ワニなつノート

自分の「呪い」を解くための100のメモ(52)

《居ることを聴く》①

《この子は言葉で話してくれない。でも、私は、この子と話したい。ではどうすればいいか。この子に聞くしかない》の話。

          □

でも言葉は話さないんでしょ。

「そうね」

それじゃ、どうやって聞くの?

「居ることで」

居ること、で? でも居るだけじゃ何も聞こえないよ。

「そうかな」

そうだよ。だから、問いかけるんだよ。どうする、とか、どうしたいのって。

「そうだね。私も問いかける時には言葉を使うよ」

でしょ。でも、答えてくれないじゃん。わかんないじゃん。

「ほんとに?」

わかんないよ。だって何も話してくれないんだから。

「この子とつきあってどれくらいだっけ?」

えっと、もうすぐ2年、かな。

「そう。じゃあ、この子がここに居るってことは、どうして分かったの?」

え?

「いま、2年、この子とつきあったって言ったでしょ」

言ったけど、言ったのは私だよ。

「だから、あなたには、この子の「ここに居る」が、2年の間、聞こえていたってことじゃないのかな」

聞こえたんじゃなくて、一緒にいただけだよ。この子が何も話してくれないことには変わりないでしょ。

「そうだね。でも、この子が「あなたがいてくれてよかった」って言ってるように、私にはきこえるんだけどね」

そんなの屁理屈だよ。今だって、ずっとしゃべってるのは私だよ。

「そうだね。でもあなたと居るときに、この子の落ち着いた表情が、ときどき私には聞こえるんだけど。それはどこから聞こえるんだろうね」

【写真:仲村伊織】

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