猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 37 古浄瑠璃 小篠⑥終

2015年03月25日 15時00分04秒 | 忘れ去られた物語シリーズ
こざさ⑥終

 加藤兵衛祐親(すけちか)は、兄弟の若に、
「私が計らって、命を助けたいとは思うが、私の一存ではどうにもならぬ事。御上にお伺いを立てて来る間、暫くお待ちなさい。」
と言うと、関白大臣の所へ行き、ことの次第を言上するのでした。
「本日、仰せつかった兄弟の者達ですが、親の敵討ちの申し出があり、母親が来て、歎く有様は、まったく目も当てられぬほど哀れな次第です。如何取りはからいましょうか。」
関白は、これを聞いて、
「それでは、取りあえず戒めの縄を解いて、これに連れて参れ。」
と、命じました。やがて、兄弟の者達が、関白の前に連れて来られました。関白は、詳しく話しを聞くと、
「おお、なんとも、可哀想な事をしたな。幼い兄弟であるから、うまく申し開く事もできなかったのであろう。それでは、わしが替わって奏聞してあげよう。」
と言って、直ぐに奏聞をしてくれたのでした。御門は、
「そういう事であれば、急いで、国友の庄を取り返すが良い。」
と、三百余騎を下されました。兄弟の若達は、喜んで、早速に長谷へと攻め下りました。兄弟は、国友の城を、二重三重に取り囲むと、
「如何に、人々、聞き給え。御門の御宣旨によって、この庄をいただいた。速やかに、城を引き渡せ。さもないと、怪我するぞ。」
と、呼ばわりました。国友の勢は抵抗もせずに降参し、目出度く城を取り戻すことができたのでした。兄弟が、再び参内して、奏聞すると、御門は、
「おお、それはよくやった。それならば、父の跡、長谷を取らするぞ。」
と、御綸旨を下され、兄の梅若を、衣笠将監家継に叙されました。兄弟が目出度く大和長谷に帰国すると、兄弟は、兵庫の女房に、金五百両を褒美に取らせ、館を建て直して、再び栄華に栄えたということです。

上古も今も末代も
例し少なき次第とて
貴賤上下押し並べて
感ぜぬ人ぞなかりけり

とらや左衛門

おわり

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