようにも見えます。

後述のように“選挙での不正”に対する批判も政権にはこたえないようです。
軍上層部も政権と既得権益を分け合っており、政権に立ち向かう気配はありません。
隣国キューバの緩やかな方向転換も、あまり影響していないようです。
120人超の死者を出した抗議行動も“力”でねじ伏せられたように、今は静かになっているとも。
軍・警察だけでなく、政権の意を受けた民兵組織が、抗議行動うを封じ込める“暴力装置”にもなっています。

国内抗議行動は“力”で抑え込まれ、野党が多数を占める国会は強引な改憲・選挙で権限を奪われ、南米・アメリカ各国の批判も効果を示すこともなく、内外に無力感すら漂う感もあります。

知事選挙 予想を覆す与党勝利 更に野党側に“踏み絵”を迫る
ベネズエラでは15日、23州の知事選が行われました。与党はこれまで23州のうち20州を押さえていましたが、有権者は経済危機を受けた食料不足などに強い不満を感じており、世論論調査では野党連合の優勢が示されていました。しかし、ふたを開けてみると・・・・“与党勝利”とのこと。

****ベネズエラ知事選、与党が勝利 反政府デモ再燃の恐れ****
国会の権限を上回る制憲議会が招集されマドゥロ大統領の強権的な姿勢が強まる南米ベネズエラで15日、全23州の知事選が行われ、選挙管理当局は少なくとも17州で与党候補が勝利したと発表した。

野党連合は「不正があった」と強く反発しており、沈静化していた反政府デモが再燃する可能性もありそうだ。
 
報道によると、選管が発表した投票率は61・14%。政府の経済政策の失敗で物不足やインフレが深刻化するなか、事前の世論調査や専門家の分析では野党が優勢と見られていた。
 
野党側は「選挙結果は認めない。全プロセスの検証を求める」と批判。選挙前に一部の候補の資格が取り消され、直前になって投票所の変更があったとも訴えており、街頭で抗議活動をする姿勢を示している。
 
勝利宣言したマドゥロ氏は「ベネズエラでは民主主義が完全に機能していることを(この選挙で)世界に示した」と語った。
 
同国では7月末、野党が参加を拒否した制憲議会議員選挙が強行され、政権支持者のみで構成する制憲議会が8月に事実上の全権掌握を宣言。約4カ月間続いた抗議デモで120人以上が死亡し、野党は「独裁だ」と批判している。【10月17日 朝日】
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野党連合幹部は“108万人の有権者が投票を邪魔されたり、少なくとも9万票以上の野党票が無効となったりしたと主張。「政権側は民意を否定するため、不正、暴力、ごまかし、強要の道を選んだ」と非難した。”とのことで、信頼できる国際監視団の下での選挙全体の検証を求めていますが、もちろん政権側がこれに応じることはありません。

応じないどころか、野党側が勝利した州について、与党主導の「制憲議会」を認める“踏み絵”を迫る形で圧力を強めています。

****ベネズエラ 知事選挙めぐり大統領と野党側の間で混乱****
南米ベネズエラのマドゥーロ大統領は20日、今週行われた知事選挙の野党側の当選者について、大統領派のメンバーで構成する「制憲議会」を認めなければ、野党側が当選した州で再選挙を行うとともに、当選者を政治的に追放すると述べるなどけん制し、選挙をめぐる混乱が続いています。

ベネズエラでは15日、全土の23州で知事を選ぶ選挙が行われ、与党側が18の州、野党側が5つの州で勝利を収めました。

これを受けて、マドゥーロ大統領は20日の演説で、「当選者は制憲議会を認めないといけない。さもなければ、野党側が当選した州で再選挙を行うとともに、今回の当選者を政治的に追放する」と述べました。

マドゥーロ大統領は今回の知事選挙の前から、大統領派のメンバーで構成する国の最高権力機関、制憲議会で宣誓をしない当選者は知事の職に就けないとしていました。

しかし、野党側は制憲議会は違憲だとしていて、その存在を認めておらず、当選した5人は制憲議会で宣誓をしていません。(後略)【10月21日 NHK】
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“選挙をめぐる混乱が続いています”とは言うものの、これまでの経緯を見ると、結局政権側に抑え込まれることになるのでは・・・とも思えます。

