『ほぇ、イノシシの巣を見たことがあるかん?』
「ヌタ場はあっちこっちで見るけど巣は見たこと無いのん」
解体が一段落して一服しているとき、長老の久栄さんが話しだした。
久栄さんの話によると【又ヤ】にイノシシの巣があるという。
【コデロ】にもあるが【又ヤ】のは県道のすぐ近く、歩いて4・5分
のところにあって、イノシシはその中で子を産み育てるのだそうである。
面白そうだ、毎日通っているところなので、話の種にちょっと寄って見ることにした。
久栄さんに聞いたとおりに、豊川新城線、総合公園北口の向かいの山道を
100メートルほど上って行くと、木立が途切れ少し開けた萱場の中にそれはあった。
差渡し3メートル、高さは60~70センチぐらい、中が空洞になるように
上手く萱を組み合せ丸く積み上げてある。これなら雨露を凌げるし人目にもつかない。
好き放題にヌタ打ち、ところかまわずボコボコにするイノシシが、
こんなきれいに巣を作るとは信じ難い。手は使えないはずだから、
口で萱を噛み切って並べるのだろうが、生まれて一年ほど経てば、
誰に教わることもなく作る。大したものだ。
イノシシの母は強い。産屋の準備、出産、子育て、外敵への備え…
誰の助けも借りぬ、全部自分一人だけでやる。大したものだ。感動する。
尤も自然界ではこれが普通で、自分では何もできない人間のほうが異常なのだ。