孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ主導でインド・中東・欧州を結ぶ回廊の構想 10年経過の中国「一帯一路」 伊は離脱の方向

2023-09-09 23:01:57 | 国際情勢

(G20サミットでバイデン米大統領(左)を迎えるインドのモディ首相=9日、インド・ニューデリー【9月9日 共同】)

【インドと中東を結び、更に欧州へ アメリカ版「一帯一路」】
アメリカ・バイデン大統領は、中国の「一帯一路」に対抗して、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにしています。

****インドと中東に「交通回廊」 バイデン政権がインフラ整備構想、中国に対抗****
バイデン米政権は9日、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにした。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のためインドを訪問中のバイデン米大統領が、インドやサウジアラビアなど関係国・地域と同日にも覚書を締結。中東・南アジアでの影響力を強める中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。

構想は、インドと中東のサウジやアラブ首長国連邦(UAE)などを港湾や鉄道で結び、最終的には欧州地域にまで至る「陸海交通の回廊」を整備する内容。近年、港湾整備などを通じてパキスタンやイランとの関係を強化している中国への対抗軸を打ち出した。

ファイナー米大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、記者団に、構想は関係国・地域に「商業やエネルギー、データの流れ」を生み、各国間のインフラ面での格差を埋める効果もあると説明。バイデン政権が掲げる世界的なインフラ投資の「新たなモデル」になると強調した。

構想には、地中海に面するイスラエルの将来的な参加も見込まれる。バイデン政権は現在、サウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介に乗り出しており、こうしたインフラ投資を中東戦略に組み込むことで域内での影響力回復を図る狙いもありそうだ。【9月9日 産経】
*******************

中東域内を鉄道で結び、海路でインドにつなげる構想のようです。
地中海に面したイスラエルも参加すれば、インド~中東 ~欧州をつなぐ、まさにアメリカ版「一帯一路」ともなります。

9日、アメリカとインド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、EUの各国・地域首脳らが中東経由でインドと欧州を鉄道網や航路で結ぶ大規模な交通インフラ整備計画に関する覚書に署名しました。

ただ、イスラエル参加には高いハードルも。
“バイデン政権は、アラブの「盟主」を自任するサウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介の動きを積極的に進めている。ハードルは高いとみられているが、正常化すれば、イスラエルもインフラ建設計画に参加する可能性もあるという。”【9月8日 毎日】
もっとも、下記のように、もともとはイスラエルが持ち込んだ構想のようです。

このニュースを目にして疑問に感じたのは、鉄道建設のノウハウはどうするのか? という点。
自動車立国アメリカは鉄道後進国で、横断鉄道も相当にガタがきている状態。

これに関してはインドが鉄道建設ノウハウを担うとか。
“インフラ建設計画の構想は、2021年に設立された米国、インド、イスラエル、UAEの協力枠組み「I2U2」で協議されてきた。イスラエルが昨年に、インドの鉄道建設のノウハウを活用して中東域内を鉄道で結ぶ構想を提起し、バイデン政権がサウジの参加を促したという。”【9月8日 毎日】

確かに鉄道網の長さや国民の“足”として活用されている点で、インドは世界有数の「鉄道大国」ではあります。
ただ、施設は老朽化し、事故が絶えないことも周知のところ。

****延長64,000㎞以上。日本より長い歴史を誇る「鉄道大国」インド****
13億人を超えるインド国民にとって、鉄道は日常の移動を支える“足”だ。インド国有鉄道がインド全土に張り巡らせた鉄道網は総延長64,000㎞以上。日本の鉄道の総延長は27,000㎞強であり、国土面積の違い(インドの国土面積は約329万㎢で日本の約8.7倍)を考えると日本の方が“密度”は高いものの、インドが世界有数の「鉄道大国」であることに異を唱える人は少ないだろう。

インドの鉄道の歴史は古く、1853年には当時インドを植民地としていたイギリスが綿花・石炭・紅茶の輸送を目的としてボンベイ-ターネー間約40kmの路線を開業している。日本の鉄道は1872年、新橋-横浜間なので、インドの鉄道は日本より長い歴史を持っていると言える。

