酒、歌、煙草、また女 ----三田の学生時代を唄へる歌 佐藤春夫ヴィッカス・ホールの玄関に咲きまつはつた凌霄花(のうぜんくわ)感傷的でよかつたが今も枯れずに残れりや秋はさやかに晴れわたる品川湾の海のはて自分自身は木柵(もくさく)によりかかりつつ眺めたがひともと銀杏(いてふ)葉は枯れて庭を埋めて散りしけば冬の試験も近づきぬ一句も解けずフランス語若き二十(はたち)のころなれや三年( . . . 本文を読む
旗 杉山平一 つきつめたやうな顔をしてあるいて ゐる高等学校の生徒のマントを見るた びに 私は涙のでるやうななつかしさ をおぼえる 私がその時分をすごした のは 裏日本のみづうみに沿つたちひ さな古風な街であつた 秋から冬にか けて よくみづうみをわたつてくる夜 霧に 街はすつぽり包まれてしまつた あの白い霧に黒マントを翻へしなが ら 憑かれたやう . . . 本文を読む
帰省中の、または都会で故里を思う皆さんへ。
一連ごとに段々詩情が盛り上がって行って終りの2行で絶頂に。
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柱も庭も乾いている
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛の巣が
心細さうに揺れている
山では枯木も息を吐く
ああ今日は好い天気だ
路傍(みちばた)の草影が
あどけない愁(かなし)みをする
これが私の故里だ
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映画「越境者」(1950伊)挿入歌「しゃれこうべと大砲」Vitti na crizza nu cannuni
1 大砲の上に しゃれこうべが 空ろな目を開いていた しゃれこうべが ラララ言うことにゃ 鐘の音も聞かずに 死んだ2 雨にうたれ 風に曝されて 空の果てを 睨んでいた しゃれこうべが ラララ言うことにゃ おふくろにも会わずに 死んだ3 春が来ても 夏が過ぎても . . . 本文を読む
水の都・松江は、この時期、霧ともやの都にもなる。夜そとに出ると、一面の霧が。そんな時ふと口をついて出るのが「霧の中」不思議だ、霧の中を歩くのは! どの茂みも石も孤独だ。 どの木にも他の木は見えない。私の生活がまだ明るかったころ、 私にとって世界は友だちにあふれていた。 いま、霧がおりると、 だれももう見えない。 ほんとうに、自分をすべてのものから 逆らいようもなく、そっとへだてる 暗さを知らないも . . . 本文を読む
森鴎外
南山の たたかいの日に
袖口の こがねのぼたん
ひとつおとしつ
その釦鈕(ぼたん)惜し
べるりんの 都大路の
ぱっさあじゅ 電灯あおき
店にて買いぬ
はたとせまえに
えぽれっと かがやきし . . . 本文を読む
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を敷き
つぶら瞳の君ゆゑに
うれひは青し空よりも
影おほき林をたどり
夢ふかきみ瞳を恋ひ
あたたかき真昼の丘べ
花を敷き、あはれ若き日
君が瞳はつぶらにて
君が心は知りがたし。
君をはなれて唯ひとり
月夜の海に石を投ぐ。
佐藤春夫 初出「殉情詩集」1921刊
新潮文庫「現代名詩選」(中)1980刊
佐藤春夫〔1892-19 . . . 本文を読む
わが君は花のごとくに
しとやかに清くうつくし
わが君をうち見まもれば
なにゆえか愁いは湧きて
君つねに清くめぐしく
神きみを護りたまえと
手を君の頭に置きて
祈りたき思い湧き出ず
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けさ起きぬけに、なんの脈絡も無く、
半世紀ぶりに記憶によみがえった詩。
書かれていたのは
サイン帳だったかメモ用紙だったか。
季節はいまごろか、
年齢は10代の前半だったろう、
ひごろ付き合いも . . . 本文を読む
ダンテ
花綵(はなづな)の蔭に見しより
嘆かるれ 花見るごとに
花綵は、花と花を結わえて、門の上に掛けた、柱から柱へ連ねた花飾り。
ダンテ(1265-1321)がひとたび見かけ、後、ことあるごとにその人の
想いに嘆く、その人はベアトリーチェ。
この訳は24行詩の冒頭だが、部分を取り上げてなお光るのが、
詩人の天才たる所以だろうと、著者は言う。こん . . . 本文を読む
さねさし相模の小野に燃ゆる火の火中(ほなか)に立ちて問ひし君はも
(相模の野原で、燃えていた火の、その火の中に立って、私に
声をかけてくださったあなたよ、ああ・・・)
ヤマトタケルが走水の海(今の浦賀水道)を渡る時、海の神が波を起こし
て船を進ませなかった。そこで妃の弟橘媛(おとたちばなひめ)は
「あなたに代わって海中に入ります。あなたは任務を果たしてください」と
言って幾枚もの敷 . . . 本文を読む
古事記のヤマトタケル(倭建尊)が重くなる足の病に耐えて、
能煩野(のぼの)にたどり着き、望郷の思いを詠んだ歌。
思国歌(くにしのひうた)と呼ばれる
倭(やまと)は 国の 真秀(まほ)ろば
たたなづく 青垣 山籠(やまごも)れる 倭し麗(うるは)し
(大和は国の中で最もよい所だ。重なり合った青い垣根の山、
. . . 本文を読む
ヤマトタケルの歌
尾張に直(ただ)に向かへる
尾津の崎なる
一つ松 吾兄(あせ)を
一つ松 人にありせば 大刀佩けましを
衣(きぬ)着せましを
一つ松 あせを
意味:尾張の国に、まっすぐ向かっている、尾津の崎、そこに生えている
一本松よ、ああ、お前は、一本松よ、よくぞ俺の大刀を守っていてくれた
な。褒美に、お前が人だったなら、大刀を佩かせてやりたかったのに。服
を着せてやりたかっ . . . 本文を読む
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ われらの恋が流れる
わたしは思い出す 悩みのあとには楽しみが来ると
日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ わたしは残る
手に手をつなぎ 顔と顔を向け合おう こうしていると
二人の腕の橋の下を 疲れたまなざしの無窮の時が流れる
日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ わたしは残る
流れる水のように恋もまた死んでいく
命ばかりが長く 希望ばかりが大きい . . . 本文を読む
【相聞】
風にまひたるすげ笠の
なにかは路に落ちざらん。
わが名はいかで惜しむべき。
惜しむは君が名のみとよ。
【船乗りの戯れ歌】
この身は鱶(ふか)の餌(え)ともなれ
汝(な)を賭け物に博打たむ
びるぜん・まりあも見そなはせ
汝に夫(つま)あるはたへがたし
「芥川龍之介」1991刊 ちくま日本文学全集
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「相聞」は芥川が他人の妻に思いをかけ、 . . . 本文を読む
一の谷の 軍(いくさ)破れ
討たれし平家の 公達(きんだち)あわれ
暁(あかつき)寒き 須磨の嵐に
聞こえしはこれか 青葉の笛
更くる夜半(よわ)に 門(かど)を敲(たた)き
わが師に託せし 言の葉(ことのは)あわれ
今わの際(きわ)まで 持ちし箙(えびら)に
残れるは「花や 今宵(こよい)」の歌
「青葉の笛」大和田建樹作詞
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