孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツで再びテロ  問題は難民の存在ではなく、彼らをテロリストに追いやる人々の“憎悪”にあるのでは

2016-07-23 20:21:54 | 欧州情勢

(イタリア海軍が公開した、地中海で2015年4月18日に移民数百人を乗せたまま沈没した漁船の残骸の写真(2016年6月29日提供)。【7月22日 AFP】)

今後、批判が強まることが予想されるメルケル首相
フランスやベルギーで昨年以降テロの惨劇が相次いだなかで、これまで大きなテロを未然に防いできたドイツでも、今月18日に南部ビュルツブルク近くでアフガニスタン出身とみられる容疑者(17)が走行中の列車の中でおのを振り回して乗客に襲いかかり5人が重軽傷を負った事件に引き続き、22日には南部の最大都市ミュンヘンのショッピングモール近くのマクドナルドでイラン系の男性(18)が、店内でハンバーガーなどを食べていた子供にも容赦なく発砲するなど銃を乱射し、9人が死亡し、16人が負傷する事件が発生しています。

両事件を受けて、これまで難民受入に寛容な政策をとってきたメルケル政権への批判が強まることが予想されています。

****難民寛容メルケル政権に試練=社会分断の危機―ドイツ****
ドイツ南部ミュンヘンで起きた銃乱射事件の容疑者がイラン系の男だったことで、独国内で移民や難民に対する風当たりが強まるとの見方が出ている。

昨年以降、中東などから難民らが殺到しており、一部国民の反移民・難民感情が悪化する懸念も強い。難民寛容政策を取ってきたメルケル政権は、「開かれた国」の是非をめぐり社会が分断する危機に直面、試練を迎えている。
 
欧州最大の難民受け入れ国ドイツには昨年、中東などの難民ら100万人以上が流入した。昨年11月のパリ同時テロを受け、難民に紛れてテロリストが潜入するとの懸念が高まり、メルケル政権が苦慮した経緯がある。
 
当局によれば、建物の破壊など難民施設が被害を受けるケースは昨年900件を超え、前年の5倍以上に達した。反難民政策を掲げる新興政党「ドイツのための選択肢」は10%前後の支持率を確保しており、難民に対する国民の不満の受け皿として基盤を固めた感がある。
 
今月18日に南部ビュルツブルク近くで起きた列車乗客襲撃事件は、アフガニスタン出身とみられる容疑者(17)が引き起こした。わずか数日でイラン系の男(18)による凶行が続いたことは国民心理への悪影響を増幅する可能性が大きい。
 
難民や移民の中でも若年層が過激思想や暴力に向かう傾向があることはこれまでも指摘されてきた。報道によれば、昨年9月以降、難民用施設やモスク(イスラム礼拝所)で過激派メンバーが難民らに接触を試みたケースが約320件あったが、当局は特に未成年者が勧誘になびきやすいとみて警戒していた。
 
一方、独政府は「難民や移民とテロは直接は結び付かない」と事あるごとに強調。難民らに対する反発の沈静化に躍起となってきたが、今回の事件で政府の主張に国民から疑問を突き付けられる事態も考えられる。【7月23日 時事】 
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今回事件が起きたミュンヘンがあるバイエルン州は、連立与党内にありながらもメルケル政権の難民寛容対応に批判的だった政権内最右翼のキリスト教社会同盟(CSU)の基盤でもあることから、連立与党内でメルケル首相への批判が強まることも予想されます。

****<独銃乱射>比較的裕福で高学歴、イラン系の犯行に衝撃****
ドイツ南部ミュンヘンのショッピングセンター近くで起きた銃乱射事件で、地元警察は23日、イラン系ドイツ人の男(18)による犯行との見方を示した。

経済的に豊かな人も多いイラン系による凶行は、独国内に衝撃を広げている。ミュンヘンのあるバイエルン州は政権内最右翼のキリスト教社会同盟(CSU)の基盤で、今後メルケル独首相に対し移民・難民への強い対応を求めることは必至だ。
 
地元警察によると、事件の動機や男の詳細な人物像は不明だが、ドイツとイランの二重国籍であることが判明している。第二次大戦後、多くのイラン人が独国内の大学で医学などを習得。1979年にイラン革命が起きると、多くの医師や学生が家族と共にドイツに移り住んだ。
 
