孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  中国と前政権との“密約”、現政権との“合意”問題過熱

2024-05-10 23:36:24 | 東南アジア

(共同記者会見する(左から)米国のオースティン国防長官、オーストラリアのマールズ国防相、木原防衛相、フィリピンのテオドロ国防相=2日、米ハワイ 【5月4日 西日本】)

【対中国強硬姿勢のフィリピン アメリカなど西側との関係強化】
フィリピンと中国の南シナ海での領有権争いは、依然として小競り合いが絶えません。

****中国海警局の船が放水、フィリピン当局の船が「損傷」 南シナ海で緊張高まる****
フィリピン政府は中国と領有権を争う南シナ海で30日、中国側からの放水で補給船が損傷したと発表しました。また、航路を妨害するブイが設置されていることも確認したということです。

南シナ海のスカボロー礁付近で30日午前に撮影された映像では、中国海警局の船2隻がフィリピン当局の補給船を挟み込み、両側から放水している様子が映っています。

フィリピン政府によりますと、この放水により燃料や食料を積んでいた補給船の一部が損傷したということです。

また、去年9月に南シナ海の海上に中国側が設置した妨害するためのブイを、フィリピン当局が撤去しましたが、中国側が再び、およそ380メートルのブイを設置したことを確認したということです。航路を妨害するためのものだとみられ、両国の間で再び緊張が高まっています。【4月30日 日テレNEWS】
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こうした中国との緊張が続く中で、フィリピンはアメリカを始めとする日本を含む西側との協調路線を強めています。

****日本、アメリカ、オーストラリア、フィリピン 南シナ海で初の共同訓練****
中国とフィリピンが領有権を争い緊張が高まる南シナ海で、日本、アメリカ、オーストラリア、フィリピンの4か国による初めての共同訓練が行われました。

南シナ海を巡っては、フィリピンと中国が互いに領有権を主張し、フィリピン側の船が中国当局の船から放水を受けるなど、衝突する事案が相次いでいます。

こうした中、7日、南シナ海のフィリピンの排他的経済水域で、日本の海上自衛隊とアメリカ、オーストラリア、フィリピンの軍が「海上協同活動」と位置づける初めての共同訓練を実施しました。(中略)

海洋進出を強める中国を念頭に、来週にアメリカで行われる予定の日米比3か国の首脳会談を前に、結束を示す狙いとみられます。

一方で、AP通信によりますと、中国の海軍と空軍が合同で7日、南シナ海のパトロールを行っていて、共同訓練をけん制する狙いとみられます。【4月7日 日テレNEWS】
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****米軍とフィリピン軍が合同演習 南シナ海EEZでの海上演習も****
米軍とフィリピン軍による定例の合同軍事演習「バリカタン」が22日、フィリピンで始まった。今回は初めての試みとして、中国が威圧的行動を強める南シナ海の排他的経済水域(EEZ)内で海上演習を実施するほか、米軍の中距離ミサイルの発射装置の配備訓練も行う。
 
米インド太平洋軍などによると、演習には1万6000人以上が参加し、5月10日まで行われる。初めて招かれたフランス軍に加え、フィリピンと「訪問軍地位協定」を結ぶオーストラリア軍が正式に参加。日本や韓国、インド、ベトナムなど14カ国もオブザーバーとして加わる。

実施場所は、フィリピンと中国などが領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島に近いパラワン島や台湾に近いルソン島が中心。敵艦を撃沈させる演習のほか、敵に占領された島を奪還する訓練も実施される。

米海兵隊のジャーニー中将は「バリカタンは単なる演習ではなく、我々が互いに決意を共有していることを示すものだ。地域の平和と安定のために重要だ」としている。【4月23日 毎日】
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また、フィリピンのマルコス大統領は「軍に死者が出れば、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」と、中国を牽制しています。

****フィリピン大統領「軍に死者出れば米比相互防衛条約を発動」中国の“威圧的な行動”をけん制****
南シナ海での中国側の威圧的な行動でフィリピン側に負傷者が相次ぐなか、マルコス大統領は「軍に死者が出れば、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」との考えを示しました。

フィリピン マルコス大統領 「フィリピンは南シナ海で、違法で攻撃的かつ無責任な行動のターゲットになっている」

フィリピンで15日、外国メディア向けに会見を行ったマルコス大統領は、中国の威圧的な行動を念頭に、「あらゆる手段を講じて主権を守る必要がある」と強調しました。

両国が領有権を争う南シナ海の南沙諸島では先月以降、中国艦船がフィリピン軍の駐留拠点に向かう船舶に放水などを繰り返していて、フィリピンの乗組員にけが人が相次ぐ事態となっています。

