くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(112)

2019-07-21 20:22:10 | 「機械仕掛けの青い鳥」
 ソラは門をくぐると、縦に格子の入ったガラス戸に向かい、呼び鈴を押した。無表情な老婦人のそばに立っているウミが、心配そうにソラを見ていた。
 門と同じく、時代を感じさせる呼び鈴が、ブブーン――と、耳障りな音をたてた。
 トントントン――と、小気味のいい足音が聞こえてきた。
 チュン、チュチュン――と、足音に反応したのか、元気のいい小鳥の鳴き声が聞こえた。

「はい、どちら様でしょう」

 ガラガラと音を鳴らして引き戸が開いた。玄関に立っていたのは、すっかり白くなった髪を後ろで結わえた、おばあさんだった。年齢はどのくらいなのか、ソラはおばあさんの外見に比べ、キラキラとした目と、はっきりとした口調から、それほど年を取っているようには感じなかった。
「……あら、かわいらしいお客さんだこと」
 思わぬ訪問者に顔をほころばせたおばあさんは、門の前から動こうとしない老婦人を、ちらりと見やった。
 と、ソラが、玄関の奥に見つけた鳥籠を指さした。
「青い、鳥だ――」
「かわいいでしょ。とってもめずらしいのよ」おばあさんは、青い鳥が見やすいように体を動かすと、ソラに言った。「難しいことはわからないけれど、戦争でなにもかも失った私の所へ、迷いこんできた鳥とそっくりなの。亡くなった主人が、外国へ行った帰りに私の話を覚えていて、連れてきてくれた鳥なのよ。この鳥を見ていると、大切なものがまだ失われずに残っているような気がして、とっても心が落ち着くの」
 ウミが、ちらりと老婦人の顔を見上げながら、杖を持った手の袖をギュッとつかんだ。
「――もしかして」と、青い鳥を覗きこんでいたソラが言った。「探偵のお兄さんが、探していませんでしたか?」
「どうして知ってるの」と、おばあさんは口に手を当てて驚いた。「探偵もやっているとは知らなかったけど、今朝がたエサをあげる時に鳥を逃がしてしまって、何でも屋さんに探してもらってたのよ」
「なーんだ、世界的な事件だなんて嘘ばっかり」と、ソラはあきれたように言った。
「なにかあったのかしらね」と、おばあさんが心配そうに言った。「ちょっと前に届けに来てくれたんだけど、着ていたシャツがよれよれだったのよ……」
「いえ、心配することないと思います」ソラは、あわてて打ち消すように言った。「きっと、大丈夫ですから」
「そうだといいけど――」と言って、おばあさんは小さく息を吐いた。
「はじめまして」と、ウミがソラをどけて、前に出てきた。その後ろには、ウミに袖をつかまれた老婦人がいた。老婦人は、グッと歯を食いしばりながら、声にならない言葉を探しているようだった。

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