ワニなつノート

この子がさびしくないように(その6)

この子がさびしくないように(その6)


「マーサちゃん」は4歳で精神薄弱者施設に入れられました。
それから99年間、マーサちゃんは人生のほとんどを
精神病院で過ごしたと書かれています。

103歳で亡くなったマーサ・ネルソンさんの人生で、
「マーサちゃん」が子どもでいられた時間は
どれほどあったのだろう。
4歳まではお母さんと一緒にいられたのだろうか。
「ちいさな子ども」でいられた時間が、
ネルソンさんの人生にはあっただろうか。

新聞記事は1975年。

その99年前は、1876年(明治9年)
日本では「盲児」が、「教育対象」になりはじめた頃。

そのころ、アメリカでネルソンさんたち「精神薄弱児」は、
どのように見られ、扱われていたか。


『あしながおじさん』を知らない人はいないでしょう。
主人公のジュデイがあしながおじさんのおかげで
大学を出て、結婚し、孤児院の改革に関わるのが、
『続あしながおじさん』です。
1915年の作品です。

そこに、当時「精神薄弱児」がどのように見られ、
扱われてきたかが書かれています。

この本は、日本でも多くの子どもに読まれてきたでしょう。

私がこの本を買ったのは高校生の時だったと思います。
新潮文庫で200円。
初版が昭和36年、昭和49年二十刷とあります。

   □    □    □


ゴルドン様

…あなたはカリカック家の事を
お聞きになったことがおありになりまして?

本をお求めになって読んでごらんあそばせ。

………

マルチン・カリカックと呼ばれる若い紳士が、ある晩泥酔して、
ほんのでき心である酒場の精神薄弱な女給と駆け落ちをしました。

それがここに精神薄弱系カリカック家の連綿と続く
血統の本源が作られて、のんだくれ、ばくちうち、売春婦、
馬盗人、などがニュージャージイとその周辺の各州の
悩みの種になったのでした。

後日マルチンは心を入れかえて、まともな婦人と結婚して、
正常なカリカック家の第二の血統を作り、
そこから裁判官、医師、農業家、大学教授、政治家など、
国の誇りとなるような人物が出ました。

そしてこの二つの系統が相並んで、
今日もなお子孫が続いているのだそうでございます。

もしもその精神薄弱な酒場女が赤ん坊の時に、
何か恐ろしい災害にあっていたら、
ニュージャージイ州にとって、
どんなに幸いだったか知れませんわね。


精神薄弱は非常に遺伝的素質のもので、
科学もこれには抗しがたいようです。
脳味噌のたりない子供の頭に
脳味噌を詰めこむ手術はまだ発見されておりません。

そういう遺伝を受けている子供は、
たとえば九歳の頭脳を持ったままで、
身体だけが三十歳なら三十歳なみに成長するという訳です。

それで彼はたまたま出会った犯罪者の手先に
使われるようになるのです。

わが国の刑務所が収容している囚人の
三分の一は精神薄弱者なのです。

社会で精神薄弱児園を作り
そこにそういう子供たちを隔離して、
そこで平和な召使のような仕事を覚えさせ、
それによって生活費を得させ、
子供を産ませないようにすべきだと思います。

そうすれば一世代か二世代のうちに
社会から精神薄弱児を無くしてしまえるかもしれません。

あなたは、こういう話をごぞんじでしたか。
これは政治家にとって大変に重要な参考になると存じます。
どうぞ本を買ってお読み下さいませ。
私のところのが借りものでなければ、
お送りするのですけれども。


これは私にとりましても大変に大切な参考となりました。

ここにおります子供たちの中には、
少し疑わしいのが11人おりますが、
ロレッタ・ヒギンスは確かにそうだと思います。

私はその子の頭の中に、基本的な考えを二、三教え込もうと
一カ月も努力いたしましたが、
今にして、あの子にはどうしても覚えられないのだということが
わかりました。
彼女の頭の中には、脳味噌のかわりに、
柔らかいチーズみたいなものがつまっているのです。


私はこの孤児院に来た時には、新鮮な空気だの、食物だの、
着物だの、日光というような細かな事を
改善するつもりでしたのに、どうでしょう!
私がどんな問題に直面しているか、おわかりでございましょう?

私はまず社会を改善して、私のところへ、
こんな異常児を送ってよこさないように
しなければならなくなりました。

こんな興奮した話し方をいたしましておゆるしください。
でも私は目下精神薄弱児の問題にぶつかっているのでございます。

これは恐ろしい事であり、また興味ある事でございます。

この世界から、こういうものを除去する法律を作るのが、
立法官としてのあなたの仕事でございます。

どうぞ即時この問題にお取りかかりくださいませ。


ジョン・グリア院 院長  S・マックブライド



『続あしながおじさん』 ウエブスター 松本恵子訳 新潮社


   □    □    □


これは、「孤児院」が舞台です。
4歳のマーサ・ネルソンちゃんが送られたのは、
「孤児院」でさえない、「精神薄弱児施設」です。
そこでは、子どもたちはどのような生活を送っていたでしょう。

(つづく)
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「8才の子ども」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事