マルコス大統領は「フィリピン軍に死者が出た場合、アメリカが相互防衛条約を発動する可能性がある」との考えを示し、中国側をけん制しました。

また、日本との間で交渉が進むフィリピン軍と自衛隊の「円滑化協定」については、「もうすぐ締結できるだろう」としています。【4月16日 TBS NEWS DIG】
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【前政権との“密約”、現政権との“合意”問題で中比バトル】
こうした海上でのホットな争いと並行して、最近中比間でバトル状態になっているのがフィリピンのドゥテルテ前政権との“密約”、そしてマルコス現政権との“合意”問題。

****中国政府が南シナ海めぐるフィリピンとの「密約」を暴露 マルコス大統領「引き継ぎはなかった」****
中国政府は南シナ海での領有権をめぐり緊張が高まるフィリピンとの関係について、前の政権との間では対立を避けるために「紳士協定」を結んでいたと明かしました。

フィリピンにある中国大使館は18日、中国とフィリピンの間で領有権を争っている南シナ海のアユンギン礁をめぐり、前のドゥテルテ政権時代には「平和を維持し、紛争を防止する」という内容の紳士協定を結んでいたと明らかにしました。

アユンギン礁では、フィリピンが実効支配の拠点にするため古い軍艦を座礁させ、フィリピン軍の兵士を常駐させていますが、中国海警局の艦船は生活物資を運ぶフィリピンの船に対し放水砲を発射するなど妨害を繰り返し、緊張が高まっています。

また、中国大使館は今年初めにはマルコス政権とも「生活物資の輸送に対する新たな合意を両国間で行ったが、フィリピンが一方的に破棄した」とも主張しています。

フィリピンをめぐっては11日、日本・アメリカとの3か国による首脳会談が初めて行われ、海上自衛隊やアメリカ軍も加わった合同パトロール計画も発表されるなど日米がフィリピンを支援する姿勢を鮮明にしたことから、中国との対立がますます激しさを増しています。

今のマルコス政権は、この協定の存在を認めていないことから、中国政府としては公にすることで政権に揺さぶりをかけたい狙いがあります。一方、マルコス大統領は前政権が結んだとされる協定について「引き継ぎはなかった」と強調しています。

フィリピン マルコス大統領 「密約だろうが紳士協定だろうが、我々はそのことを知らされていなかった。誰かこのことを知っている人はいるか?どんな経緯があり、何が起きたんだ?」

マルコス氏は「協定があるとすれば撤回する」として中国に妥協しない姿勢を示していますが、中国側が指摘する現政権との「新たな合意」についてはコメントしていません。【4月19日 TBS NEWS DIG】
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****フィリピン国防省 “対立管理のためマルコス政権と合意”の中国主張に「プロパガンダ」と反論、南シナ海領有権めぐり激しい神経戦****
中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海をめぐり、「対立を管理するための両国間の合意をマルコス政権が一方的に破棄した」とする中国側の主張について、フィリピン国防省は「中国のプロパガンダだ」として合意の存在を否定しました。

南シナ海のアユンギン礁では、フィリピン軍が実効支配拠点として座礁させた軍艦への補給活動に中国側が反発し、放水などの妨害を繰り返しています。

こうした対立の背景について、フィリピンにある中国大使館は、今年初めにマルコス政権との間で「対立を管理する新たな合意を結んだが、フィリピンが一方的に破棄した」などと主張していました。

これについて、フィリピン国防省は27日に発表した声明で、「中国側とのいかなる合意も知らない」と合意の存在を否定したうえで、「国防省は去年から、中国政府と一切連絡を取っていない」と強調。「中国のプロパガンダの一環だ」として、緊張の原因は中国側にあると反論しました。

中国政府は前のドゥテルテ政権時にも、アユンギン礁での対立を避けるため、「紳士協定」が結ばれていたと発表していますが、マルコス大統領は「もし協定があるとすれば撤回する」と反発していて、激しい神経戦が続いています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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ドゥテルテ前政権時代の協定だか密約だかについて、一般論で言えば、「引き継いでいない」「もし協定があるとすれば撤回する」というのは、中国からすれば腹立たしい対応でしょう。(もし日本が韓国の前政権との結んだ協定について、韓国新政権が同様主張をすれば、日本世論は激高するでしょう。「密約」とはそういうもの・・・でしょうか)

