一人ディズニー見聞録

ディズニーを切り口に世の中の出来事を紹介しています。ディズニーソングのコンサートレポートも書いています。

ティガーとイーヨーの声優たちから学んだこと

2022-10-06 08:18:00 | 声優
玄田哲章と石田太郎。この組み合わせで、ピンと来た人はいるだろうか。

玄田さんは、アクション俳優の大御所・アーノルド・シュワルツェネッガー(以降シュワ)の吹き替えや、『クレヨンしんちゃん』シリーズのアクション仮面など、ヒーロー系キャラクターの声優でお馴染みだ。一方石田さんは、『刑事コロンボ』のコロンボや、『ルパン三世 カリオストロの城』のカリオストロ伯爵など、クセが強いキャラや悪役キャラの声を務めたことで有名だ。

両者とも声優界を代表する超大御所の声優さん(石田さんは故人)だが、実は共演していることも多いのだ。例えば、『くまのプーさん』シリーズ。玄田さんは、ジャンプが大好きな陽気なトラ・ティガーを、石田さんはのんびりやで悲観的なロバ・イーヨーを演じていた。

野太い声でマッチョなキャラを演じることの多い玄田さんが、ハイテンションで楽しそうに飛び回るキャラクターを演じるのは、いつも演じるキャラと違って新鮮に感じた。

また、クセの強い高圧的な悪役を演じることの多い石田さんが、おっとりとしたゆるいキャラを演じていると、ほっこりした気分になった。

玄田さんと石田さんの演技力の高さ、そして普段演じるキャラとのギャップ萌えを起こす声に心惹かれた。しかし、この感情は『~プーさん』の時にしか起きない貴重なことだ。なぜなら、この2人が演じるキャラとその構図は、ほとんど一緒だからだ。

二人が共演する際の構図は、「玄田=正義の味方」、「石田=悪の親玉」となっている。例えば、シュワの出世作『コマンドー』では、玄田さんがシュワの演じる主人公・メイトリクスを、石田さんがヴァーノン・ウェルズの演じるテロリスト組織のリーダー・ベネットを演じた。

また、『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』では、玄田さんが、世界平和を守る秘密組織の諜報員・「筋肉(コードネーム)」を、石田さんはテロリスト組織のリーダー・マウスを演じた。

適材適所という言葉があるように、玄田さんはマッチョな正義の味方、石田さんはクセの強い悪役が似合っている。しかし、私たちがよく知っているイメージにあてはまらず、それと真逆のことをやってギャップ萌えを生み出したティガーとイーヨー、じゃなくて、玄田さんと石田さん。

他者から抱かれているイメージと真逆のことをやる大切さを、ティガーとイーヨーの声優たちから教わることができて、とても嬉しくなった。

戸田恵子のボー・ピープ

2022-06-27 07:42:00 | 声優
「ボー・ピープは逞しくカッコよく変貌を遂げましたが、私自身は19年も経ってかなりくたびれてきまして(笑)」。


これは、『トイ・ストーリー4』(2019)のジャパンプレミアに登壇した戸田恵子さんが会見中に話した言葉だ。戸田さんは、『~2』以来19年ぶりに登場した羊飼いのボー・ピープの日本語吹き替えを務めたが、前回出演時よりも逞しくカッコよくなったボーを見事に演じきっていた。


前作よりも大幅に設定が変わったキャラクターの声を務めるのは大変なことだと思うが、ベテラン声優の戸田さんはそれを難なくこなすことができた。しかも、『~2』の時のボーの声より、今作の声の方が適役だと感じた。その理由は、戸田さんの声がボーのキャラクターに適した要素があるからだと思った。


戸田さんの声の特徴は、大きく分けて2つある。1つは、逞しく生きている女性の声であることだ。戸田さんが、過去に日本語吹き替えを務めた主な人物・キャラクターは以下の通りだ。


〇人物:ジュリア・ロバーツ、ジョディ・フォスター、サンドラ・ブロック、ニコール・キッドマンetc.


〇キャラクター:サリー・カレラ(『カーズ』シリーズ)、おソノさん(『魔女の宅急便』)etc.


