「違う違う」と、オモラは思わず口走っていた。「そうじゃないよ、左手のやつを――そうそう。わかってるじゃないか」
少年は手間取りながらも、なんとかロープを結び終えた。しかし少年は、手を貸すことをやめず、なおも束ねた鳶口を背負うと、多少よろめきながらも、乗合馬車の傍らまで運んでいった。
「――ちょいと、おまえ」と、オモラもさすがにこれにはあきれて、少年をちょっと小突くと、叱るように言った。
「こんなことしたからって、金なんか稼げやしないよ」
少年が、ふっと顔を上げた。邪気のない子供っぽい二つの瞳が、大切な宝物のように輝いていた。その瞳を吸いつけられたように見たオモラは、なぜか二の句を言い出せなかった。
「すみません。ぼく、お金はいりません。でも、お願いですから、今夜ひと晩、泊めてください」
少年は帽子を取ると、胸の前で祈るように握った。
「ふざけるんじゃないよ」
という思いとは裏腹に、オモラは小刻みに揺れる馬車の中、自分の隣に少年を座らせていた。
少年は手間取りながらも、なんとかロープを結び終えた。しかし少年は、手を貸すことをやめず、なおも束ねた鳶口を背負うと、多少よろめきながらも、乗合馬車の傍らまで運んでいった。
「――ちょいと、おまえ」と、オモラもさすがにこれにはあきれて、少年をちょっと小突くと、叱るように言った。
「こんなことしたからって、金なんか稼げやしないよ」
少年が、ふっと顔を上げた。邪気のない子供っぽい二つの瞳が、大切な宝物のように輝いていた。その瞳を吸いつけられたように見たオモラは、なぜか二の句を言い出せなかった。
「すみません。ぼく、お金はいりません。でも、お願いですから、今夜ひと晩、泊めてください」
少年は帽子を取ると、胸の前で祈るように握った。
「ふざけるんじゃないよ」
という思いとは裏腹に、オモラは小刻みに揺れる馬車の中、自分の隣に少年を座らせていた。