《新説・『通訳』としての高校》
今日、『ゆびさきの宇宙』を読んでいて、ふと気づきました。
「高校に行くこと」
それは、Hideたちにとって、「通訳」だったんじゃないか。
「高校生になること」
それは、福島さんたち盲ろう者にとっての
『通訳』と出会うことと同じくらい
大切なことだったんじゃないだろうかと。
☆
私が「勉強したい」と思って
高校に行った訳でなかったと同じように、
Hideも高校の「勉強」に興味があった訳ではなかったと思います。
私が今でも、数学が分からず、
英語もほとんど分からずしゃべれず、
古文も漢文も数行と読めないのと同じように、
Hideの生活に高校で習ったことのほとんどは
役に立っていないだろうと思います。
ちなみに、Hideが入学したのは工業高校の「電気科」で、
私は「Hideが電気科に行っても、
感電くらいしかできないんじゃないの」
と言っていました(-_-;)
でも、私にとって、高校時代の3年間は20年経っても、
30年経っても、鮮やかに生きているように、
Hideの中でも、高校時代のあらゆることが、
Hideのなかの宝庫に眠っているのでしょう。
私が高校生だった頃の自分の感情。
仲間の顔。
彼女との時間。
親父と喧嘩して家出したこと。
高校をやめようとしたこと。
死にたいと思っていた日々のこと。
一度だけ本気で冬の川に飛び込んだことさえ、
今は宝物の山のなかに埋まっています。
Hideも、電車の緊急停止ボタンを押して
2度も電車を止めたことがあります。
たぶん、止めたことよりも、
その後、私に怒られながら、
ホームの柱のボタンに謝ってまわったことを
忘れてはいないでしょう。
高校に行く途中のスーパーで商品を放り投げて、
授業が終わったあと、私と一緒に謝りに行ったこと。
定時制の授業の後だから、もうシャッターもしまっていて、
それでも私は、
「お店の人に謝るまで家に帰れないからな」と、
1時間ほど店の前に立たせていました。
Hideは仕方なく、閉まったシャッターに向かって
何度も何度も頭を下げていました。
あの時、どうしてスーパーの商品に八つ当たりしたのかは
忘れても、夜の10時過ぎまで、暗い店の前で
立たされたことは忘れてないんだろうな。
☆
勉強ができないから、障害があるから、
言葉がしゃべれないから、
「高校」に行けるはずがないという
この社会の常識は、決して当たり前のことではありません。
障害のある子どもだけではなく、
ただ0、0006%の子どもを捨てるためにある
入試制度が作ってきた「常識」です。
入試制度に「洗脳」されたものにすぎません。
そのことを決めて維持しつづける人間が作った、
ただの制度です。
子どもが自分の足で、自分の意思で、
小学校1年から中3まで
みんなと一緒に通い続けて、
積み重ねてきた時間とその思いを考えれば、
みんなが行く高校というところに行きたいに決まっています。
「障害があるから行けなくてもしかたない」というのは、
「盲ろう」なんだから、
コミュニケーションなんてできるはずがないと、
一人で海の底に沈んでろと言うのと同じことです。
Hideが高校生になって分かること。
たとえ授業が分からなくても、テストが分からなくても、
そこで、「みんなが生きている姿」
「高校生として輝いてる姿」
「大人になる前の10代後半の時代を、
悩み苦しみながら生きている姿」を、
一緒に高校生することという「通訳」を通して、
自分の体と心と人生で感じることができたのでした。
☆
『指先の宇宙』に、通訳・介助制度について、
次のように書かれています。
「我々の念願だった都道府県による通訳・介助者制度は
まだ16県にできていなかったんですが、
この(09年)4月から全県で実施されることになった」
盲ろう者への通訳・介助者制度が、
全県で実施されることになった、ということは、
「誰も孤独に放置しない」ということの一歩が
ようやく踏み出されたということです。
ここでも思います。
中学を卒業する子どもたちの、
1万人に6人を捨てる入試制度を、
全県で廃止するのはいつになるのだろう。
高校に入ることは、いまの社会の中で、
孤独に陥らないための「通訳」そのものだと、
私には思えるのです。
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