「おソノさんて、ジュリア・ロバーツと同じ声だったのか」ということはさておき、ここで紹介した女性たちは皆、困難な状況に負けない強いメンタルとその状況を打ち破る行動力がある役を演じたり、実際にそれらを兼ね備えて人(サリーは車)たちだ。


彼女たちは、強いメンタルと行動力があるため、作品の中や実際の世界で活躍することが出来ている。現在も芸能界の第一線で活躍する戸田さんを見ると、前述した逞しく生きる女性たちと同じ力があると考えられる。そのため、戸田さんの声は逞しくカッコよく生きる女性たちの声を務められるのだ。


戸田さんの声の2つ目の特徴は、誰かをサポートする力があることだ。「戸田恵子の声と言えば?」と聞かれたら、多くの人はアンパンマンを思い浮かべるだろう。アンパンマンは、困っているキャラクターがいたら必ず最初に優しい声色と口調、そして優しい言葉で相手に寄り添うのだ。それにより、そのキャラクターは困りごとをアンパンマンに話し、心の負担が軽減され、マイナスの気持ちが癒されていくのだ。


アンパンマンを始め、『きかんしゃトーマス』のトーマス、おソノさん、サリー等、これらのキャラクターは困っているキャラクターたちを慰めたり、助言を与えることが多いのだ。つまり、戸田さんの声には誰かの心を傷を癒したり、アドバイスをあげるなど誰かをサポートする力があるのだ。


これらの特徴を踏まえると、戸田さんが『~4』のボーの適役であることは納得できる。今作でボーは、外の世界で強く逞しく生き、また主人公・ウッディを随所で助け、「子どものおもちゃ」として生きる以外の生き方を彼に教えるなどウッディのサポート役としても活躍した。このようなボーの声には、今まで彼女と似たキャラクターを演じてきた戸田さんにはピッタリだった。


ボー・ピープの吹き替えは、逞しく生きる女性と誰かをサポートする力のある声を持つ、戸田恵子さんにしかできないものであった。

<引用webサイト>
https://www.youtube.com/watch?v=yfrwiU-G2uM&t=208s
戸田恵子、ボー・ピープに19年ぶり“再会”「カッコよく変貌」と感激 「トイ・ストーリー4」ジャパンプレミア - YouTube



『トイ・ストーリー4』 変わるものと変わらないもの

2022-06-25 07:39:00 | 声優
昨日『トイ・ストーリー4』(2019)が、「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系列)で地上波初放送された。

『トイ・ストーリー』シリーズ最終作となる『~4』は、新しい仲間たちとの冒険、かつて一緒にいたヒロインとの再会、そしておもちゃたちの別れ等、シリーズの集大成にはふさわしいストーリーとなっていた。

先述したように『~4』には新しいキャラクターたちが登場したということで、今作から新たな日本語吹き替えキャストが加わった。主なキャラクターのみの紹介になるが、新たなキャストは以下の通りだ。

・フォーキー:竜星涼

・ギャビーギャビー:新木優子

・ダッキー:松尾駿(チョコレートプラネット)

・バニー:長田庄平(チョコレートプラネット)

・デューク・カブーン:森川智之

・イーグル・トイ:HIKAKIN

「いや、最後のキャラどこで出てきたんだよ?」、というのはおいておき、人気の若手女優やお笑い芸人たちが本職ではない声優業を務めたが、皆さん何の遜色もなく個性溢れるキャラクターを見事に演じきっていた。

また、1作目から登場するキャラクターのハムとスリンキーも、担当声優の死去により新たなキャストが抜擢された。

・ハム:大塚周夫(2015年死去)→咲野俊介

・スリンキー:永井一郎(2014年死去)→辻新八

周夫さん、永井さん共に長きに渡り『トイ・ストーリー』シリーズを支えてきた二人の声が聞けなかったのは寂しかったが、その意志を継いだ咲野さんと辻さんの声は、周夫さんと永井さんの思いが入っているようで感慨深かった。

変わる人がいれば、変わらずに1作目から皆勤賞の声優たちもいた。それは、ウッディ役の唐沢寿明さん、バズ役の所ジョージさん、レックス役の三ツ矢雄二さん、そしてアンディのママ役の小宮和枝さんだ。

