孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  相次ぐ閣僚辞任 離脱強硬派の外相との対立 先行きが危ぶまれるメイ首相

2017-11-09 23:26:56 | 欧州情勢

(トゥスク常任議長(フレーム外)とのEU離脱に関する協議のテーブルに着いたメイ英首相(2017年10月20日撮影)。ぽつんと座る姿が孤立した立場を物語っているとしてSNSで揶揄されました。まあ、たまたま構図・タイミングの関係にすぎないのですが・・・【10月21日 AFP】)

メイ首相 EU首脳に交渉前進を「懇願」】
イギリスのEU離脱交渉は、“手切れ金”問題など離脱条件の段階で膠着しており、目だった進展はない状況が続いています。

****英EU離脱】英首相は交渉前進を「懇願」・・・・EU、将来関係の協議先送りへ****
欧州連合(EU)首脳会議は20日、英国を除く27加盟国の会合で、英国との離脱後の将来関係に関する協議開始の先送りを決定する。

メイ英首相は早期の協議入りを強く訴えたが、EU側では厳しい態度も目立った。一方、首脳らはEU強化に向けた改革議論も加速させた。
 
27カ国は将来協議の前提となる離脱条件の協議状況を確認。主要3論点のうち在英EU市民の権利保護の進展を歓迎する一方、未払い分担金問題で英側の具体的説明が不十分などとし、12月に再評価すると表明。同時にEU内で将来協議の準備に入る方針を示す。
 
ロイター通信などによると、メイ氏は19日の夕食会で各首脳に「あなた方が弾みを生み、前進させることが不可欠だ」などと交渉進展に向けた歩み寄りを訴えた。国内での「政治的に困難な背景」にも言及し、その様子は「懇願」(ロイター)とも伝えられた。
 
交渉では何の合意もなく英国が離脱する事態への懸念も上がる。ドイツのメルケル首相は19日夜、「英メディアの報道とは対照に交渉は徐々に進んでいる」と強調。懸念払拭を図るように、同日の会議では英仏独3首脳がくつろいだ雰囲気で一緒に会場入りもした。
 
ただ、焦点の分担金問題では「もっと明確さが必要だ」(ルッテ・オランダ首相)などと、各首脳からはメイ氏への厳しい注文が続いた。EU内では英国への態度で温度差も指摘されるが、「団結」(マクロン仏大統領)を重視しており、12月までに双方が歩み寄れるかはなお予断できない。(後略)【10月20日 産経】
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焦点となっている“手切れ金”問題だけでなく、上記記事では進展しているとされる在英EU市民の権利保護問題に関しても、必ずしもEU側が納得している訳でもないようです。

****EU市民の権利保護巡り大きな課題=欧州議会の英離脱交渉官****
英国の欧州連合(EU)離脱交渉で欧州議会責任者を務めるフェルホフスタット氏は8日、離脱後の市民の権利保護に関して解決すべき「大きな問題」があると述べた。英国とEUは9日から交渉を再開する。

フェルホフスタット氏は「市民の権利に関する合意がほぼまとまりつつあるとする報道を、われわれは認めていない」と発言した。

同氏は、英国がEU市民に無料で在留資格を与えるべきだが、最新の提案では条件付きの資格申請を想定していると懸念を示した。(後略)【11月9日 ロイター】
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【「メイ首相年内退陣」報道も
離脱交渉という“難事”にあたるメイ首相の求心力が、賭けに出た総選挙での失敗以来急速にていかしていることは、10月6日ブログ“イギリス 「辞任は問題になっていない」というメイ首相 求心力低下が鮮明に”でも取り上げました。

“メイ首相退陣”のうわさ・憶測は相変わらずです。

****英で「メイ年内退陣」報道 勢いづくEU離脱強硬派****
英国のテリーザ・メイ首相は9月22日、訪問先のイタリア・フィレンツェで演説し、欧州連合(EU)離脱後の2年間の移行期間と200億ユーロの「手切れ金」(EU離脱関連費用)の支払いなどを柱とした離脱協議の大方針を示した。

しかし、メイ氏の演説内容をめぐって、次期首相の最有力候補と目されるボリス・ジョンソン外相ら強硬離脱派が反発を強め、地元メディアは「年内にもメイ政権は倒れる」との観測を伝え始めた。10月12日の5回目の離脱協議でも進展は見られず、メイ氏は短命政権になる恐れが強まった。
 
