前回までは、健康の維持・増進には食事が大切であるという観点から、食養道というものをご紹介してきましたが、実は食事よりも大切なものがあります。
それは呼吸です。その証拠に、食事は3日間食べなくても死ぬことはありませんが、呼吸が数分間止まると、それだけで死に至ります。
呼吸に関しては、以前、このブログの「呼吸法について」で、丹田を意識した呼吸が大切であるということをお伝えしましたが、最近、国立国会図書館デジタルコレクションで『現代強健法の真髄』(大津復活:著、大同館書店:1918年刊)という、主に呼吸によって健康になる方法をまとめた本を見つけたので、これからしばらくはこの本をご紹介していきたいと思います。
この本は大正7年に出版されていますが、どうやらこの本が出版される十数年前から健康法のブームが日本に起こっていたようで、この本には、そういった様々な健康法が分かりやすく解説されています。
また、この本には、最初に古代の呼吸法が紹介されているのですが、特に興味深いのは、日本に神代の昔から伝わる禊の行(みそぎのぎょう)において、「伊吹」(いぶき)という特殊な呼吸法が行なわれていたとされることです。
しかも、伊吹には表の伊吹とは別に裏伊吹(うらいぶき)という、他人に気づかれずに行なう深呼吸法があって、これは、弓馬刀槍の武芸から、茶の湯、生け花に至るまで、百般の技芸の極意に通じ、同時に健康法の極意ともされてきたそうです。
残念ながら、裏伊吹は秘伝で、この技を継承した人から直接教わらないかぎり、習得するチャンスはないそうです。また、著者の大津復活氏は、この技が忘れられようとしていることを嘆いているので、現代に伝わっているのかどうか定かではありません。
この本によると、深呼吸が健康上極めて有効であることを明らかにした殊勲者は、医学博士の二木謙三氏だそうですが、二木氏によると、これは古典を研究した結果であり、最初に読んだ本は、平田篤胤(ひらたあつたね)翁の『志都乃石室』(しづのいわや)だったそうです。
そういうわけで、次回は志都乃石室のお話です。