インドの鉄道というと、TVの紀行番組などで放映された、古い客車に入りきらない乗客がぶら下がっているような映像を思い浮かべる人も多いだろう。

現在でもこのような状況が十分改善されているとはいえず、例えばインド最大の都市で、周辺都市を含めた都市圏人口が2,300万人近くに及ぶムンバイを走る列車は、毎日、600万人を超える人を市中心部まで運んでおり、通勤・通学のラッシュ時の乗車率は250%にも及ぶとのことだ。

このような状況の中で鉄道事故も後を絶たず、死亡事故が起きることも日常茶飯事となっている。ちなみに最大の事故原因は、混雑のため車両に乗り込めず、車両の端につかまって移動している乗客が落下してしまうことであり、鉄道当局の事故防止対策もなかなか功を奏さない状況が続いている。

また、鉄道設備の老朽化や整備不良による事故も多発しており、2016年11月には北部のウッタル・プラデーシュ州で線路の整備不良による急行列車が脱線し、120人以上が死亡する事故が起きている。【グローバル マーケティングラボ】
**********************

今年6月2日にも、インド東部のオディシャ州で3本の列車が関連する衝突事故が起き、290人超が死亡する今世紀最悪の事故となっています。

インドは中東での鉄道網建設を行う前に、自国の鉄道網の改善に務めた方がよいように思うのですが・・・

鉄道建設のノウハウと言えばやはり日本でしょう・・・と言いたいところですが、日本の“完璧主義”は海外ではいささか問題視されるかも。

中東砂漠地帯の鉄道建設など劣悪な条件を考えると、実績があるのはやはり中国でしょう。ただ、中国の手を借りる訳にもいきませんので・・・。

【10年の節目にあたる「一帯一路」 イタリアが離脱の方針 中国は引き留めに躍起】
一方、本家「一帯一路」の方は開始から10年の節目にあたります。

*****10月の「一帯一路」首脳会議、90カ国が参加表明=中国****
中国政府は7日、10月に北京で開催される広域経済圏構想「一帯一路」首脳会議に90カ国が出席を表明したと発表した。同会議の開催は3回目で今年は発足10周年に当たる。

中国国営メディアはセルビアのブチッチ大統領やアルゼンチンのフェルナンデス大統領らが出席すると伝えた。

ロシアの国営通信タス通信はプーチン大統領が10月に訪中する予定との側近の発言を報じた。

新華社によると、中国はこれまでに150以上の国と30以上の国際機関との間で「一帯一路」協力文書に署名した。【9月7日 ロイター】
***********************

その「一帯一路」で最近繰り返されているのが、イタリア首脳の一帯一路離脱発言。
これは単にG7で唯一の「一帯一路」参加国イタリア単独の動きではなく、欧州全体に中国との関係を見直す流れがあり、そうした流れのひとつと言えそうです。

****「さらば一帯一路」イタリアが中国に冷や水...メローニ首相の強硬姿勢***
<専門家は「中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」と指摘している>

ヨーロッパへの影響力拡大を目指してきた中国にとっては大打撃だ。イタリア政府が中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱に向けて動き出したのだ。イタリアは2019年、G7(主要7カ国)で初めて一帯一路に参加していた。

13年に習近平(シー・チンピン)国家主席が一帯一路構想を提唱して10年という節目の年に、中国はメンツをつぶされた格好だ。「中国にとっては非常に屈辱的なこと」だと、米スティムソン・センターの中国プログラム部長、孫韻(スン・ユン)は言う。中国はヨーロッパの国、とりわけ西ヨーロッパの国が参加していることを誇りにしていたのだ。

これまでヨーロッパは、アメリカほど強い姿勢で中国に臨んでこなかった。特に経済面のデカップリング(切り離し)を強硬に推し進めてきたとは言い難い。しかし、風向きが変わり始めたようだ。