そういう腹立たしさもあってか、中国側はマルコス現政権との“合意”についてリーク戦術に。

****中国、フィリピンメディアに当局との電話内容を流す 南シナ海問題****
フィリピンが軍事拠点とする南シナ海、アユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)を巡り、フィリピンと中国が対立している問題で、フィリピン当局との電話協議内容とされる記録を中国側が一部のフィリピンメディアに対して一方的に公開し、フィリピン政府が強く反発している。

フィリピン紙マニラ・タイムズ(電子版)は7日に中国側に提供されたとして、1月に行われた中国外交官と比軍高官間の12分にわたる電話の記録を公開した。

フィリピン軍西部方面隊のカルロス司令官と中国側外交官が、アユンギン礁の補給活動について協議したとする内容だ。中国側が補給は水と食料に限り、2日前に中国側に知らせることや、両国とも1隻の船しか用いないとする「新モデル」を提案すると、カルロス氏が上層部も同モデルを「承認した」と伝えたとしている。

比政府はこれまで、「新モデル」とされる取り決めの存在を否定しており、中国側は、それを覆す「証拠」として記録を流出させたとみられる。

フィリピンのテオドロ国防相は中国は偽情報を出す傾向が強いとして「記録」の信ぴょう性に疑念を示したうえで「(無断で通話内容を録音したとすれば)国内の盗聴法に違反する可能性がある」と批判した。テオドロ氏は、南シナ海を巡る国際的な取り決めを結べるのは大統領だけだとも強調した。

フィリピンメディアによると、中国側と通話したとされるカルロス氏は7日以降、休暇を取っているという。

一方、中国外務省の林剣副報道局長は8日の定例記者会見で在マニラ中国大使館が関連するフィリピン側とのやりとりの内容を公開したと認めた上で「経緯は明白で証拠は固く、誰にも否定できない」と主張した。フィリピン側は情報を公開した中国外交官について調査する姿勢を見せている。【5月9日 毎日】
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フィリピン側は「国防省は去年から、中国政府と一切連絡を取っていない」としていましたが、上記「証拠」が真実なら、フィリピン側主張がウソだったことになりますが、いずれにしてもフィリピン側は大統領が承認していないものは意味がないと突っぱねる構えです。

情報リークで面子が潰れたフィリピンは、情報流出に関与した中国大使館員を国外追放する方針を発表しています。

****フィリピン、中国大使館員を国外追放へ 軍高官との電話記録を流出****
フィリピンが軍事拠点を置く南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)を巡り、マニラの中国大使館が比軍高官との電話協議とされる記録を流出させた問題で、フィリピンのアニョ国家安全保障補佐官は10日、流出に関与した大使館員を国外追放する方針を発表した。

アニョ氏は声明で、中国大使館が「偽情報の拡散を度々指揮している」とし、「重罰を与えなければならない」と指摘した。マルコス大統領が承認すれば、館員は国外追放となる。

中国外務省の林剣副報道局長は10日の記者会見で「軽挙妄動をしないよう厳しく要求する」と反発した。

フィリピン紙マニラ・タイムズ(電子版)は、中国大使館側から提供されたとして、1月に行われた比軍西部方面隊のカルロス司令官と中国外交官との電話協議の記録を公開。アユンギン礁の軍拠点への補給活動を制限する中国側の提案について、比軍上層部が承認したとする内容だった。(後略)【5月10日 毎日】
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【マルコス政権の対中国強硬路線を訝しむ指摘も】
マルコス政権の対中国強硬路線は、日本を含めた西側にとっては好ましいもので、フィリピンをバックアップして・・・となるでしょうが、フィリピン自身にとってはこういう方向(中国に対し強硬路線をとり、アメリカに傾斜する戦略)がメリットがあるのか批判的に見る指摘もあります。

****日本以上に「アメリカの『駒』」状態。フィリピンはなぜ豹変したのか?****
4月11日に初めて実現した日米比の3カ国首脳会談を経て、フィリピンのマルコス大統領の中国に対する発言が強硬になっているようです。軍への攻撃を一切許さないと警告。

これに中国が激しく反応しなかったことを「救い」と捉えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ASEAN諸国を含めて両国のこれまでの関係性を解説。微妙に保ってきたバランスをフィリピンが壊そうとする意図と、中国の冷静さの理由を探っています。