EU強硬離脱派のUKIP(英国独立党)のナイジェル・ファラージ元党首は9月22日の英紙『デイリー・テレグラフ』への寄稿で、「メイ氏は2019年にEUから離脱すると言う一方で、離脱後も少なくとも2年間は非民主主義のEUクラブの事実上のメンバーになり続けると言っている。これは国民投票から5年間も、EUとの将来の関係が解決されないことを意味する」と批判した。
 
また、ジョンソン氏も9月23日のデイリー・テレグラフで、「英国は19年3月に離脱するため、移行期間中はEU加盟国ではない。その間、英国がEUの意思決定過程に関わらず、英国不在で決められたEUルールに従うのは間違いだ」と主張した。いったんはメイ氏との衝突が解消に向かうと見られていたが、両者の休戦はもろくも崩れ始めた。
 
10月に入り、メイ政権の短命を暗示する二つの象徴的な出来事が起きた。
一つはマンチェスターで10月4日に開かれた与党・保守党の党大会に、社会風刺の過激なパフォーマンスで知られるコメディアン、サイモン・ブロードキン氏が乱入し、演説中のメイ氏に「P45」という税務署提出用の従業員解雇通知書を模した1枚の文書を手渡した珍事件だ。

デイリー・テレグラフのスティーブン・スウィンフォード政治部次長らはこの茶番劇について、「メイ氏の党大会での演説がすっかり台無しとなったことで、(短命に終わるかどうかの)分かれ道に立った」とメイ政権の長期存続に疑問を投げかけた。
 
もう一つはデービッド・デービスEU離脱担当相の辞任を示唆するリーク発言だ。英紙『デイリー・メール』が10月3日、「デービス氏は友人に『19年3月のEU離脱とともに辞任し、その後のEUとの協議はジョンソン氏に任せる』と打ち明けた」と報じた。(後略)【11月1日 エコノミスト】
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セクハラに無断外交 辞任が相次ぐメイ政権
ここにきて、イギリス政界を巻き込む“セクハラ騒動”で、メイ首相を支える立場の閣僚もその渦中に。
政権自体が空中分解しかねない状況です。

****メイ英首相の盟友にセクハラ疑惑浮上、本人は否定も首相は調査指示****
英国のテリーザ・メイ首相の盟友、ダミアン・グリーン筆頭国務相に女性記者へのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)疑惑が浮上し、同相は1日、不適切な行為はなかったと疑惑を強く否定した。

英国では最近、国会議員のセクハラ疑惑が多数報じられており、中でも事実上の副首相とされるグリーン氏は最も高位の職にある。
 
グリーン氏はメイ首相の大学時代からの友人だが、入閣前に30歳年下の記者で保守派の活動家であるケイト・モルトビー氏の膝に触り、思わせぶりなテキストメッセージを送信した疑惑が持ち上がり、メイ氏が調査を指示した。
 
モルトビー氏は1日付の英紙タイムズへ寄せた記事で、両親を介してグリーン氏とコンタクトを取り、2015年にお酒を飲みに行った際、「素早く私の膝に手を置いた」と暴露。「有意義な政治家との関係が構築されていると感じていたものの、突然支払う準備のできていない代償かもしれないと気付かされた」と述べた。
 
モルトビー氏はグリーン氏との接触を断ったものの、コルセットを着用したモルトビー氏の写真が雑誌に掲載された後の昨年5月、グリーン氏からメッセージが届き、その写真を「称賛」しつつ、お酒を飲みに行きたいかどうか尋ねられたという。
 
一方のグリーン氏は疑惑について、「私が性的アプローチをかけたというのは断じて真実ではない」と主張している。【11月1日 AFP】
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****セクハラ報道の英国防相が辞任 「軍の水準に及ばない****
英国のファロン国防相は1日、過去に国防相としてふさわしくない行為があったとして辞任すると発表した。2002年にジャーナリストの女性と食事した際、女性のひざに手を置いたセクハラ疑惑が報じられ、事実関係を認めていた。
 
ファロン氏は辞任を伝えるメイ首相あての書簡で「過去に、私が代表する軍に求められる高い水準に及ばない行為があった事実を受け入れる」と説明した。1日のBBCの取材に「10年、15年前に受け入れられたことでも今では明らかに受け入れられない」と話した。国会議員は続けるという。(後略)【11月2日 朝日】
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“ファロン氏は02年の保守党夕食会で女性記者の膝に何度も手を置き、相手が「同じ事をしたら殴る」と警告するまで続けた。”【11月2日 毎日】

