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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

未来の落とし物(139)

2025-07-03 21:02:00 | 「未来の落とし物」


 ――――
  
「いないようだな」と、ジローはボスとの合流場所に来て、小さな声で言った。
「なにかあったようね」と、沙織はきょろきょろせず、まっすぐ前を見ながら言った。
「スカイ・ガールの仕業か」と、ジローは沙織と並んで歩きながら言った。
 夜もすっかり更け、町を歩く人はめっきり少なく、仕事帰りの車なのか、ヘッドライトを眩しく点した車が、足早に通り過ぎていった。
「キングも見当たらないみたいだ」と、ジローは立ち止まると、合流場所を振り返りながら言った。
「――そんなことはない、はずだけれど」と、立ち止まった沙織は、ため息をつくように言った。

 ザッププン――……

 と、二人の足下から、潜水艦の艦橋が伸び上がってきた。
 沙織を抱きかかえて、素早く後ろに飛び下がったジローは、地面から伸びてきた潜水艦の艦橋に手を掛けると、ハッチを開けて沙織の手を引き、潜水艦の中に入っていった。

「どこに行っていたんだ」

 と、ジローはブリッジに降りてくると、操縦席に座っている亜珠理を見て、驚いたように言った。「――ボス達はどうしたんだ」
 操縦桿を握っていた亜珠理は、必死で潜水艦を操縦しながら言った。
「ボス達なら、警察に捕まりました」
「やられたわね」と、マスクをつけたまま、沙織がくやしそうに言った。
「スカイ・ガール達か、タイムパトロールの連中か、いずれにしろ、ここから難しくなるな」と、ジローは言った。「潜水艦の操縦はどこで覚えたんだ」と、ジローは操縦桿を握っている亜珠理に言った。
「偶然かもしれないけれど、ボス達が潜水艦を予定よりも離れたところに停泊させていたから、誰かに持って行かれる前に見つけて、私が動かしたんです」と、亜珠理は潜水艦の操縦で手一杯なのか、心持ち早口で言った。「なんとか動かさなきゃと思って、どうにか操縦してるんですけど、よかったら、替わってもらえませんか」
 ふふふ――と、おかしそうに笑う沙織を横目に、ジローは亜珠理に替わって席に座ると、操縦桿を握った。
「ボス達は残念だが、計画どおりにアジトに向かおう」と、ジローは言った。
「あなた、家に連絡しなくて大丈夫?」と、沙織は亜珠理に言った。
「潜水艦を見つけてすぐ、母親に連絡を入れたんで、大丈夫です」と、亜珠理は携帯電話を取り出すと、沙織に見せてからポケットにしまった。
「アジトの場所はわかるの?」と、沙織は潜望鏡を引きおろすと、外の様子を見ながら言った。
「ああ。大体の位置は教えてもらった」と、ジローは自信ありげに言った。「少し揺れるかもしれないぞ」

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未来の落とし物(138)

2025-07-03 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「ラッパ? だったっけ」と、眼帯は考えるように言った。「外の三人なら、先に警察署に行ってもらったよ」
「わかりました」と、ボスは言うと、眼帯と一緒にいた制服警官の二人に挟まれながら、陰に止められていたパトカーに乗りこんだ。
「どうして、あの場所にいるってわかったんですか」と、後部座席に座らされたボスは、隣に座った眼帯に聞いた。
「――それは秘密だよ」と、眼帯はとぼけたように言った。「だがな、これだけは覚えておいてくれ。空を飛べたり、腕力が強いことだけが、正しいってわけじゃないってな」
「――」と、ボスはうなずいた。
「人には事情があるんだよな。ちゃんと話をしようじゃないか」と、眼帯は窓の外を見ながら言った。
 うつむいていたボスは、眼帯がなにかを見つけて振り返ると、自分も顔を上げて窓の外をうかがった。
 わずかの間だったが、学生が体育の授業で身につけるジャージー姿に、どうにも不釣り合いなマスクを被った女子が、ゆうゆうと通り過ぎていったように見えた。
「よかった――」と、ボスは思わず声を出していた。
 パトカーの車内にいた警察官達が、怪しげな視線をボスに向けた。
 ボスははっとして息をのむと、またがっくりとうなだれたようにうつむいた。
 しかしその口元には、安心したような笑みが浮かんでいた。