『トイ・ストーリー』シリーズ支えてきた4人の方々は、1作目が公開されてから24年が経った今作でも、変わらない声で観客を楽しませてくれた。彼らのように昔から変わらない人たちが作品を支えているおかげで、竜星さんやチョコプラ等の新しいキャストが入ってきても、彼らの声が違和感なく観ている側に入ってくるのだ。

土台があるからこそ、新しい柱がしっかりと立つ。『~4』はそんなことを教えてくれた気がする。

今まで『~4』の日本語キャストについて述べてきたが、やはり今作の最大の注目声優は、20年ぶりに作品に登場したボー・ピープ役の戸田恵子さんだ。

〈「戸田恵子のボー・ピープ」に続く〉

『トイ・ストーリー』日本語吹き替え版事件

2022-06-24 07:46:00 | 声優
1995年11月22日。この日、世界で初めてのフルCGアニメーション映画が公開された。


『トイ・ストーリー』。カウボーイ人形のウッディと、宇宙ヒーローのおもちゃのバズ・ライトイヤーの冒険を描いたアニメーション映画は、全世界で約3億6000万ドル以上の興行収入を上げ、当該年度の興行収入第1位を記録した。世界初の長編フルCGを制作並びに制作チームを統括した業績を称え、監督のジョン・ラセターは、第68回アカデミー賞(1996年開催)で特別功績賞を受賞。他にも脚本所や作曲賞でノミネートされるなど『トイ・ストーリー』は、大ヒット作品となった。


アメリカでの大ヒットを受け、日本でも公開翌年の1996年3月23日公開された。国内では約15億円の興行収入を出すなど、アメリカ同様に大ヒットを果たした。また『トイ・ストーリー』は、日本語吹き替え版で主人公ウッディの声を俳優の唐沢寿明が、バズをタレントの所ジョージが務めたことも話題となった。以降に公開された長編ならびに短編作品でも両者は声優を務め、大変な人気を博していった。


しかし、このキャスティングには裏話が隠されていた。実は日本語吹き替え版の制作当初、ウッディとバズの声は唐沢と所ではなかったのだ。当初、ウッディの声には声優の山寺宏一が、バズは同じく声優の玄田哲章(磯部勉(声優)という噂もある)がキャスティングされていた。さらにそれだけではなく、山寺・玄田の日本語吹き替え版は、既にアフレコの収録が終わり、宣伝用のポスターには2人の名前が載っていたのだ。


ところが公開間近になった時、山寺・玄田版の上映に「待った」がかかった。その理由は、英語版のキャストだった。英語版では、ウッディを俳優のトム・ハンクスが、バズを同じく俳優のティム・アレンという、ハリウッドで大活躍する人気俳優たちが主人公たちの声を務めていた。英語版で知名度の高い芸能人を起用するのなら、日本語版も有名人を起用しようという声が日本の製作陣からあがり、当時ブレイクしていた唐沢寿明と既に人気タレントとなっていた所ジョージが急遽キャスティングされ、録り直しが行われた。


その結果、山寺・玄田版の吹き替えはボツとなり、このバージョンの『トイ・ストーリー』は一生公開されることはなかった。一説によると、やまちゃんはこの出来事で自身の知名度の低さを知り、積極的に表舞台へ出ることを決め、それに伴い1997年に放送が開始された『おはスタ』のメイン司会を務めることにしたのだ。


初回収録版のボツ事件が原因かは分からないが、やまちゃんはそれ以降ピクサー作品で声優を務めることはなかった(一方玄田さんは、『ファインディング・ドリー』(2016)に出演。また、『スペース・レンジャーバズライトイヤー帝王ザーグを倒せ!』(2000)ではザーグの声を務めた)。やまちゃんのことを思うと可哀そうに思えるが、しかし彼の後のキャリアを考えると、初回版がボツになったのは逆に良かったのかもしれない。