グリーン筆頭国務相にしても、ファロン国防相にしても、“女性記者の膝に手を”というのが定番スタイルのようです。

不倫報道に踊る日本政界・メディアと似たり寄ったりの状況ですが、個人的には、本人同意の不倫よりセクハラの方が罪が重いようにも・・・。

ファロン国防相については、別の女性記者も、2003年に自分にキスしようとしたと訴えています。

グリーン筆頭国務相に関しては、仕事用のコンピューターに「過激な」ポルノコンテンツを保存していた疑惑も取り沙汰されています。本人は否定しています。【11月6日 CNN】

仕事用パソコンにポルノ・・・・まあ、ほめられた話ではありませんが、「そのくらいは・・・」という感も。
セクハラはともかく、こういうレベルの問題を大騒ぎして過度の“道徳的潔癖性”を議員に求めるのは、民主主義にとってあまり好ましい方向とも思えません。セクハラは認められませんが。

セクハラ疑惑に関しては、“英メディアは約40人の保守党議員の関与の可能性を報じている。”【11月2日 毎日】とのことですから、今後もゾロゾロと・・・。

セクハラについても、男性側すれば、「単に素敵な女性にモーションをかけただけ。別に地位を利用してどうこうということではなかった」といった思いもあるかもしれませんが、そのあたりの微妙な話は今回はパスします。
何事も程度問題、常識の範囲で・・・という感も。

もちろん、不品行は保守党に限った話ではありません。
労働党側からは疑惑政治家から自殺者も出ています。

****不品行疑惑の英政治家、遺体で発見 自殺か****
不品行疑惑をめぐり英ウェールズ自治政府の閣僚を辞任していた政治家のカール・サージェント氏(49)が7日、遺体で発見された。警察が発表した。英国では国会議員のセクハラ疑惑が相次いで発覚しており、サージェント氏の疑惑もその一環として浮上していた。(中略)
 
サージェント氏は自身に対する疑惑が浮上した後、今月3日にウェールズ自治政府閣僚を辞任し、所属する労働党から党員資格を停止されていた。
 
サージェント氏は辞任を発表した際、自身に対する疑惑は「衝撃的で苦痛」だと述べ、労働党に独立調査の実施を要求。

またツイッターで発表した声明では、「疑惑の性質に鑑み、きょう私が閣僚から退くことが正しいとの(自治政府)首相の見解に同意する。汚名が晴れたら復職することを楽しみにしている」と述べていた。【11月8日 AFP】
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話をメイ政権に戻すと、セクハラ疑惑への閣僚関与に加えて、無断外交で辞任する閣僚も。

****イスラエル首相と無断会談、英国際開発相が辞任****
英国のプリティ・パテル国際開発相(45)が8日、辞任した。
 
今年8月に休暇で訪れたイスラエルで、同国のネタニヤフ首相ら要人と英政府に無断で会談していたことが、先週明らかになり、英国内で批判が高まっていた。
 
メイ内閣では1日、ファロン国防相が女性記者に対する過去のセクハラ疑惑で辞任したばかり。相次ぐ閣僚の辞任は、求心力が低下するメイ氏にとって一層の打撃となる。
 
パテル氏は6日、メイ氏に対し、ネタニヤフ氏らとの会談を認めて謝罪した。だが、その後になって、9月にもイスラエルの閣僚らと非公式に会談していたことや、イスラエルが占拠するゴラン高原を訪れていた可能性が浮上。訪問先のアフリカからメイ氏に呼び戻されて説明を求められ、辞任に追い込まれた。【11月9日 読売】
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パテル国際開発相は、保守党「期待の星」でもあるインド系女性で、親イスラエル、EU離脱強硬派のようです。

イスラエルから帰国したパテル氏は、“英国の対外援助予算の一部をイスラエル軍に配分するよう提案。さらに、国際開発省の部下に対し、占領地のゴラン高原でイスラエル軍が行っている人道支援事業を英国が援助できるか検討するよう指示した。”【11月9日 BBC】とのこと。

