8
トミヨからもらった地図に従って、サトルは黄色いカレー粉の砂漠を抜けると、宝石をちりばめたように光り輝く大きな川に出た。
砂漠の乾きが信じられないほど、とうとうと豊かに水をたたえた川は、じっと見ていると目が痛くなるほど、砂漠に照りつける強い日差しを、キラキラと反射させていた。瞬く光は、火傷しそうなほど熱い火花を、四方に飛び散らしているようだった。川床の石に弾んだ流れが、ピシャリと跳ねあがり、小さな白波のしぶきを涼しげに上げていた。
サトルは地図に従って、さらに上流へと、ひたすら川に沿って歩き続けた。
「なんだあれ、波が光ってるわけじゃないぞ――」と、トッピーが金魚鉢から顔を出して、サトルに言った。
「えっ?」と、サトルは目を細めながら、まぶしく光る川を見た。よく見ると、四角い氷のような粒が、ぷかぷかと川面を埋め尽くすほど浮かんでいた。さわさわと、小さな波に浮き沈みする立方体は、上流から途切れることなく流れ続け、波に乗って互いにぶつかり合いながら、まぶしい光を反射させて踊るように下流へ流れていった。
「おい、なにすんだよ」と、トッピーが怒ったように言った。
サトルは、脇に抱えていた金魚鉢を足下に置くと、急ぎ足で川に近づいた。靴の中に水が入らないよう、そっと川の縁に足を踏み出すと、手を伸ばして近くに流れてきた立方体を拾った。
「トッピー、こんなの見た事ある?」と、サトルは透きとおった立方体を指でつまむと、金魚鉢の方に腕を伸ばした。
「――生きてる、のか……」と、トッピーは出目金のように目を見開いたまま、ぷくりと泡をひとつ、言葉を失った。
サトルが拾った立方体は、軽いガラスのようだった。透き通っているせいで、一見すると型に入れて作った氷のようだったが、けして冷たくはなく、手で持っていても溶けることはなかった。不思議なのは、その中身だった。緑とも青ともつかない、淡い色の煙を閉じこめたようだった。見ていると、ゆらりゆらりと流れるように形を変える煙は、トッピーが目を丸くしたとおり、まるで生きているかのようだった。
「どこから流れてきたんだろう……」と、サトルは首をかしげた。
行く先には、緑に溢れる山々が連なっていた。積木の山までは、あともう少しだった。後ろを振り返ると、黄色い砂漠が、自分でも驚くほど遠くに見えていた。ゴツゴツと聳えていた岩山の頂上が、しっかりと見下ろせた。
「ずいぶん歩いてきたんだなぁ」と、トッピーがしみじみと言った。
「ちぇ、歩いてきたのは、ぼくじゃないか」と、サトルは額の汗を拭きながら、不機嫌そうに言った。
日が暮れると、サトルは川のそばの高台で休むことにした。目の前の林でたきぎを拾ってくると、サトルはランドセルから物語をかなえる本を取り出して、火をつけた。手にした本が、金色の光をまぶしく迸らせると、互い違いに組んだ細いたきぎが、金粉を振りかけたようにチラチラと輝き、赤々とした炎が、一気に燃え上がった。
トミヨからもらった地図に従って、サトルは黄色いカレー粉の砂漠を抜けると、宝石をちりばめたように光り輝く大きな川に出た。
砂漠の乾きが信じられないほど、とうとうと豊かに水をたたえた川は、じっと見ていると目が痛くなるほど、砂漠に照りつける強い日差しを、キラキラと反射させていた。瞬く光は、火傷しそうなほど熱い火花を、四方に飛び散らしているようだった。川床の石に弾んだ流れが、ピシャリと跳ねあがり、小さな白波のしぶきを涼しげに上げていた。
サトルは地図に従って、さらに上流へと、ひたすら川に沿って歩き続けた。
「なんだあれ、波が光ってるわけじゃないぞ――」と、トッピーが金魚鉢から顔を出して、サトルに言った。
「えっ?」と、サトルは目を細めながら、まぶしく光る川を見た。よく見ると、四角い氷のような粒が、ぷかぷかと川面を埋め尽くすほど浮かんでいた。さわさわと、小さな波に浮き沈みする立方体は、上流から途切れることなく流れ続け、波に乗って互いにぶつかり合いながら、まぶしい光を反射させて踊るように下流へ流れていった。
「おい、なにすんだよ」と、トッピーが怒ったように言った。
サトルは、脇に抱えていた金魚鉢を足下に置くと、急ぎ足で川に近づいた。靴の中に水が入らないよう、そっと川の縁に足を踏み出すと、手を伸ばして近くに流れてきた立方体を拾った。
「トッピー、こんなの見た事ある?」と、サトルは透きとおった立方体を指でつまむと、金魚鉢の方に腕を伸ばした。
「――生きてる、のか……」と、トッピーは出目金のように目を見開いたまま、ぷくりと泡をひとつ、言葉を失った。
サトルが拾った立方体は、軽いガラスのようだった。透き通っているせいで、一見すると型に入れて作った氷のようだったが、けして冷たくはなく、手で持っていても溶けることはなかった。不思議なのは、その中身だった。緑とも青ともつかない、淡い色の煙を閉じこめたようだった。見ていると、ゆらりゆらりと流れるように形を変える煙は、トッピーが目を丸くしたとおり、まるで生きているかのようだった。
「どこから流れてきたんだろう……」と、サトルは首をかしげた。
行く先には、緑に溢れる山々が連なっていた。積木の山までは、あともう少しだった。後ろを振り返ると、黄色い砂漠が、自分でも驚くほど遠くに見えていた。ゴツゴツと聳えていた岩山の頂上が、しっかりと見下ろせた。
「ずいぶん歩いてきたんだなぁ」と、トッピーがしみじみと言った。
「ちぇ、歩いてきたのは、ぼくじゃないか」と、サトルは額の汗を拭きながら、不機嫌そうに言った。
日が暮れると、サトルは川のそばの高台で休むことにした。目の前の林でたきぎを拾ってくると、サトルはランドセルから物語をかなえる本を取り出して、火をつけた。手にした本が、金色の光をまぶしく迸らせると、互い違いに組んだ細いたきぎが、金粉を振りかけたようにチラチラと輝き、赤々とした炎が、一気に燃え上がった。