一帯一路は、中国のインフラ輸出を後押しし、さらには中国が地政学上の影響力を拡大させる手だてになってきた。
現在までに東欧諸国を中心にEU加盟国の3分の2が一帯一路に参加して、中国からの投資を呼び込み、自国経済のテコ入れを図ろうとしてきた。これらの国々の多くは、イタリアと同様、経済の不振にあえいでいて、中国からの投資が自国経済に大きな恩恵をもたらすと主張していた。

ところが、イタリア経済は一帯一路によって期待どおりの恩恵に浴せていない。中国側は総額28億ドルのインフラ投資を約束したが、イタリアに好景気は訪れなかった。

「19年当時は非合理な期待が高まっていた」と振り返るのは、米コンサルティング会社ローディアム・グループのノア・バーキン上級アドバイザーだ。「この取引は大きな恩恵をもたらさなかった」。バーキンによると、イタリアの対中輸出はほとんど増えず、中国からイタリアへの直接投資は大幅に減っている。

イタリア政府は、中国に厳しい姿勢で臨むようになっている。ドラギ前首相は昨年、中国への技術移転にストップをかけ、中国企業によるイタリア企業の買収もたびたび阻止した。

メローニ現首相は、もっと強硬だ。イタリアのタイヤメーカー、ピレリに対する中国企業シノケムの影響力を制限する措置を講じたり、台湾への支持を明確に表明したりしている。

テクノロジーをめぐる中国と西側の対立が激化するなかで、ほかのヨーロッパ諸国も中国との経済関係を見直すようになっている。

7月には、西側の対中輸出規制への報復として、中国が半導体素材のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を打ち出した。こうした緊張関係の下、EUもアメリカと同様に、対中関係での「デリスキング(リスク回避)」に向けて動き始めている。

もっとも、具体的な措置については西側諸国の間でも足並みがそろっていない。「どれくらい大々的な措置を講じるべきかでは、明らかに考え方の違いがある」と、米外交問題評議会のリアナ・フィックス研究員は指摘する。

一帯一路が習の政治的なレガシーに不可欠な要素であることを考えると、イタリア政府の一帯一路離脱の方針が両国関係に影響を及ぼすことは避けられない。

スティムソン・センターの孫は言う。「中国の人々は、一帯一路を習の看板外交政策と見なしている。中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」【8月9日 Newsweek】
******************

こうしたなか、イタリア外相が訪中、中国との協議が注目されました。

****イタリア外相「期待した成果ない」 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」離脱検討****
イタリアの外相は2日、参加する中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」と語り、離脱を検討していることを改めて明らかにしました。

イタリアのタヤーニ外相は2日、北部・チェルノッビオで開かれた経済フォーラムに参加し、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」「われわれは改めて評価をし、議会は参加を続けるかどうかを決断しなければならない」と述べました。

タヤーニ外相は3日から3日間の日程で中国を訪問する予定で、一帯一路についても議論するものとみられます。

イタリアは2019年、EU懐疑派のコンテ政権がG7=主要7か国として唯一、一帯一路への協力の覚書を結びましたが、その後、経済的な恩恵が乏しいと国内で不満が高まっていました。

覚書の期限は来年3月で、メローニ政権は年内に離脱の是非について結論を出す考えです。【9月2日 TBS NEWS DIG】
******************

中国側はなんとかイタリアを引き留めたいところ。

****中国、伊の一帯一路引き留め躍起 成果強調も離脱なら習氏に痛手****
中国外務省は4日夜、王毅共産党政治局員兼外相がイタリアのタヤーニ副首相兼外務・国際協力相と北京で同日会談したと発表した。

王氏は、両国が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」で「大きな成果を上げた」と強調した。イタリアは一帯一路からの離脱を検討しており、中国は引き留めに躍起になっている。

一帯一路は習近平国家主席の提唱から今年で10年を迎え、中国政府は関係国首脳らを集めた国際会議を10月に北京で開催する予定。イタリアは先進7カ国(G7)で唯一、中国と覚書を結んで一帯一路に参画しており、離脱すれば習氏に痛手となる。

中国外務省の発表は、タヤーニ氏が一帯一路に言及したかどうかには触れなかった。会談でタヤーニ氏は「中国との長期的で安定した関係の発展を重視している」と述べたという。