独国内には約12万人のイラン系住民がいるとされる。トルコ系などに比べ、比較的裕福で高学歴な人が多いイラン系国民が起こした犯行は、独国内の移民政策のあり方に議論を起こすことは必至だ。
 
独南部ビュルツブルクで18日、アフガニスタン出身の少年(17)が刺傷事件を起こした際に、CSUのゼーホーファー党首は「国と州の治安機関は難民の監視を厳格化すべきだ」と言及。「あらゆる法的手段を導入すべきだ」とし、移民・難民への厳しい対応に慎重なメルケル政権に圧力をかけた。
 
バイエルン州は昨年秋の難民問題で、難民の約9割が入国経路として利用したドイツの「窓口」になった。元々カトリック系が強い地元では、イスラム教徒の流入に反発が広がった。難民への銃使用を容認する新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に、CSUの支持が流れるなど党内には不満がくすぶっている。
 
独国内で起きた銃乱射事件としては、近年にない大規模な犠牲者を出した事件に政府が対応を迫られるとみられる。だが、移民系を対象にした監視強化をメルケル氏が受け入れる見通しはない。来年秋の総選挙に向け、与党内の対立が際立つことは必至だ。【7月23日 毎日】
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難民らをテロリストに追いやっているのは、周囲の敵意・憎悪・冷たい視線ではないか
現実政治の流れとしては、国民世論においても、連立政権内においても、難民受け入れへの批判が強まるというのは避けられないところでしょうが、個人的にはそうした流れには納得しかねるものがあります。

確かに、難民を装い潜入するようなテロリストは存在するでしょう。
ただ、一方に戦乱で何万人も犠牲になり、何十万人、何百万人が家を追われるという世界がある以上、そうした世界を隔離して切り捨て、そこで何が起きようが自分たちとは関係がないことだということでない限り、豊かで安定した社会の側も何らかの影響を蒙るのは、いたしかたないところでもあります。

切り捨てて何が悪い・・・と言われれば、もはや人間としての価値観が違うとしか言い様がありません。

そうした最初からテロ目的で入り込む人間より、はるかに危険性が大きいのは、救いを求めてやってきた難民、あるいは、これまで社会の一員として暮らしていた外国系住民が、ある日社会に対して牙をむくような事件でしょう。

そこにはISなど過激派組織の影響力もあるかもしれませんが、彼らをテロリストの側においやった一番の原因は、彼らを“敵視”し、“厄介者”としてしか見ようとしうない社会の冷たい視線ではないでしょうか。

批判を恐れずに、また、昨今流行らない言い様であることを承知で言えば、テロを引き起こしているのは難民が存在することではなく、彼らを“厄介者”として排斥しようとする人々の存在、社会の冷たい視線だと考えています。

社会を不安定にしているのは、テロを起こす可能性を持つ難民が存在することではなく、彼らの存在が自分たちの社会を危うくしていると言い立てる人々の側にあるように考えています。

そういう意味では、今後とも下記のような取り組みが必要とされていると考えますが、今の社会の“空気”は違う方向を目指しているのでしょう。

****ドイツ警察、ネット上のヘイト投稿で初の一斉摘発****
ドイツの警察当局は13日、交流サイトのフェイスブック(Facebook)をはじめとするソーシャルメディア上で人種差別に基づいたヘイトスピーチ(憎悪表現)を投稿したユーザーの一斉摘発に乗り出した。
 
ドイツ連邦刑事庁(BKA)によると、「言葉による過激主義」と関連犯罪の取り締まりで、14州にまたがって60人の容疑者宅に強制捜査が入った。逮捕者は出ていないが、パソコン機器やカメラ、スマートフォンなどが押収された。
 
インターネット上のヘイトクライム(憎悪犯罪)を対象とした大規模な強制捜査はこれが初めて。ドイツでは移民・難民危機に伴ってネット上で差別を助長する書き込みが増加し、公共の場での議論に悪影響を及ぼしている。
 