決め手を欠く国際圧力
国際的な圧力もありますが、軍事介入をも示唆したようなアメリカ・トランプ政権と南米の不協和音もあったりして、なかなか・・・。
ブラジルに代表されるように、南米各国とも国内に不正疑惑を抱えており、ベネズエラどころではない事情もあるでしょう。

****カナダ政府、ベネズエラ問題で外相会議を開催  圧力強める****
カナダ政府は20日、ベネズエラの政治的な混乱に対応するため、米州各国による緊急外相会議を開催すると発表した。強権姿勢をさらに強めるマドゥロ政権への圧力について話し合う。

15日投開票の統一地方知事選では事前の世論調査を覆し与党が圧勝した。野党連合が不正の証拠を示すなど、選挙自体の公正性に疑いが持たれている。
 
会議は26日にトロントで開催する。ブラジルやアルゼンチン、メキシコなど主に中南米の国が参加する。カナダはマドゥロ政権に独自の経済制裁を科すなど圧力を強めている。中南米の国はベネズエラ政府を非難するものの制裁まで踏み込んでおらず、会議では具体策が焦点となりそうだ。
 
ベネズエラの野党連合は20日までに、選挙管理委員会が発表した投票数と投票所での数字の差異をもとに票数操作が行われていたと発表した。一方、政権側は「選挙は公正に行われた」と無視する構えを崩していない。【10月21日 産経】
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デフォルトになっても・・・・
このままいくと、経済崩壊状態のベネズエラはやがて借金を返済できないデフォルト(債務不履行)に追い込まれるのではとも予想されます。

通常なら、デフォルトに至れば政権は崩壊しますが、マドゥロ政権の場合はどうでしょうか?

“国会を制圧した今となっては、万一デフォルトしても、86年にデフォルトしたキューバがそうであったように、債務免除あるいは一部免除や支払い延期の交渉を行うことで、政権は生き延びよう。”【10月17日 WEDGE】

資金的にマドゥロ政権を支えてきた中国の反応次第でしょう。ただ、中国はマドゥロ大統領の首のすげ替えは求めても、体制の転換は求めないのでは?

デフォルトとなると国際金融が混乱しますので、IMFは救済策の検討に入っているようです。

****デフォルト目前、ベネズエラ救済を検討し始めたIMF****
必要な支援は年間3兆円超?(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年10月17日付)

国際通貨基金(IMF)が今後あり得るベネズエラ救済に向けて準備を始めた。

救済には年間300億ドル(約3兆3600億円)以上の国際支援が必要になる可能性があり、併せて世界でも特に複雑な債券のリストラ(再編)が行われ、IMFの規則が大きな試練に見舞われることになる。
 
ベネズエラが2007年にIMFとの関係を絶って以来、両者には正式な関係がなく、IMFは過去13年間、現地調査を実施していない。
 
IMFの高官らは、差し迫った救済はないと主張。公にはIMFは単に通常の調査を行っているだけだと述べ、時折、ベネズエラからのデータの要求に職員が対応することを除けば、ベネズエラ政府とは一度も意味のある接触をしていないと強調している。
 
だが、IMFのスタッフはこの数か月、仮に実現したら、大きな批判を浴びたギリシャへの関与より金銭的に規模が大きく、政治的に複雑になる可能性がある救済に向け、静かに数字を分析してきた。(中略)
 
ベネズエラは15日に23州の知事選を実施した。
(中略)「ほかの人たちと同じように、我々もベネズエラの劇的な経済的・人道的状況について非常に懸念している」
 IMFはこう述べた。(中略)
 
すでにベネズエラ政府関係者に選択的な制裁を科しているトランプ政権は一時、データ共有の義務に違反したことでベネズエラに制裁を科すことを検討するようIMFに働きかけていた。
 
だが、その後、そうした対策には効果がなく、将来の救済を複雑にするだけだと判断した。
 
ベネズエラは事実上、国際資本市場から締め出されており、今年、米ゴールドマン・サックスに売却して物議をかもした債券は、推定利回りが48%にのぼっていた。対照的に、IMFは大抵、2%の金利で融資している。
 
だが、IMFによるベネズエラ救済の最大の障害は、辞任を迫る圧力が高まるなかで権力の座にしがみついているニコラス・マドゥロ大統領の政府だ。街頭デモでは今年、125人以上の死者が出ている。
 
IMFの救済プログラムは、政府からの支援要請にかかっている。しかし、「対話が一切行われていないため、(どんなプログラムについても)時間枠が不確実になる」とあるIMF高官は言う。
 