いまや日本以上の「アメリカの『駒』」と中国が呼ぶフィリピンが豹変した理由
日本、アメリカ、フィリピンの3カ国の首脳がワシントンで、初の首脳会談を行ったのは先月11日(日本時間12日午前5時20分)のことだ。3カ国首脳は、中国による南シナ海や東シナ海における力による一方的な現状変更の試みに反対し、毅然として対応することを確認したという。

フィリピンが、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の時代から大きくその面貌を変えたことの仕上げのような会談だった。訪米中のフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は、終始にこやかで上機嫌だった。

米中が互いに影響力を競い合う世界において、その最前線となりつつある東南アジアの発展途上国のトップが、アメリカとの関係強化を喜ぶのは珍しいことではない。だが、たいていの国は米中の対立からは距離を置き、両方に良い顔を見せながら自国利益を追求する、賢い外交を展開してきた。

フィリピンが特殊なのは、訪米から帰国した直後からマルコスが米比の相互防衛条約を持ち出し、中国を挑発する発言を繰り返したことだ。

マルコスは、南シナ海の南沙諸島にある仁愛礁(アユンギン礁=セカンド・トーマス礁)で繰り広げられる中国との領有権をめぐる攻防について、「軍以外からの攻撃を受けた場合であっても、フィリピンの軍人に死者が出れば米比相互防衛条約が発動されるとして、アメリカに軍事的な対応を求める考えを示した」(NHK 4月15日)という。

海をめぐる対立では、緊張が一気にエスカレートすることを回避するため、互いの国が海上での法執行機関を前面に立てて対応するのが一般的だ。マルコスの今回の発言は、わざわざそうした緩衝材を無効にする意味を含む。しかも相手が民間の船(漁船など)であっても、米軍に行動を求めるというのだから、尋常ではない。

こうした発言はこれまで東南アジア諸国連合(ASEAN)が米中の対立を嫌い、「巻き込まれ」を回避してきた努力にも反する。アメリカがマルコスの要請に軽々に応じるとは思えないが、あまりに無責任な発言といわざるをえない。

救いは、いまのところ中国側が激しい反応を見せていないことだ。かつてはフィリピン産バナナの輸入規制を強め、輸送中のバナナを大量に腐らせるなど強硬に反応したが、そうした対抗策も発動されていない。

その理由はいつくか考えられる。まずマルコスの言動の裏側にアメリカという振付師がいて、中国が騒げば騒ぐほどその術中に嵌ることを中国自身がよく知っていることだ。

またフィリピン以外のASEAN諸国との関係を重視する中国がこの海域での対立をエスカレートさせたくないと判断した可能性だ。さらに緊張を高めることで経済発展のチャンスが失われるデメリットを考え、行動を抑制しているということだ。

だが、そうした動機のなかでも最も重要なのは中国がこれを「マルコスの個人的な事情」と見ている点だ。というのもドゥテルテ時代まで静かだった仁愛礁でにわかに緊張を高めても、フィリピンの国としての利益はほとんど見当たらないからだ。

ASEANの国々にとって中国が重要なパートナーであることは言を俟たない。多くの国は中国が最大の貿易相手だ。中国と対立するデメリットは計り知れない。実際、ドゥテルテ時代には仁愛礁での揉め事はほとんどなく、経済関係も順調だった。過去のメルマガでも指摘したように、両国間には現状維持を目的とした「紳士協定」が存在し、機能してきたからだ。

「紳士協定」とは「フィリピン側が仁愛礁の建造物の修繕や新設を行わない見返りとして、中国が食糧補給を容認する」こと。逆に「中国は、軍事拠点化したミスチーフ礁に構造物を新たに設置しないこと」を約したものとされる。対立をうまく管理し、貿易のメリットを享受しようとした両国の知恵だ。

そのバランスをわざわざ壊すメリットはどこにあるのだろうか──【5月9日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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「マルコスの個人的な事情」とは何でしょうか?
中国との緊張関係を演出して、国内の求心力を高めること? あるいは、親中前政権との違いを押し出すことで、ドゥテルテ家とのバトル・権力闘争を優位に展開したいこと?

なお、富坂氏は、日本の中国認識が偏った一面的なものと批判し、“「反中」亡国論・・・日本が中国抜きでは生きていけない真の理由”といった著作もあるようです。
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