新谷研究室

新谷研究室の教育・研究・社会活動及びそれにかかわる新谷個人の問題を考える。

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2005年05月16日 09時51分40秒 | 教育・研究
 7日に東京でやったさる出版記念パーティーとはこの本のことであった。
 中野実研究会編『反大学論と大学史研究』東信堂 4800円だ。
 畏友中野実が亡くなって三年になるが中野実にまつわる3冊目の出版物になる。中野実は実は反大学論者であった。彼の若い頃を知る人間にとってはある程度知られていたことではあるが、彼が大学史研究者として名をなしてからはあまり語られることもなく、次世代の人々は知らなかったであろうと思われる。
 本書は中野実の反大学論及び大学論にかかわる文章と彼をめぐる人々の回想文などによって構成されているが、実はすぐれて70年代という時代を描いた本となっている。60年代が大学闘争に象徴されるように政治の時代であったのに対して70年代は赤軍派のハイジャック事件で幕を開ける。つまり、政治の季節が終わりを告げ、展望のない閉塞感の中で60年代を引きずる最後のあがきのようなものが大学の中に澱のように溜まっていた時代であったからだ。中野実はそういう時代の中で大学生となった。表紙カバーにはいみじくも彼の出身の立教大学と、彼の最後の職場となった東京大学をそれぞれ象徴する建物の写真が並んでいる。そして彼はいずれの大学にもnonを唱え、いずれの大学をも愛した。私大出身の反大学論者が帝国大学の頂点であるトーダイのアイデンティティを構築する仕事の第一人者となっていったこと。そしてそれは決して反大学論への裏切りではなかったことを本書は描こうとしている。同時にそういう生き方が70年代という時代を象徴していると思う。
 単なる一大学史研究者の死を惜しむ追悼の書としてではなく、大学史を研究する課題意識、大学問題に直接向き合うパトスをここから汲み取る書として若い世代の研究者は読むべきであろうと思う。研究に取り組む課題意識を見つめ直すために。