≪先生が親に、いちいち伝えないことの意味≫
◇ ◇ ◇
『私が一番びっくりしたのは、
Naoが1ヶ月もの間そんな状態だったにもかかわらず、
よく担任が私に何も言わなかった…ということです。
「こんな状態なんですけど、お母さん、どうしましょう?」とか、
「最近、落ち着かないんですけど、家ではどうですか?」とか、
なにか言われても仕方がない状況だったのに、
担任は私に何も言わなかった!
「どうしましょう?」と聞かれても、どうしようもない。
「家ではどうですか?」と聞かれても、家では何ら変わりはない。
…私に何を相談されても答えようがなかった。
よくぞ、よくぞ担任は私に何も言わなかった!
そして、よくぞ1ヶ月もの長い間、
廊下で天井を見上げたままのNaoを見守り続けてくれた!(>_<)』
◇ ◇ ◇
この部分は、さらりと書かれていますが、
何度読んでも、幾重にもすごいことが書かれています。
1ヶ月の間、見守り続けた先生。
「ほっとき続けた」ともいいます。
これはかなり難度の高い技です。
なぜなら、先生の立場では、Naoちゃんとの関係だけでなく、
他の子どもの目や、廊下を通る先生たちの目など、
外部の目も意識しなければなりません。
それに、「親」になんと言えばいいのかも考えなければなりません。
子どもが1ヶ月の間、廊下に倒れている状態、
それは「授業を受けていない状態」でもあります。
一歩すれ違えば、
「どうして授業を受けさせないで放っておくんですか」
「この子もちゃんと見て下さい」と抗議されかねない光景です。
「ほっといていいのか」という『幻聴』が、
先生の耳には何度も聞こえたことでしょう。
だから、1ヶ月の間Naoちゃんの行動をそのまま見守ることも
すごいことですが、それ以上にすごいのは、
やはり『親にあえて伝えないこと』だと、私も思います。
そして、そのすごいことができたのは、
先生の個性だけでなく、お母さんが「そのこと」を
きちんと先生に伝えることができていたからだと思うのです。
もちろん、「そのこと」を迷いながらも「受けとめる」ことの
できる先生は、本当に見事だと思います。
(だからこの部分は、「親の当事者研究」や
「先生の当事者研究」としても面白いし、あるいは
「親と教師のコミュニケーションの研究」としても面白い話です。)
先生からすれば、お母さんに伝えるまでもなく、
「今のNaoちゃんの状態は、今はこうとしかいられない心持ちなんだろう。
気力も身体も…」と思うしかなかったでしょう。
そうした見守り方は、親も了解している範囲であり、
わざわざ報告するまでもない、
いや、報告すれば、親も揺れるだろう。
それにまた、先生にしても、その話をどう切り出すかも難しい話です。
多分、先生も自信があって「待って」いたわけではないでしょう。
そうであれば、いったん話題にすれば、
「どうしましょう」「このままでいいんでしょうか」という言葉が
自然と口をついてでるでしょう。
それは、親にすれば「責められている」と感じられる言葉です。
結局のところ、揺れても迷っても、こうして見守る以外に術はない。
だとしたら、時季がくるまで待つしかない。
そういう対応をしてほしいと、親に言われてきたのだから、
これでいいんだと、先生も揺れながら、
自分に言い聞かせたのだろうと思います。
みんなと一緒に学校生活を送りたい。
でも、すべてみんなと同じ行動ができるわけではない。
みんなと同じように勉強させてほしいとか、
みんなに追いつくことを目指しているわけではない
勉強ができなくもて、
いつもみんなと同じ集団行動をとることができなくも、
たとえ、できないことがいくつあっても、
同じ年の子どもであることには間違いない。
本人も迷いなくそう信じている。
その気持ちを大事にしてあげてほしい。
そういった思いを、親が先生にちゃんと伝えてあること。
それが一ヶ月の「待ち時間」を、
成り立たせることができた理由だと思います。
そうした大人の受けとめる気持ちと「待ち時間」の覚悟に見守られて、
Naoちゃんは、「自分だけの持ち時間」を十二分に使って、
自分の答を出すことができたのです。
子どもが、自分だけの持ち時間を十分に受けとめられて、
自分の人生を考える時間を持てるのは、
ほんとうに幸せなことだと思います。
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