ほんわか亭日記

ダンスとエッセイが好きな主婦のおしゃべり横町です♪

「家を売る」

2015-01-26 | エッセイ
2015年1月26日(月)

今日は、先日のエッセイサークルの例会に出したエッセイを・・。(文中仮名)

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「家を売る」                          
 不動産会社の担当者の宮下さんから電話が来た。売りに出していた以前の自宅に買い手がついた
そうだ。駅前マンションへ五月に移って半年、「やっと」と、安堵した。その間、
「この家は絶対に売れますよと、請合ってくれていたじゃない。不動産屋さんは何をしているの。
そんなにダメな家だったの?引越しをしないほうが良かったのかしら……」
 と、不安が募っていったのだが、一転、宮下さんにお礼を言う声が弾んでくる。
 その週のうちに、宮下さんが、相手の方の不動産購入申込書のコピーを持ってやって来た。
購入価格は、既に、こちらの販売予定価格よりだいぶ安く決まっていたが、もうそれで良い。
売れるほうが大事だ。買い手は、同じ市内の六十代の男性で、八十を越したご両親と同居するための
家を探していたと聞いて、
「あの家は日当たりの良い角地だし、家も広いし、ご両親にもきっと気に入ってもらえるわ」
と、頷いた。
 それから、宮下さんと、契約に必要な「設備表」と「物件状況等報告書」の各欄に確認の
チェックをしていった。「設備の有無」「故障・不具合」「リフォーム」「雨漏り」「白蟻」等々、
とても細かい。私は、「風呂場のシャワーと水栓の切り替えの目盛りが一つずれている」ことを
思い出し、宮下さんは、網戸と障子の状態を確認しに行ってくれるそうだ。リフォームについて、
あそこも、ここもと上げていくと、長く住んだ家を手放すのだと、寂しさも湧いてきた。
 契約の当日、不動産会社の応接室でお会いした相手のご夫婦は、真面目そうな感じの方たちで、
「正直、築三十年というので、あまり期待せずに家を見に行ったのですが、これは、と、思いました。
手を入れながら、とても丁寧に住んでいらしたと分かりました」
 と、言って下さった。トイレ二箇所は三年前にリフォームしたばかりで、売ることにした時に、
「しまった、早まった」と思ったものだが、その言葉に、「リフォームしていたから、売れたんだ」
と、思い直せた。宮下さんが、重要事項説明書を読み上げ、不動産売買契約書に互いに、いくつもの
判子を押し、契約が正式に成立した。宮下さんが権利書のコピーをとるために退席し、少し場の
緊張が緩んだ時、お二人が、
「物干し竿はどこに置いていたんですか?」
「ベランダがないんですが、布団はどうやって干したのですか?」
と、これからの生活に思いを馳せたような質問をしてきて、私が、「ここです」と、我が家の
販売チラシを見ながら説明した。ご両親を引き取るという話もされたので、私は、
〈きっと一階の和室がご両親の部屋になるだろうから、和室の前のドウダンやニシキギやシャラの
木を眺めて楽しんで貰えたら〉と、思いつつ、
「三十四年住んだ家です。いろいろと思い出もあります。どうか、宜しくお願いします」
 と新しい主にご挨拶して、「我が家」を託した。
 家に帰ると、大きな区切りをつけたと、まだ少し興奮が続いていた。夫との、子育ての、そして、
両親との思い出のある家だけれど、思い出は、私という器に入れてしっかり持ってきている。
一軒家を売った金額とマンションを買った金額が、諸経費を考えれば、ほぼトントンになったのも、
移り時だったのだと納得しやすく、
〈これからの生活が大事だからこその家移りなのだ。前を向いて行こう〉と、自分に言い聞かせた。
 ニ、三日たち、「それでも、隣りの両親の家のほうは、まだ売れていないし。こちらはまだ、
先行き不透明だ」との現実に気が重くなったとき、買い手の方の八十を過ぎたご両親のことが
気になった。私の両親がこちらに越してきた時は、六十を過ぎていて、新興住宅街で、
若々しいご近所の中に、親しい方も出来なかった。まして、八十を過ぎて、新しい土地に移る
となると、そこに馴染めるだろうか。町内には高齢者の集まりなどもあるのだけれど、ちょっと
メモにして、次回、代金の受け渡しの日に、お渡ししたらどうだろうかと、思いつき、すぐ、
手近な紙に、
「百円喫茶・・ご近所のAさんが責任者」
「自治会のお茶会・・ご近所のBさんが担当者」
「地元ボランティアの助け合いサービス・・郵便局にチラシ」と、書き出した。そして、見直して、
「長年住んだだけあって、我ながら町内のことに通じている」と、思わずにんまりしたのだった。
 東京に、十数年前、やはり一軒家を売って、マンションに引越しした友人がいて、私の家移りに
ついていろいろ気にかけてくれているので、彼女にも電話で知らせた。彼女も喜んでくれたが、
私がメモの話をすると、「う~ん」と、口篭る。賛成では無いようだ。
「不動産取引って、なるべく淡々とやったほうが良いよ。そういう情報は、その方たち自身が、
近所や回覧板で見つけていくでしょうから」と、言った。
過不足なく慎重にという事のようだ。確かに、まだ話は途中なのだと、気持ちを引き締めた。
それに、私は、もうあの“近所”から出てしまったのだ。メモは、私の未練かもしれない……。
止めておこう。マンションの窓から外を見れば、広々とした冬晴れの空が広がっている。
ガラス越しの暖かい日差しを受けながら、私は、
「さようなら、なんだな」と、ゆっくり息を吐いた。
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結局、12月の売買の時の時間待ちのおしゃべりの時に、あれこれ、お年より向けサービスを
お教えしたら、喜んで下さったわ。

今日は、ダンスレッスンに行って、先生に、
「重いのと軽いの・アクセルとブレーキ・固いのと柔らかいの、
全部、ダンスには必要です」と言われ、「・・・??」でした。
いえ、頭では分かるけれど、そういう身体を作って、キープするのが、
道遠しって感じ。
でも、こういうレッスンが好き♪
 
 

 
コメント
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