「それに加え、多くのことが(政治的な)体制移行の性質に左右される。もし移行がぐちゃぐちゃで、コンセンサスがないとすれば、国際社会はこれ以上無駄金をつぎ込もうとしないだろう」(中略)

それでも、少なくとも1つの問題は、すでに片づいているのかもしれない。IMFのプログラムは、緊縮と関連づけられてきた。だが、ベネズエラはすでに、劇的な消費の落ち込みに苦しんでいる。
 
米ハーバード大学国際開発センター(CID)の経済学者、ミゲル・アンヘル・サントス氏は、「多くの意味で、最も痛みの大きい調整はすでに起きた」と話している。【10月19日 JB Press】
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IMF救済がマドゥロ政権、もしくは首をすげ替えただけの政権の延命につながるのでは考えものです。
ただ、これ以上の経済混乱で食料輸入も途絶え、国民生活が更に圧迫されるのも困ります。難しいところです。

チャべスの威光とキューバの後援で地位を得、“革命を成就した”マドゥロ大統領
「このまま飢え死にするよりは・・・」という民衆蜂起に至るギリギリのところまで追い込まれなければ、体制は変わらないということでしょうか。

マドゥロ大統領がバス運転手出身ということは広く知られていますが、それは職場での地道な活動の結果として重きをなすようになったという話ではなく、単に共産主義革命のオルグのためバス運転手として潜入しただけで、キューバ・カストロ政権とのつながりが現在の地位をもたらしたとのことです。

インドの聖者サイババの敬虔な信者でもあるそうです。

****バス運転手から独裁者への道、ベネズエラ大統領マドゥロの正体****
・・・今回設立された制憲議会とは民主主義とはまったく無関係な存在である。今後自由選挙は実施されないし、自由な報道は完全に封じ込められる。

野党や反対派は無力感に打ちひしがれ、海外に出るか、地下に潜り散発的なテロに訴えるか、あるいは、80年以上も前にフリードリッヒ・ハイエイクが予言した、全体主義下での隷属した存在になるしかない。
 
国際的に孤立しているなどと報道されるが、そんなこともあるまい。大国の中国とロシアは必ず支援する。
 
一方アメリカはマドゥロ個人やそのとりまきへの銀行口座凍結、石油公社の債権購入禁止、政府高官のアメリカ入国禁止などの制裁を行っているが、致命的であろうベネズエラからの原油輸入を止めることはあるまい。アメリカ国内にも影響するし、ベネズエラへの影響力を失ってしまう。

ドナルド・トランプはできもしない軍事行動もオプションのひとつだと威嚇したが、それはむしろ敵に塩を送る発言だった。中南米諸国の反発を買っただけではない。
 
ベネズエラはありもしないヤンキーの軍事介入の恐怖を煽り、街の老若男女に武器を配り、100万人を動員した軍事訓練を行うことができた。素晴らしい成果である。

危機を煽る機会を与えてくれる外敵の存在は、独裁維持のための不可欠な養分なのだ。遅まきながら、日本外務省もベネズエラの民主主義の後退を懸念する談話を発表している。
 
さらに国会を制圧した今となっては、万一デフォルトしても、86年にデフォルトしたキューバがそうであったように、債務免除あるいは一部免除や支払い延期の交渉を行うことで、政権は生き延びよう。
 
今後は、すでに始まっている小グループによる軍の隆起が散発的に続いた後に反体制派学生グループと結合し、例えば「革命民主軍」(Revolución Democrática)のような地下組織が結成され、1、2年の間は軍と諜報機関による血生臭い都市ゲリラ狩りが続くことになる。
 
すなわち、チャべスは南米の領主になるという誇大妄想のもとに、石油資源を内外にばらまいて、ベネズエラの懐を空にした。

一方マドゥロは、現実から遊離したパラノイアとして、左手に遠い昔に敗北したマルクスレーニン主義、右手に聖者のサイババを掲げる。そして、チャべスの威光とキューバの後援で地位を得、ついにチャべスができなかったキューバ風共産主義国家を成立させた。革命は成就したのである。長い年月を経て、地獄にいるだろうフィデル・カストロやチェ・ゲバラの宿願がついに果たされた。
 
大統領官邸内のマドゥロの机の上には、サイババの信仰を象徴するハスの花びらから成るサルバダルマのメダルが置かれている。【10月17日 WEDGE】
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