「どうしちゃったの」

 と、亜珠理は走っていた足を緩めると、赤いライトを点滅させて通り過ぎるパトカーを目で追った。
 ちらりと、パトカーの後部座席に、窮屈そうに身をかがめているボスの姿が見えたからだった。
 計画通りにタイムパトロールから逃れ、合流場所まで走ってきた亜珠理だったが、ボスが警察に捕まってしまった今、どうすればいいのか、すぐには動き出せなかった。
 マスクを被っているのは、スカイ・ガールの動きを察知するのが目的だったが、今のところ、亜珠理達を狙って動き出している様子はなかった。
 だったらなおさら、ボス達が警察に捕まったのは、想定外だった。
 マスクを被っているせいか、亜珠理は潜水艦が近くにあるように感じて、早足で近くを探してみた。
 亜珠理が感じたとおり、ボス達が乗っていた潜水艦の艦橋が、商店の前に設えられた自販機の隣に、にょきりと伸びているのを見つけた。
 亜珠理は赤い自販機がぶつぶつと耳慣れたCMを繰り返しているのを聞きながら、潜水艦に乗りこむと、躊躇することなく、当てずっぽうに操縦桿を握って、進み始めた。

 

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未来の落とし物(137)

2025-07-03 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「――心配しすぎかもしれないけどな」と、ボスは艦橋の先にあるハッチを気にしながら言った。「なんかあったのかもしれない」
「ほら、だからボスは心配しすぎるんですって」と、ササキは言うと、面倒くさそうに立ち上がった。「ちょっと見てきますよ」

「あの二人のことだから」

 と、ササキはハッチの扉を開けながら言った。「無事にタイムパトロールから逃げ切れたキングと、帰ってくる途中で腹ごしらえでもしてると思いますよ」
「だったらいいんだけどな――」と、ボスは腕組みをしながら言った。
「ちょっと待っててください。潜水艦のまわり見てきますんで」と、ササキは困ったように言うと、ぶつぶつと恨み言を言いながら、艦橋のハッチから外に出て行った。

「――遅い」

 と、ボスは大きな声で言った。
 誰もいない潜水艦の中で、ボスの声がさみしげに聞こえた。
「どいつもこいつも、言わんこっちゃないんだ」と、ボスは用心のため、潜水艦を少し移動させると、操縦桿を動かないように固定させ、エンジンを動かしたまま、艦橋のハッチを開けて外に出た。
 ――ひょっこりと顔を出したボスの目の前には、道路に敷かれたアスファルトが広がっていた。
 町の明かりに照らし出された人影はちらほら見えていた。ボスは、素早くハッチを閉めて地面に立ち上がった。
 外は星明かりまぶしいくらい晴れていたが、雪が降ってもおかしくないくらい、寒かった。
 こんな寒い中、あいつらどこでなにしてやがるんだ――と、ササキが仲間を探しに行った方向を直感で探ると、白い息を吐きながら歩き始めた。

「泥棒のリーダーは、おまえだな」

 と、ボスが歩き始めてすぐ、後ろから声が聞こえた。
 息が止まるほど驚いたボスは、しかし冷や汗を搔きながらも動揺を表には出さず、立ち止まったまま、後ろを振り返った。
「やっぱり、おまえか。何回か会ったことあるよな」と、暗い中から姿を現した眼帯をつけた刑事は、ため息をつきながら言った。「宝石店に押し入っただろ。くわしい話を聞きたいから、警察署まで来てくれないか」
「――」と、ボスは顔色を失いながら、大きくうなずいた。「ほかの連中は、知りませんか」

 

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