孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区  エジプトが密輸トンネルに遮断壁

2009-12-14 21:48:04 | 国際情勢

(ガザ地区の密輸トンネル “flickr”より By Marius Arnesen
http://www.flickr.com/photos/anarkistix/3465620364/)

【生命線】
イスラエルによって封鎖されているパレスチナ・ガザ地区の住民150万人にとって、エジプトとの境界に掘られた密輸トンネルは、生活・生命を支える文字通りの“生命線”であることは、これまでも何回か取り上げてきました。

11月25日ブログでも紹介した【11月24日 朝日】より、トンネルの概要を採録すると、
現在稼働しているトンネルは約400。
失業率が6割に達しているというガザでは、失業者が職を求めてトンネルに殺到しており、従事者は1万5千人に達しています。ガザ地区住民の雇用を支える重要産業でもあります。

ただ、危険な作業であり、ガザの人権団体によると、ハマスがガザを武力制圧し、イスラエルが境界封鎖を強化した07年以降、作業員約120人が崩落事故やイスラエル軍による空爆で命を落としているそうです。
“作業員の日給は12時間働いて100シェケル(約2300円)程度。(作業に従事している少年は)「危険に見合わない額だが、ほかに仕事がないから仕方ない」と話す。”

トンネル業者間では一定の“ルール”も作られているそうです。
“崩落事故が相次いでいることや、商品取引のトラブルを解決するために、今年に入り、行政や治安機関、トンネルの所有者、作業員らが共同で委員会を設置した。子どもをトンネル内に入れない▽武器を密輸しない▽人の越境には使わない――ことを申し合わせた。
また、ガソリンや塗料など可燃物の取り扱いに注意喚起を促しているほか、崩落事故が起きた場合の補償制度を検討。所有者は遺族に既婚の場合、1万ドル(約89万円)程度を支払うことを決めたという”

【エジプトの苦しい事情】
そのトンネルについて、“奇妙な”記事がありました。
****パレスチナ:ガザ「密輸トンネル」、エジプト側が遮断壁*****
 ◇イスラエル反発考慮--効果は「?」
パレスチナ自治区ガザ地区のエジプト側境界で、鋼鉄製の遮断壁を地下に埋め込む作業が進んでいる。ガザ地区との地下トンネルを通じた密輸防止が目的と見られる。AFP通信などがエジプト当局者や地元住民の話として報じた。「トンネルをテロリストが利用している」と主張するイスラエルの反発を考慮した形だが、封鎖状態にあるガザにとって密輸トンネルは「生命線」であり、住民生活に影響が出る恐れもある。

ガザ地区は07年6月にイスラム原理主義組織ハマスが武力制圧して以来、イスラエルが封鎖。エジプトとの間のラファ検問所は数カ月に1度、開かれる程度だ。食料や衣料といった生活物資の多くは、地下トンネル経由で密輸されている。
検問所近くに住むエジプト人男性(51)は、毎日新聞の電話取材に「20日ほど前に掘削作業が始まった」と語った。重機による掘削が行われ、20~30メートルの深さに鉄板が埋め込まれているという。
ただ、密輸業者はAFP通信に「遮断壁ができても、その下を通るトンネルを掘ればいい」と話しており、密輸防止の効果には否定的な見方が強い。
背景には、イスラエルの同盟国である米国を意識して密輸対策を取らざるをえないが、アラブ諸国や国内のイスラム過激派が反発する完全封鎖もできないというエジプトの苦しい事情があるようだ。【12月13日 毎日】
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【奇妙な話】
“奇妙な”と言うのは、もしエジプトが密輸トンネルを封鎖する気なら、別に鋼鉄製の遮断壁など埋め込む必要もなかろうに・・・と思ったからです。
“密輸トンネル”とは言っても、こっそりと麻薬を下着や靴の中に忍ばせて運びこむような類ではありません。
150万人の生活を支える膨大な物資(それとハマスなど武装勢力の使用する武器・弾薬)を運び込むのですから、当然にエジプト側でもトンネルの存在がわかります。

密輸業者はエジプト治安当局に賄賂を渡して、この密輸作業を行っています。
先述【11月24日 朝日】でも、“一方でエジプト側の業者からの仕入れ価格は下がらない。エジプト政府の取り締まりが強化されていることに伴い、境界警備にあたる当局者への「お目こぼし料」が数千ドル単位で上がっていることが要因だという。”と書かれています。

同じアラブのイスラム教国として、密輸業者逮捕とかトンネル破壊といった、直接矢面に立つ形でガザ住民の生命線を遮断することはエジプトとしてもやりづらいので、遮断壁を埋め込むというまわりくどい方法をとったのでは・・・と思われます。
その遮断壁をかいくぐって密輸が続行されるのであれば、それはエジプトの責任ではない・・・という訳です。

この遮断壁がどの程度のものかわかりませんが、記事にあるように本当に境界全体に“20~30メートルの深さに鉄板を埋め込む”ものであれば、これをかいくぐるのは、「遮断壁ができても、その下を通るトンネルを掘ればいい」と言うほど簡単ではないでしょう。
そんな深いトンネルを掘るのは労力も危険も増大します。
そうなれば、ガザ住民の暮らしに多大な影響がでます。

まあ、エジプトも境界全域に埋め込む訳ではなく、イスラエル・アメリか向けのパフォーマンス的に一部箇所に作業するのでは・・・というのは、私の勝手な想像です。

“奇妙”と言えば、このトンネルの存在自体が奇妙です。
イスラエルは武器密輸に使われているとして、トンネルを攻撃対象の第一目標にしていますが、本当にトンネルが機能しなくなったら、ガザ地区住民は飢餓と病気で命を失っていくことにもなります。
それは、かつてユダヤ民族が経験した悲劇にも通じるものであり、国際社会が許容するものでもありません。
トンネルによってガザ住民の生活がなんとか維持できているのは、イスラエルにとっても好都合なことではないでしょうか。


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