出沢では、毎年、この時期、防災訓練のあと八平神社の境内に集まり、「二百十日のご信心」に、お千度参りをする。
台風の多い季節なので風しずめの祈願をするのだ。
まず、雑祭を取り仕切る副区長が、1000枚葉のついた榊の小枝を用意する。各自、榊の小枝を持って、一枚、葉を千切って祭壇に供え、拝礼をして外側から回り込んで列の後ろに付く。これを延々とくり返す。全部の葉を参り終えたとき千回参ったことになる。今日は50人程だったから、20回ぐらいは廻っただろう。
枝の葉の数は一定ではないので、廻っているうちに先に終る者が出てくる。すると、葉を多く残している者が分けてやり、最後の葉を参り終えると、区長の音頭で一同拝礼し、「二百十日のご信心」を終る。
いつ頃から始まったのか長老に訊ねてみた。
『さあ?、とにかく昔からやっとることだが、神様だで、お寺よりは先だと思うがノン』
出沢のお寺は700年余の歴史があるというから、およそ千年近く皆でお千度を踏んできたわけだ。
ぐるぐる、グルグル回りながら、自然の猛威に対して、只、祈るしかない人間の非力さを、村民全員で助け合い、協力して生きていく知恵を、一千年の間語り継いできたのだ。
しかし、よく考えてみると、神前に供えている榊の葉は、確実に千回参るためのカウンターであって供物ではない。神様だって榊の葉を貰っても、どうしようもない。お賽銭のほうがいいに決まっていると思うのだが・・・。
それでも多分、出沢の神様はこころが広い、頼まれると断われないのは人も神様も同じだ。細かいことはいわずに
「『よし!、分かった。』」
と、この日小笠原方面から、虎視眈々と出沢を窺っていた台風11号を、房総沖へとはじき飛ばした。