10
又三郎は夢を見ていた。
夢の中で、死の砂漠をさまよっていた。
ここはどこなのか。一体何が起こったのか。思い出そうとすると、頭の中がキリキリと針を刺すような痛みに襲われた。
ほとんど失われてしまった記憶の中で、青騎士と対決したことだけは、はっきりと覚えていた。
どのくらいさまよっていたのか、たどり着いたところは、山のように大きな樹の根本だった。樹は、草木のまったくない乾ききった砂漠の中にあって、なぜか青々と、葉を茂らせていた。
「迷える者よ――」と、大きな樹は言った。「君がまた信念を取り戻し、自分の存在に感じた疑問を振り払うことができたなら、落ちてきた世界へ戻ることができるだろう」
青騎士を捜して、又三郎は、再び死の砂漠をさまよっていた。もうろうとした意識の中で、砂漠の樹王が言っていた言葉を、繰り返し思い出していた。
「ワシの葉は、死の砂漠に落ちた者を地上に戻す力を持っている。自分を見失い、風に流されるがままの砂に姿を変えたくなければ、手に取った葉を肌身離さず、己の幻影に打ち勝つがいい」
振り返ると、見上げるほど背の高い青騎士が、恐ろしげな大剣を手にして立っていた。
「フッフッフッ――どうだ、驚いたか、私はいつもおまえのそばにいる」憎々しげに笑う青騎士が、兜の面を片手で持ち上げた。
ギリリ……と耳障りな金属音を軋ませ、兜の下から、もう一人の又三郎が顔を出した。
「おまえがおまえであったのは、ここまでだ。ここからは、オレが本物のオレになる……」
又三郎は、青騎士から目を離さず、足下の砂に手を入れると、鋼鉄のドン突き棒を引き抜いた。
青騎士が、大剣を両手で持ち、ゆっくりと高く構えた。
鋼鉄の棒を腰だめに構えた又三郎が、ヒュッと短い息を吐き、砂を蹴った。ためらうことなく、真正面から青騎士に向かっていった。
大剣と鋼鉄の棒が、同時に閃いた。
勝負は、一瞬で決まった。
―――又三郎は、目を覚ました。
ふかふかのベッドで横になっていた又三郎は、むくりと体を起こすと、二本足で床に立ち上がった。すぐにおぼつかない足取りで部屋を出ると、空腹で腹がキリキリと痛むのをこらえながら、サトルを捜した。
廊下の窓から、城壁の上にいるサトルの姿が見えた。
又三郎は砦の外に出ると、城壁に登る階段に向かった。すると、ちょうどサトルが階段を駆け下りてきた。
歩いてくる又三郎を見つけると、サトルは驚いたように言った。
「もう、大丈夫なの……」
「手間をかけさせてしまって、申し訳ありませんでした」と、又三郎は頭を下げた。「それより、なにをされていたんですか。不用心に城壁の外へ姿を見せては、危険です」
「ごめんよ――」と、サトルはきびしい表情を浮かべた又三郎に言った。「ちょっと見回りをしてただけなんだ。それより、お腹は空いてない? ずっと寝ていたから、きっとお腹がペコペコでしょ……。もうそろそろお昼だし、食事にしようよ」
又三郎は夢を見ていた。
夢の中で、死の砂漠をさまよっていた。
ここはどこなのか。一体何が起こったのか。思い出そうとすると、頭の中がキリキリと針を刺すような痛みに襲われた。
ほとんど失われてしまった記憶の中で、青騎士と対決したことだけは、はっきりと覚えていた。
どのくらいさまよっていたのか、たどり着いたところは、山のように大きな樹の根本だった。樹は、草木のまったくない乾ききった砂漠の中にあって、なぜか青々と、葉を茂らせていた。
「迷える者よ――」と、大きな樹は言った。「君がまた信念を取り戻し、自分の存在に感じた疑問を振り払うことができたなら、落ちてきた世界へ戻ることができるだろう」
青騎士を捜して、又三郎は、再び死の砂漠をさまよっていた。もうろうとした意識の中で、砂漠の樹王が言っていた言葉を、繰り返し思い出していた。
「ワシの葉は、死の砂漠に落ちた者を地上に戻す力を持っている。自分を見失い、風に流されるがままの砂に姿を変えたくなければ、手に取った葉を肌身離さず、己の幻影に打ち勝つがいい」
振り返ると、見上げるほど背の高い青騎士が、恐ろしげな大剣を手にして立っていた。
「フッフッフッ――どうだ、驚いたか、私はいつもおまえのそばにいる」憎々しげに笑う青騎士が、兜の面を片手で持ち上げた。
ギリリ……と耳障りな金属音を軋ませ、兜の下から、もう一人の又三郎が顔を出した。
「おまえがおまえであったのは、ここまでだ。ここからは、オレが本物のオレになる……」
又三郎は、青騎士から目を離さず、足下の砂に手を入れると、鋼鉄のドン突き棒を引き抜いた。
青騎士が、大剣を両手で持ち、ゆっくりと高く構えた。
鋼鉄の棒を腰だめに構えた又三郎が、ヒュッと短い息を吐き、砂を蹴った。ためらうことなく、真正面から青騎士に向かっていった。
大剣と鋼鉄の棒が、同時に閃いた。
勝負は、一瞬で決まった。
―――又三郎は、目を覚ました。
ふかふかのベッドで横になっていた又三郎は、むくりと体を起こすと、二本足で床に立ち上がった。すぐにおぼつかない足取りで部屋を出ると、空腹で腹がキリキリと痛むのをこらえながら、サトルを捜した。
廊下の窓から、城壁の上にいるサトルの姿が見えた。
又三郎は砦の外に出ると、城壁に登る階段に向かった。すると、ちょうどサトルが階段を駆け下りてきた。
歩いてくる又三郎を見つけると、サトルは驚いたように言った。
「もう、大丈夫なの……」
「手間をかけさせてしまって、申し訳ありませんでした」と、又三郎は頭を下げた。「それより、なにをされていたんですか。不用心に城壁の外へ姿を見せては、危険です」
「ごめんよ――」と、サトルはきびしい表情を浮かべた又三郎に言った。「ちょっと見回りをしてただけなんだ。それより、お腹は空いてない? ずっと寝ていたから、きっとお腹がペコペコでしょ……。もうそろそろお昼だし、食事にしようよ」