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ワニなつノート

親の当事者研究(その3)



昨日のブログに、さっそく「この本買います」というメールがきました。
そんなに反響があるなら、もう少し親切に紹介しなくちゃ、と思いました。
で、以下、『べてるな人々』から、一部引用します。


≪ある当事者研究≫
先日、私のところに両親に付き添われた一人の青年がやってきた。
統合失調症を発症してから十年以上経過し、
最近も入退院をくり返す彼を支える両親が、
いま一番困っているのが「行動化」である。

「行動化」とは、幻聴の内容に影響されて、
衝動的で現実離れした行動を取ってしまう症状で、
統合失調症をかかえる当事者によくみられるエピソードである。

その青年は、精神病院にはきちんと通院し、
服薬も守っていても改善せず、トラブルが起きるたびに薬が増え、
肝障害も起きるほどで、限界と言われている…。

「今日は、いろいろと困ったことがあってわざわざ私のところに
足を運んでいただいたと思うのですが、
どのようなことか話していただけますか」と尋ねてみた。

すると、青年はきっぱりと
「話せません」と言って下を向いてしまった。

両脇に座る両親は、
その一言にギクッとしたように緊張するのがわかった。

その言葉を受けて私は言った。
「あなたは、実に大変な困難をかかえながら、
今まで、ご両親と一緒にがんばってこられたんですね。
もし、あなたがかかえる苦労の部分で、
話してもいい部分があったら少しでも話していただけませんか」

そう言うと、彼は明らかに「話してしまってもいいのかな」
という仕草で両親の方を落ち着きなく見ながら意を決したように言った。

「国際問題です」

彼のかかえる困難は、まさに「国際問題」であった。

高校時代、バスケットボールの選手であった彼が、
いま一番熱中しているのは、全米プロバスケットボールのゲームである。
実は、彼はそのゲームの世界では、日本を代表するプレーヤーである。

そのゲームの画面から、マイケル・ジョーダンが
「君は全米リーグにスカウトされたよ!」と声をかけてくる。

そこで、彼は「アメリカに行く」と荷物を持って家を出ていこうとする。
空港へ行く途中で保護されたこともある。
その結果が入院である。

「アメリカのプロバスケットに採用が決ったというのはすごいですね。
それは、あなたにとっては、嬉しいことですか。困ったことですか?」

「実はね、自分は、あまり気が進まないんです」

両親にとっては、それは意外な答えであった。

青年は、M・ジョーダンの誘いを断わりたいと思いながら、
断わりきれずに「行動化」を繰り返していたのである。

「それではね、M・ジョーダンにどのようにお断りしたらよいか、
一緒に考えてみましょうね。
浦河では、これを≪研究する≫って言うんですよ」

そう言うと、青年も身を乗り出してきた。

「まず、私がM・ジョーダンになって誘いますから、
好きに断わってみてください」

「…」

「おめでとう、このたびあなたをスカウトすることになりました。
早速、アメリカに来てください」

「ありがたいんですが、今は行けないんです。すいません……」

素晴らしい出来栄えであった。
すると、彼は言いにくそうにこう言った。

「実は、M・ジョーダンを断わることができても、
チアガールの美女の誘いは断わることができないんですよ……」

私は大笑いしてしまった。私も断わる自信がない。

「そうか、それは難しい研究テーマだね」

……以来、彼の「当事者研究」がはじまった。


これだけ読むと、コントのように面白いけれど、
これが日々の「現実」であるとき、本人も親もどんなに大変だろうと思います。

そして、べてるで「当事者研究」をしている人たちは、
さらにさらに、もっともっと「面白く」「大変な」現実に対処するため、
様々な研究を行っているのです。
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