引継ぎメモ（その１）

引継ぎメモ（その１）


新しい年になり、気になっているのは
去年書き残したことばかりです。

昨日、手に取ったのは福島智さんの本でした。
開いたのは、福島さんががんばりすぎて
「適応障害」になったページと、
福島さんの妻ががんばりすぎて、
家出したページでした。

そのことと、「事件」を起こした人が
実は「発達障害」だったと報道される中身への
違和感がつながっています。

そしてまた先日紹介したＴＢＳの番組での、
「障害児」への視点の違和感が、つながっています。

どれも、うまく表現することができずにいます。
とりあえず、気になり続けていることのメモを、
自分のために並べてみます。


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《「がんばる」ことと「がんばらせる」こと》


私たちは、その「がんばり」が、どこから生じているのか、
気を配らなければならない場合があります。

私たちの、「がんばらせ」の情熱が、
どこから沸き上がってくるのか、
立ち止まらければならないときがあります。

なぜなら、「がんばる」ことと、
「がんばらされる」ことは、明らかに違うことですし、
「がんばりすぎる」ことが、
身体やこころに無理をさせすぎることがあるからです。

何より、子どもや、障害を持っている人の場合、
自分がどれくらい無理をしているのか、
わからないことがあります。

特に、「障害」がある場合、
そこにどれほどの距離や壁があろうと関係なく、
いとも簡単に「人並み」「普通」を
目標にされることがあります。

そこでは、どんなにがんばっても、
いえ、がんばればがんばるだけ、
「やればできるのだから」
「もっと」「もっと」と、ほめられ、
励まされてしまうことになります。

その過程で、自分の限界以上にがんばり続けることが
どういうことか、多くの人は考えません。



ひらがなが読めれば、書くこともできるはず。
ひらがなが読めるなら、カタカナも。
小学生の漢字くらいは…。

１から１０まで数えられるのだから、次は１００まで。
ひとけたの足し算ができるなら、ふたけたも。
お金の計算くらいできないと困るから…。

立つことができれば、あと一歩。
一歩足を踏み出せば、２歩３歩いけるはず。
１０歩歩けば、やればできるじゃない。
このままがんばれば、歩けるようになるわ。

その子が一歩歩くことに、
どれほどの命を燃やしているか人にはわかりません。


１００キロのバーベルを背負って１０歩歩いた人に、
やればできるじゃない、このままがんばれば、
バーベルを背負ったまま暮らせるよとは言いません。

１０ｋｍのマラソンを完走してゴールした子どもに、
がんばったわね、やればできるじゃない。
このままがんばれば、
明日は２０ｋｍ、あさっては３０ｋｍ、
そのうち１００ｋｍでも２００ｋｍでも
走れるようになれる、とは言いません。

日本の大学に入れたんだから、
今度は英語を覚えてアメリカの大学にも行けるわね。
その後は、フランスと中国の大学にも入れるわね、
がんばればできるわよ、とは言いません。

私たちは、自分でもできないことを、
簡単に口にはしません。

でも、大人は、子どもに多くのことを求めます。

障害のある子どもにはさらに多くのことを求めます。


わたしがその子に初めて会ったとき、まだ小学生でした。
小学校に入り、さんすうをがんばった女の子は、
自分でも一生懸命がんばって、がんばっているうち、
大好きなお絵かきのスケッチブックにも
数字しか書けなくなりました。

そこに至り、ようやくお母さんは、
自分がどれだけ子どもをがんばらせていたのか、
子どもがどれほど果てしなくがんばっていたのかに
気づいたのでした。

８年後、その子と定時制高校で会いました。
担任になった人は、自分から担任になることを
引き受けた人でしたが、
「彼女はがんばれば自分で車椅子を動かせるんだから」
と言い出しました。

そのとき、私が思い出したのは、
スケッチブックに数字しか書けなくなっていた頃の
小さな女の子の姿でした。

親や教師が、力づくで、「がんばらせる」ことが、
怖いのではありません。

わたしがいつも気になるのは、
子どもが、その親や教師の「価値観」を自分に取り込み、
また大好きな親に認めてもらうために、
「がんばること」を、自分のものにしてしまうことでした。

自分で自分を、過剰にがんばらせて、
しかも、そのことに無自覚であることです。

十分にがんばっているのに、
自分はがんばっていないと、自分の評価が低くなること、
自分で自分のがんばりを認められなくなること。
そして、体が動けなくなるまでがんばりすぎてしまうことでした。