猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 23 説経伍大力菩薩 ②

2013年07月01日 17時11分38秒 | 忘れ去られた物語シリーズ

住吉津守寺薬師の由来 ②

道高は、館に戻ると、別殿に薬師如来を安置して祀りました。ある時、道高は、

「私は、和泉河内両国の主として、なんの不足も無い。ましてや、龍宮より、薬師如来を

いただいたので、益々の家の繁盛は、間違いが無い。」

と言いました。すると、森本弾正介友は、進み出て、

「殿のお言葉通り、珍しい霊仏が手に入りましたことは、大変目出度い出来事です。しかし、

このように尊いご本尊様を、不浄の在家に置いておいては、不都合も生じましょう。内裏に

委細を奏聞して、ご本尊を献上いたすならば、天皇もお喜びになり、国や郡も拝領あるに違

いありません。そうすれば、もっとお家が繁盛いたすことでしょう。」

と、勧めるのでした。しかし、河瀬の形部は、違う考えを持っていました。

「いや、それはおかしいぞ、弾正。我が君様は、村上天皇の末裔であられるからこそ、和

泉、河内の両国を治められ、金銀珠玉は蔵に溢れ、叶う者も居ないのである。

我が君様お聞き下さい。宝を持って入る者は、持ったまま出るということは無いと言います。

裕福なのにもかかわらず、不必要な富を、重ねて求めることは、人倫の道に外れます。この

ような不思議の霊仏が、手に入ったのですから、貪欲愚痴の妄念は、全て振り捨てて、平等

大恵の慈悲心こそを渇仰なされれば、求めなくとも、富は訪れ、願わなくとも、家は栄えま

しょうぞ。我が君様にご縁の神仏を、御門へ献上しては、神仏が残念に思われるのではない

でしょうか。」

と、眉をしかめて反対しました。これを聞いた弾正は、顔色を変え、

「ええ、愚かな形部め。『長者も富には飽きない』と言うのは、世俗の詞だぞ。この世では、

誰でも、出世を願うものだ。より良き事を選ぶのが当たり前。お殿様のお考えも聞かぬ内

から、まるで座敷に誰も居ないかのように、お前一人が物知り顔に諫言立てとは、片腹痛いわ。

黙れ黙れ。」

と、似非笑いをして言い放ちました。形部が、

「何を生意気な、やあ、弾正。心を落ち着けてようく聞けよ。この様に言うのも、お前の為

だ。我が君様は、お心掛けが良かったから、仏神のお心に叶い、龍宮の霊仏を戴いたのだ。

だからこそ、人々は、羨むだろうが、宣旨も無い内から、所領目当てに、仏様を献上しよう

などとすれば、今度は、人々は誹るのに違い無い。主君が非を犯そうとする時、従わない

のが臣下の道というもの。もし、殿がそのような欲心をお持ちであるならば、お諫め申し

ましょう。弾正よ。お前は、自分の欲に仁義を忘れ、返って不義を奨めているのだぞ。お前

の様に、欲の深い者は、人とは言わず、犬猫の類いと言うのだ。可哀想にのう。」

と、言い返すと、弾正は歯がみをして口惜しがり、

「ええ、事の是非は置いておいても、侍を畜生呼ばわりするとは、身の程も知らぬ溢れ口(あぶれぐち)。

御前でなければ、この犬の刀を、お前の口に突き刺して、その声が出なくもしてやろうが、


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