王氏は、過去5年間で両国の貿易額が大幅に増え、イタリアの対中輸出は約30%増えたと主張。今後も「開放的な協力を堅持すべき」と訴えた。

イタリアは2019年に当時のコンテ政権が経済回復を狙って一帯一路に参画した。【9月5日 共同】
***********************

イタリアの意向は固く、両国は「穏健な離脱」を模索しているとも。

****中伊外相、関係維持を強調=一帯一路「穏健な離脱」探る****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は4日、北京を訪れたイタリアのタヤーニ外相と会談した。イタリアが中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を検討する中、王氏は「相互信頼と対等な対話の堅持」を強調。

イタリアの引き留めは困難な情勢だが、両国とも経済面などでのつながりを維持したい思惑で一致しており、穏健な形での離脱を模索しているもようだ。【9月5日 時事】 
*****************

【巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へ】
10年を迎えた「一帯一路」ですが、「債務の罠」等の欧米からの批判もあるなか、中国の姿勢も経済合理性重視の方向に変わってきていることは、これまでも度々取り上げてきたところです。

“巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつある”との指摘も。

****中国の「一帯一路」はどう変わったのか―仏メディア****
2023年9月4日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、開始から10年を迎えた中国の「一帯一路」が巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつあると報じた。

記事は、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が政権発足間もなかった2013年9月にカザフスタンのアスタナで「一帯一路」構想を発表、その内容は経済的にも政治・外交的にも野心的な戦略で、49年までに70カ国以上でコンソーシアムを形成するというものだったと紹介した。

そして、「一帯一路」がパートナー国における道路、鉄道、港湾の広大なネットワークの建設を通じて中央アジアを統合し、中国とヨーロッパを経済的に結ぶというインフラ戦略だったと指摘。

資源へのアクセスを確保し、販路を作り、建設会社を立ち上げ、稼働させるという中国にとってこそ非常に大きなメリットを持つプロジェクトであるものの、習氏は「世紀のプロジェクト、世界の意思」として大々的に宣伝し、パートナー国を納得させるだけでなく、中国がゲームの中心となるグローバリゼーションの新たなビジョンを作り、それを正当化しようとしたと伝えた。

また、不干渉とウィンウィンを強調する「一帯一路」のストーリーには欧米による植民地的、帝国主義的な支配への対抗意識がにじみ出ているものの、その現状はパートナー国に対して内部的な犠牲を強いる結果になっていると指摘。

指導部が「一帯一路」構想の成功を強調するのとは裏腹に、多くの貧しい国々が中国の多額債務者となっていることから、西側のメディアや専門家からは「債務外交」「債務のわな」「腐敗の輸出」「新植民地主義」などと評されていると紹介した。

記事は、「一帯一路」が10年の間に大きな挫折を次々経験し、その威力は大きく損なわれているとともに、中国自身も世界における威信の面でも経済の面でも大きな挫折を味わっていると指摘。

その中で、日本のメディアが中国の「一帯一路」関連の海外投資構造に異変が生じつつあり、大規模なインフラプロジェクトが減っていると報じたことを紹介した。

そして、中国共産党の公式メディア・人民日報も先月、「一帯一路」では農業、医療、貧困緩和などといった「小さいながらも美しいプロジェクト」が進んでいるとする評論記事を掲載し、国務院新聞弁公室も「小さいながらも美しいプロジェクト」がデジタル、医療、環境保護などの分野で日増しに浸透しているとの見解を示したことを伝えた。

その上で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「一帯一路」について、この10年でより多くの国を中国側に引き込むことに成功したことから中国が「一帯一路」を完全に撤回する可能性は低いとする一方で、中国がパートナー国への融資をより慎重なアプローチに切り替えた場合、一部の国にとっては魅力が低下する可能性があると論じたことを紹介した。【9月7日 レコードチャイナ】
*******************


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カンボジア  首相職・有力... | トップ | ベトナム  バイデン大領訪... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際情勢」カテゴリの最新記事