『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第5回目です。
◆呼吸器病
この本が出版された当時(昭和14年)の呼吸器病といえば、肺結核が代表的なものです。これは国民病ともよばれ、日本中に大流行して多くの死者を出していたため、この病気に罹ると必ず死ぬと思っていた人も多かったようです。
しかし、鮎川氏の見解によれば、重要なのは、本ブログの「子宮後屈症」でご紹介した瘀血(おけつ=古くなった不要な血液)と水毒(体内の水分が過剰な状態)の量であり、これらが少ない患者の場合は、相当重症のように思われる肺結核であっても漢方薬で助かるそうです。
そのため、鮎川氏は、「早期発見、早期発見と騒ぎまわり、レントゲン検査などによって怪しげな診断を下し怪しげな治療をする」西洋医学のやり方を、気の弱い人を病気に追い込むような方法であると批判しています。
なぜ「怪しげな診断」なのかというと、肺に病変がある場合、西洋医学では肺だけを治療しようとしますが、漢方医学で診断すると、肺病の原因が肝臓にあり、その肝臓の変化の原因が腎臓にあったという場合が少なくないからだそうです。
ですから、最初の診断が間違っているので、結果的に西洋医学は「怪しげな治療」になってしまうというわけです。
また、西洋医学では肺結核の原因を結核菌に感染したためと考えますが、鮎川氏は、結核菌に感染したから肺結核になるのではなく、病的な肺が結核菌の餌になるから結核菌が繁殖するのである、と非常に重要な指摘をしています。
そして、漢方医学の教える瘀血と水毒の診断を行なって国民の体質改善に乗り出すことが、肺結核対策としてもっとも効果的で賢明な方法であると断言しています。
つまり、日頃から瘀血や水毒を減らすよう体質改善に取り組み、腎臓や肝臓の働きが万全になるよう心掛けることによって肺を健康にしておけば、結核菌も寄り付かなくなるということです。
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最近は、新型肺炎のニュースで持ち切りで、そのため不安を感じている方もおられるでしょうが、そういう方には、鮎川氏の次の言葉をご紹介したいと思います。
「結核菌は恐る可(べ)き細菌であろう。然(しか)し肉眼には見えない。見えないものを怖(おそ)れて逃げまわっても仕様がない。」
新型コロナウイルスも恐るべき病原菌かもしれませんが、この本を読むと、病原菌だけを恐れるというのはまったく見当違いの対応であることが理解できます。どうか、落ち着いて行動していただきたいと思います。
なお、参考までに、瘀血を改善する漢方薬を一つご紹介しましょう。『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が「血行器及び血液の変常に因する諸病を治(ぢ)する。」と書かれています。
具体的には、頭痛、眩暈(めまい)、耳鳴り、脳出血、各種の出血、心臓病、動脈硬変、男女の泌尿・生殖病、いぼ痔、脱肛等に有効だそうです。
ただし、この薬は比較的体力のある人に適していて、貧血の人や衰弱している人には向かないのでご注意ください。
前回も書きましたが、漢方薬を使う場合は自己判断せず、漢方医に診断してもらって最適な薬を処方してもらうようにしてください。