Sixteen Tones

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オッペンハイマー「原子力は誰のものか」

2024-05-06 09:07:33 | 読書
ロバート・オッペンハイマー,美作太郎 矢島 敬二  訳「原子力は誰のものか」中央公論新社 (中公文庫 初版2002/1,改版2024/4).
単行本刊行は 1957.当時は「ソヴェト」と表記したらしい.

裏カバーの惹句*****第二次世界大戦中、ロス・アラモス研究所所長として世界で初めて原爆を完成させ、「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマー。
戦後、原子力委員会のメンバーとなるが、アメリカの水爆開発に反対の立場を表明し、公職を追放された。原爆の父はなぜ水爆に反対したのか?
 天才物理学者が全存在をかけて、政治・社会・科学のあり方を問う。〈解説〉松下竜一・池内 了*****

目次*****
まえがき/原子力時代と科学者(1945/11)/核爆発(1946/5)/今日の問題としての原子力(1947/9)/とわられぬ心(1948/12)/原子兵器とアメリカの政策(1953/2)/科学と現代(1956/2)
 付録 : オッペンハイマー追放の経過(訳者)/米国原子力委員会事務総長 ニコルズ少将の書簡(1953/12)/オッペンハイマーの弁明(1954/3)/現著者について(訳者)/文庫版への訳者あとがき
 パンドラの箱をあけた人 (松下竜一)/解説 (池内了)*****

タイトル中の「原子力」の語は平和利用としての原発を連想するが,本の内容はその是非が問題とされるはるか以前のこと.われわれはチェルノブイリやフクシマを知っているが,オッペンハイマーには想像できないことだった.被爆者の放射線による後遺症も視野にはない.彼の関心はひたすら大量殺人兵器としての原爆そのものにあった.

パンドラの箱を開けたオッペンハイマーは,ふつうの人だったんだな...というのが実感.優れた理論物理学者だったであろうが,原爆製造は物理ではなく工学だ.工学の成果が政治・戦争に実を結んだときもその後も,彼は お上に忠実な行政官であり続けた.そしてなまじ良心があったので,行政官としての言動に矛盾が生じた.

上記目次には,16 トンが発表された月日を書き添えた.ニコルズ少将の書簡(1953/12) と,それに対するオッペンハイマーの弁明(1954/3) から読み始めればよかったと,今は思っている.ニコルズの告発は戦時日本の特高や,ウクライナ侵攻中のロシア内務省を思わせる.恥ずかしながら,野次馬的興味からマッカーシズム・赤狩りの対象はチャップリンくらいしか知らなかった.自由の国を標榜する USA にもこんなヒステリックな時代があった.そのうえ現在も,もしトラは先行き不明だ.

「弁明」は,ソクラテスのそれのような深淵なものではない.しかし著者の半生記で始まり,これはこれでおもしろい.

「原爆の父はなぜ水爆に反対したのか」は「原子兵器とアメリカの政策」「科学と現代」を読んでも明快には理解できなかった.本書付録の訳者の記述によれば,彼は水爆の開発に賛成しなかったが,開発が決定された後では計画に反対はしなかった.水爆に関する彼の意見が追放の原因のひとつとはされていない.

本文は至って読みにくい.英文が解らないので翻訳を読んだがやっぱり解らない,ということが間々あったが,この本もその例だろう.オッペンハイマーが行政官としての立場から,あえて奥歯にものが挟まったような言い方・書き方をしているのかもしれない.物理の教科書のようにはいかない.原文を読んでいないので大したことは言えないけれど...

「今日の問題としての...」の最後の孔子の話は,なんじゃらほい.

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