BKAのホルガー・ミュンヒ長官は、警察が「ネット上のヘイトや扇動に対し、明確な姿勢を示した」と説明した。
 
一方、トマス・デメジエール内相は「いかなる形式であっても、また、いかなる背景事情があろうとも、暴力は許されない。これには言葉の暴力も含まれる」と述べ、「刑法はネット上にも適用される」と強調した。【7月14日 AFP】
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地中海に沈む沈没移民船 「まるでアウシュビッツ行き列車
最近はメディアもあまり取り上げないようになっていますが、欧州を目指す“命懸けの旅”を試みる難民・移民はいまだ多く存在しています。

****地中海で死亡の難民・移民 すでに2900人以上に****
IOM=国際移住機関は、中東や北アフリカから密航を試みてヨーロッパを目指す途中、地中海で命を落とした難民や移民が、ことしに入ってすでに2900人以上に上っていることを明らかにし、去年までのペースを大きく上回っているとして危機感を表しました。

IOM=国際移住機関は22日、中東や北アフリカから密航を試みてヨーロッパに渡る途中、地中海で船が沈むなどして死亡した難民や移民が、ことしに入ってから今月20日までに2977人に上ったと発表しました。これは去年の7月30日時点の数の1.5倍となっています。

内訳をみますと、リビアなどの北アフリカからイタリアを目指す「地中海中央ルート」が2549人と全体の85%を占めて最も多くなっていて、去年よりも大幅に増えています。次いでトルコなど中東とギリシャなどを結ぶ「地中海東部ルート」が383人となっています。

スイスのジュネーブで会見したIOMの広報官は、全体の死者数について「3000人を超えたのは去年は10月、おととしは9月のことで、7月にこの水準であることは非常に憂慮すべき事態だ」と述べて、強い危機感を表しました。【7月23日 NHK】
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地中海に沈んだ沈没船には折り重なるように遺体が詰め込まれており、まるで“ウシュビッツ行きの列車”思わせる光景であったと報じられています。

*****まるでアウシュビッツ行き列車」 沈没移民船から700人の遺体収容 証言****
「あの連中は、所かまわずぎゅうぎゅうに詰め込んだんだ。それが最後の旅路になってしまった人々を、まるでアウシュビッツ行きの列車みたいに」——移民数百人を乗せて沈没した漁船からの遺体収容というつらい任務は1年をかけて終わったが、イタリア消防当局の広報担当者、ルカ・カリさんは、目撃した恐ろしい光景に今もさいなまれている。

「船内では、1平方メートルに5人が押し込まれていた」。カリさんは21日の伊週刊誌パノラマに掲載された記事で、こう証言した。
 
悲劇が起きたのは、2015年4月だった。木造のトロール漁船を転用した移民船が、救難信号を受信して駆け付けたポルトガルの商船とリビア沖で衝突したのだ。衝撃にパニックを起こした移民たちが船体の片側に殺到し、暗闇の中で船は転覆。助かったのは28人だけだった。
 
数か月後、沈没した船体は引き上げられ、伊シチリアへ運ばれた。消防士らの手で先週ようやく最後の遺体が収容され、伊検察当局が発表した犠牲者数は700人に上る。
 
カリさんによれば船内では、巻き上げた錨(いかり)を収納するハッチから、汚水排水用ポンプが設置された船底の小部屋、機関室に至るまで、あらゆる場所で遺体が見つかった。遺体の状況から、船が転覆した後、移民たちが船から出ようと最期まで死力を尽くしていたことは明らかだった。

「沈みゆく船から脱出しようとした人々の姿は、私たちの網膜に焼き付いて永遠に消えないだろう」と、シチリアでの遺体収容任務を消防士の1人は語っている。消防士らは、母親の遺体の腕にしがみついたまま亡くなった子どもたちを見つけたが、母子を引き離す気にはなれなかったという。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2014年以降に欧州を目指して地中海を渡る危険な船旅を試み、死亡したか行方不明になった移民の数は1万人を超えている。【7月22日 AFP】
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救助されることを期待して、欧州側の船が見えるとわざと船を転覆させるような難民船も存在すると聞いています。
そうであったとしても、地中海に沈んだ何千人もの遺体が現実です。

地中海が“巨大な墓場”と化した現実を、自分たちには責任のないもの、関係ないものとして切り捨て、自分たちの社会の安全を守る議論だけに終始するのであれば、それはかつてアウシュビッツへ大勢を送り込んだ者、それを許容した人々と基本的に同じところに立っていると言わざるを得ません。

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