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勝手に朝早く出社したり,夜遅くまで残業したりして,割増賃金の請求をしてくる。

2012-01-05 | 日記
Q20 勝手に朝早く出社したり,夜遅くまで残業したりして,割増賃金の請求をしてくる。

 不必要に残業をする社員に対しては,注意,指導して,改めさせる必要があります。
 長時間労働は,残業代請求の問題にとどまるものではなく,過労死,過労自殺,うつ病等の問題にもつながりますので,放置してはいけません。

 残業させたら割増賃金の支払を免れることはできないという前提で考える必要があります。
 残業自体を減らすことで割増賃金の発生を抑制するか,割増賃金を支払済みにしておく必要があります。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因であった場合であっても,現実に残業している場合は,残業時間として割増賃金の支払義務が生じることになります。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは,注意,指導,教育等で改善させるとともに,人事考課で考慮すべき問題であって,残業時間に対し割増賃金を支払わなくてもよくなるわけではありません。
 仕事の合間に,食事したり,仕事とは関係のない本を読んだり,おしゃべりしたり,居眠りした場合であっても,それが何月何日の何時から何時までのことなのか特定できないと,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないことが多いです。
 まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,特定ができないのが通常です。
 注意,指導,人事考課等により対処するのが現実的だと思います。

 一定金額の残業手当を支給し,その金額の範囲内で残業を行う旨合意されていたとしても,残業手当の金額を超えて割増賃金が発生している場合は,不足額部分の支払義務が生じることになりますので,そのような合意で割増賃金の額を限定することはできません。
 例えば,「月5万円の残業代を払うから,5万円の範囲内で残業して下さい。」と伝えていたとしても,社員が現実に残業した時間で残業代を計算した結果,残業代の金額が5万円を超えた場合は,原則として追加の割増賃金の支払を余儀なくされることになります。

 部下に残業させて割増賃金を支払うのか,残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任ですから,社員の残業代問題は,上司の管理能力が問われることになります。
 その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については,翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となることもあります。
 明示の残業命令を出していなくても,残業していることを知りながら放置していた場合は,想定外の時間にまで残業していたような例外を除き,黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。
 実際の事案では,どれだけ残業していたのかはよく分からなくても,残業していたこと自体は上司が認識しつつ放置していることが多いというのが実情です。
 上司が残業に気付いたら,残業をやめさせて帰宅させるか,割増賃金の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。
 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定められていたとしても,実際には決済を受けずに仕事をしていて,上司がそれを知りつつ放置していた場合は,黙示の残業命令により残業していたと認定され,割増賃金の支払を余儀なくされることになります。
 「上司が先に帰って,部下が上司の知らないところで残業したような場合も,残業代を支払わなければならないのですか?」といった質問を受けることがありますが,弁護士に相談するような事案はたいてい,毎日のように部下が残業をしているのを上司が知りながら放置しているケースです。
 部下がたまたま1日だけ,上司の知らないうちにこっそり残業したといった程度の場合は,そもそも,弁護士に相談しなければならないような問題にはなりません。

 残業代請求の訴訟では,タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が,その日の実労働時間と認定されることが多くなっています。
 タイムカードの打刻時間が,実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は,それを敢えて容認してタイムカードに基づいて割増賃金を支払うか,働き始める直前,働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにすべきでしょう。

 労働時間(残業時間)の自己申告制を採用している会社も多いですが,自己申告制では,現実の労働時間残業時間よりも少ない時間が申告されることがあります。
 後から訴訟になった場合,自己申告した労働時間が,実際の労働時間に満たない場合は,実際の労働時間に基づいて割増賃金が算定されることになります。
 適切に運用しないと,隠れ残業時間(残業代不払い)が生じるリスクを負うことになりかねません。

 長時間労働は,過労死,過労自殺,うつ病等の問題が生じやすいです。
 当該社員の人生が破壊されるだけでなく,会社も高額の損害賠償義務を負うことになることがあります。
 本人の同意があったとしても,月80時間を超えるような時間外・休日労働をさせるのは勧められません。
 時間外・休日労働は,できる限り月45時間以内に抑えるべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎
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