《居ることを聴く》①
《この子は言葉で話してくれない。でも、私は、この子と話したい。ではどうすればいいか。この子に聞くしかない》の話。
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でも言葉は話さないんでしょ。
「そうね」
それじゃ、どうやって聞くの?
「居ることで」
居ること、で? でも居るだけじゃ何も聞こえないよ。
「そうかな」
そうだよ。だから、問いかけるんだよ。どうする、とか、どうしたいのって。
「そうだね。私も問いかける時には言葉を使うよ」
でしょ。でも、答えてくれないじゃん。わかんないじゃん。
「ほんとに?」
わかんないよ。だって何も話してくれないんだから。
「この子とつきあってどれくらいだっけ?」
えっと、もうすぐ2年、かな。
「そう。じゃあ、この子がここに居るってことは、どうして分かったの?」
え?
「いま、2年、この子とつきあったって言ったでしょ」
言ったけど、言ったのは私だよ。
「だから、あなたには、この子の「ここに居る」が、2年の間、聞こえていたってことじゃないのかな」
聞こえたんじゃなくて、一緒にいただけだよ。この子が何も話してくれないことには変わりないでしょ。
「そうだね。でも、この子が「あなたがいてくれてよかった」って言ってるように、私にはきこえるんだけどね」
そんなの屁理屈だよ。今だって、ずっとしゃべってるのは私だよ。
「そうだね。でもあなたと居るときに、この子の落ち着いた表情が、ときどき私には聞こえるんだけど。それはどこから聞こえるんだろうね」
【写真:仲村伊織】