歴史に「もしも」はないが、もしやまちゃんがウッディの声を務めていたら、意識的に表舞台へ露出をしていることは無く、やまちゃんも現在ほど人気のある声優にはなっていなかったかもしれない。また、積極的に表舞台に出ないことから『おはスタ』のメイン司会も務めておらず、番組も現在まで続いていなかったかと思われる。今となって思うと、この時の事件は起きて良かったように思える。


『トイ・ストーリー』初回収録版ボツ事件は、山寺宏一のキャリアと『おはスタ』に良い影響を与えた出来事だった。


山寺宏一爆誕祭② 本当にすごい、やまちゃんのディズニー映画

2022-06-18 08:01:00 | 声優
昨日(6月17日)、61回目の誕生日を迎えた大人気声優の山寺宏一さん。それに関連して、昨日の『ディズニー小噺』では、やまちゃんがディズニー映画で吹き替えを務めたキャラクターを紹介。今日はその中から、やまちゃんの声優力が最も発揮されていたキャラクターを発表する(あくまで個人の感想です)。


そのキャラクターとは、『美女と野獣』(1991)のビーストだ。意外なチョイスかもしれないが、ビーストは高い演技力がなければ、アフレコを務めるのが難しいキャラクターだ。


<ビースト>

ビーストの声は、野獣時と人間時の2種類に分けられる。さらに野獣時は、ベルを助ける前と後で声が変わっているため、実質ビーストの声は3種類に分けられるのだ。1つのキャラクターの1つの声を演じるだけでも難しいが、3つの声となると、高度な演技力が必要になる。


ではビーストの3つの声は、どのように違うのか。最初は、野獣の姿でベルを助ける前の声について説明。ベルを助ける前のビーストは、元来の傲慢な性格に加え、野獣に変えられたことで暗く、怒りやすくなった。そのため、ビーストの声は低く野太いものとなり、口調は高圧的で常に怒っている感じだった。


続いては、野獣の姿でベルを助けた後の声。野獣はベルを助けた後、彼女に心を許し、ベルと一緒に城の中で過ごすことになった。そうしていくうちに野獣は、人間らしい感情と優しさを取り戻していき、さらにベルに心を通わすようになり、人を愛することの大切さを知っていった。その時のビーストの声は、野獣であるため低く野太いものだが、若干高くなっている。また、口調は温厚な性格へと変わったこともあり、柔らかいものになっていた。


そして最後は、人間時の声。ビーストが人間になって声を出す時間は約1分ほどだが、それでもしっかりと聞くことが出来る。人間になったビーストは野獣時と比べ、高く透き通った声となっており、口調はベルを助けた後の時と同じく柔らかいもので、さらに人間に戻れたことへの喜びからか生き生きとした感じになっていた。


ここまでビーストの3種類の声を説明してきたが、野獣時と人間時ならまだ変えやすいと思うが(それでも素人じゃ出来ないと思う)、野獣時の声の変化は至難の業だ。声の高さを若干変えて、高圧的な口調から物腰やわらかなものへと変え、それによってビーストの心情の変化を表すのは、ベテラン声優だけでなければ難しいことだ。


しかしやまちゃんは、声優デビューから6年という早さで、ベテラン声優が成しえることを出来たのだ。ビーストは、やまちゃんが高いポテンシャルを持つ声優であることを証明させたキャラクターだった。


『美女と野獣』の吹き替えで演技力の高さを見せたやまちゃんだが、翌年公開の『アラジン』(1992)で、陽気でおしゃべりなランプの精霊・ジーニーを演じたことにより、「山寺宏一=おしゃべりで陽気なキャラクターの声優」というイメージが付いたと思われる。


その後のディズニー作品でも、『ムーラン』(1998)のムーシューや『トレジャー・プラネット』(2002)のベンといった陽気でおしゃべりなキャラクターを多く演じたのだ。そういったキャラクターが出来たのは、東北学院大学で落語研究会に所属していたことが関わっていると思う。落語をのしゃべり方を通じてマシンガントークを身につけたのではないだろうか。


また、落語は1人で何役もこなすため、その経験がビーストの声の変化に繋がったのかもしれない。いずれにせよ、『美女と野獣』のビーストは、やまちゃんが本当に上手い声優であることを知れるキャラクターであった。