マーク・ラッペ氏が書いた『皮膚 美と健康の最前線』(川口啓明・菊地昌子:訳、大月書店:1999年刊)という本をご紹介しています。今回は第8回目です。
◆皮膚の防御
皮膚の表面は弱酸性になっていて、これがあまり活動的でない細菌の侵入を効果的に防ぐ第一の防御線になっています。
それでも皮膚の内部に侵入してきた細菌やカビは、免疫細胞の働きによって排除されます。これが第二の防御線です。
皮膚の一群の免疫細胞の頂点にあるのがランゲルハンス細胞で、これが免疫反応を調整しているそうです。
ランゲルハンス細胞は表皮に広く分散していて、指状の細い突起を多数のばして網状となり、侵入してきた細菌やカビをとらえて処理し、他の免疫細胞に異物が侵入してきたことを伝えます。
エイズ患者がカビ感染症などに弱いのは、このランゲルハンス細胞がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の攻撃によって全滅してしまうからです。
化学物質は、皮膚の内部に容易に侵入してきますが、皮膚には精巧な化学物質の解毒系があり、これによって有害な化学物質の多くは代謝され解毒されます。これが第三の防御線です。
皮膚の細胞にはミクロソームという細胞器官があり、ここに含まれる解毒酵素によって有害な化学物質は最終的に水溶性の代謝物に変えられ、体外に排泄されます。
この解毒酵素によって、医薬品が効力を発揮する化学物質に変わる場合もあるそうです。たとえば、炎症を抑えるコルチゾンを皮膚に塗ると、解毒酵素によって活性型のヒドロコルチゾンに変わり、これが抗炎症作用を示すそうです。
逆に、毒性のある物質がさらに有毒な物質に変わる場合もあるそうで、ベンツピレンという発がん物質は、解毒酵素によって強力な発がん性を示すエポキシド化合物に変化するそうです。
皮膚の解毒反応はとても静かに進行するので、我々はさまざまな有毒化学物質が体に侵入していることに通常は気がつきません。
しかし、侵入した化学物質が解毒される前に皮膚のタンパク質としっかり結合してしまうと、解毒に失敗してアレルギー反応が引き起こされ、かゆみなどの不快な症状を通じて我々は有毒物質が体内に入ったことを知ります。ウルシにかぶれた状態が、その典型的な例です。
したがって、皮膚病の多くは、皮膚を防御する適応的な反応が失敗に終わった結果であるとみなすことができます。
ところで、第二の防御線である皮膚の免疫系は、体全体を守る要(かなめ)ですが、守りが限度をこすと過敏症がもたらされます。
というわけで、次回は免疫系と過敏症についてのお話です。