イギリス政府も国際社会も、イスラエルのゴラン高原占領を認めていません。

イスラエル訪問は8月のことですが、9月にも2回、政府関係者の立ち会いなくイスラエル要人と会談を行っていたことが明らかになっています。

“パテル氏が今週、謝罪のため首相官邸を訪れた際にも9月の会談について報告しなかったと、メイ首相が激怒していた”【同上】とも。

離脱強硬派の外相との閣内亀裂
閣内では離脱強硬派のボリス・ジョンソン外相とメイ首相の溝があらわになっています。
外相には、首相のEUに譲歩するような対応、イギリスの立ち位置を曖昧にするような対応は、結局離脱ができない状況を作り出してしまうとの焦りもあるようです。

****Brexitに苛立ち募らせるジョンソン外相*****
・・・・(外相の言動の動機は)離脱に決した以上、早期に綺麗さっぱりと決別すべきであり、ぐずぐずしていると、邪魔が入って離脱出来なくなるということです。

ジョンソンはメイ首相に反旗を翻しました。(中略)
 
(外相が交渉のレッドラインとする)条件はメイのフィレンツェ演説とは相容れません。メイは約2年の移行期間といっていますが、ハモンド財務相は3年程度の移行期間を欲しているといわれます。

メイが意図する移行期間は現状維持であり、現状維持とは現在の構造を認めるという意味であり、EUの新たな規則と欧州司法裁判所の新たな判決は当然認められなければならない筈です。

メイは2020年までのEU予算の英国負担分の支払いに応ずることを表明するとともに、「英国は加盟国であった間に成したコミットメントを順守する」と述べましたが、ジョンソンのいっていることは、その他の清算金の支払いには一切応じないということであり、これだけで交渉を破壊するに充分です。
 
(中略)ジョンソンを野に放っておけばより危険だったかも知れませんが、閣内にジョンソンを抱え、閣内不一致のままでEUとの交渉を続け得るようには思われません。

メイはジョンソンを罷免して当然です。政治的に弱い立場のメイにそれが出来ないのであれば、メイは早晩辞任せざるを得ないでしょう。

そうなれば、少なくとも暫くの間、交渉は停滞し、崖から転落する危険は甚だしく大きくなります。それでもジョンソンには何ら不都合はないということでしょう。【11月3日 WEDGE】
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いずれにしても、メイ政権は“ボロボロ”という感も。
世論もメイ首相の姿勢には厳しい見方を示しています。

****メイ英首相の交渉姿勢、評価せず66%=世論調査****
ORBインターナショナルが行った世論調査結果によると、英国のメイ政権の欧州連合(EU)離脱交渉姿勢を評価しないと答えた人の割合が過去最高の66%に達した。

先月の64%から増えた。メイ氏が妥当な合意を実現できると考える人の割合は27%にとどまった。思わないと答えた人は47%だった。

ORBによると、英EU離脱が景気を支援するとの考えに反対する人の割合が今回初めて、賛成する人を上回った。

調査は3━5日、英国の2044人を対象にオンラインで行った。【11月8日 ロイター】
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イギリス国民は意外と楽観?】
メイ首相にとって救いは、イギリス経済は現在好調で、国民感情がさほど苛立っていないことでしょうか。

****英国人の幸福度、EU離脱投票後にやや上がる 経済の改善が寄与か****
欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)にまつわる先行きの不透明感や相次ぐ襲撃攻撃にもかかわらず、英国人の幸福度はブレグジットの国民投票後にやや上がったことが7日、英統計局(ONS)が発表した調査で明らかになった。
 
幸福感や生活の満足度、何か価値のあることを行っていると感じている英国人は、2011年以降で最も高い水準となった。
 
幸福感は2017年6月時点で平均7.52(最高10)と、ブレグジットの国民投票が行われた2016年6月の7.46を上回った。生活の満足度も同時期に7.65から7.69に上昇。(中略)

ONSは「いくつかの経済指標が改善したことが幸福度の上昇を一部説明できる可能性がある」と述べ、失業率が「1975年以来の低水準」にあると強調した。
 
2019年3月のEU離脱を控え、英国は2年間に及ぶ手続きを既に開始したが、ONSは「われわれはまだEUを離脱しておらず、英国に住む人たちの日常生活への影響はまだ分からない」と述べている。【11月8日 AFP】
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随分と楽観主義のようにも思えます。
ブレグジットが進めば、貿易上の関税等の扱いの実体経済への影響だけでなく、企業のイギリスからEUへの移転、人材の流出なども進み、イギリス経済は多大な影響を受けると思われます。
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