宿毛(すくも)は高知県の西端の小さな町。
1971年今井正監督、岩下志麻主演で映画化された、大原富枝の
「婉(えん)という女」に描かれている、野中兼山一族の幽閉の地である。
江戸時代の信じがたい人権無視、家老として失脚した本人の死後に、
妻子が(乳幼児にいたるまで)幽閉され、それは最後の男子が死ぬまで、
40年間続いた。4歳だった婉は44歳になって初めて世間に出る・・・
病弱のため、蟄居を余儀な . . . 本文を読む
壇もとい檀一雄(1912-1976)の、私にとって幻の作品。「花筐」の意味は花を入れる目のつんだ竹かごで、謡曲の題にもある。※作家の花登筺(はなとこばこ)の「筺」の字に似ているが、こちらは王ではなく玉で1画多い。けさ松江の即席しるこを喫してから包み紙を見ると「花小筐(はなこばこ)」とあったので思い出した次第。1973年に旺文社文庫で出ているがそれ以前、どこかで一度だけ読んだ事がある。その時受けた衝 . . . 本文を読む
北海道へは3回行ったが、いつも1人旅だ。
1981年~83年、30代の後半に、毎年出かけている。
時期はベストシーズン以外を選び、真冬(1月末ー2月半)とか
春先(4月下旬ー5月上旬)とか秋(9月ー10月初め)とか。
へそまがりなのと、混雑を避けるための両方の理由から。
各回とも、10日から20日位かけて、道南以外の北海道をくまなく
廻ったことになる。
釧路、根室、川湯、網走、帯広、摩周湖、小 . . . 本文を読む
20年あまり前、40歳を目前にして、欧州を一人で旅したことがある。
格安券でパリに飛び、北駅を起点にして、ユーレイルパス(15日券)で
ドイツ~北欧を一回りしてまたパリに帰った。
電車を最初に降りたのは北ドイツのリュベック。ハンザ同盟の盟主で、
今や世界遺産としても有名だが、当時の私にとっては、単に小ぢんまり
した美しい町に過ぎなかった。と言うのも、昔読んだトーマス・マンの
「トニオ・クレーゲル」 . . . 本文を読む
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を敷き
つぶら瞳の君ゆゑに
うれひは青し空よりも
影おほき林をたどり
夢ふかきみ瞳を恋ひ
あたたかき真昼の丘べ
花を敷き、あはれ若き日
君が瞳はつぶらにて
君が心は知りがたし。
君をはなれて唯ひとり
月夜の海に石を投ぐ。
佐藤春夫 初出「殉情詩集」1921刊
新潮文庫「現代名詩選」(中)1980刊
佐藤春夫〔1892-19 . . . 本文を読む
著者 デ・ラ・メア 訳者 野上彰 出版社と年 創元社 1956年
収録 世界少年少女文学全集 34巻 イギリス篇
デ・ラ・メアは1887ー1956の英国の詩人・小説家。
現実と空想がまざりあったふしぎな世界を書くのが好きだった。
詩も幻想的なのが多いし、小説も同様だ。
野上彰は1909-1967、第七高等学校卒(後略)鬼才・多才といわれた
前衛詩人、らしい。(偶然にも私の伯父が同じ年齢、同じ高 . . . 本文を読む
わが君は花のごとくに
しとやかに清くうつくし
わが君をうち見まもれば
なにゆえか愁いは湧きて
君つねに清くめぐしく
神きみを護りたまえと
手を君の頭に置きて
祈りたき思い湧き出ず
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けさ起きぬけに、なんの脈絡も無く、
半世紀ぶりに記憶によみがえった詩。
書かれていたのは
サイン帳だったかメモ用紙だったか。
季節はいまごろか、
年齢は10代の前半だったろう、
ひごろ付き合いも . . . 本文を読む
ダンテ
花綵(はなづな)の蔭に見しより
嘆かるれ 花見るごとに
花綵は、花と花を結わえて、門の上に掛けた、柱から柱へ連ねた花飾り。
ダンテ(1265-1321)がひとたび見かけ、後、ことあるごとにその人の
想いに嘆く、その人はベアトリーチェ。
この訳は24行詩の冒頭だが、部分を取り上げてなお光るのが、
詩人の天才たる所以だろうと、著者は言う。こん . . . 本文を読む
2006年 ドイツ 138分 鑑賞 07年3月7日@シネリーブル梅田
監督&脚本 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
主演 ウルリッヒ・ミューエ
原題 Das Leben der Anderen
「ベルリンの壁」が崩れる数年前の東独で。
シュタージ(国家保安省)のヴィースラー大尉は、
ある劇作家と恋人の女優を監視盗聴するうちに、自由、愛、芸術を知り、
ミイラ取りがミイラになり、反体 . . . 本文を読む
さねさし相模の小野に燃ゆる火の火中(ほなか)に立ちて問ひし君はも
(相模の野原で、燃えていた火の、その火の中に立って、私に
声をかけてくださったあなたよ、ああ・・・)
ヤマトタケルが走水の海(今の浦賀水道)を渡る時、海の神が波を起こし
て船を進ませなかった。そこで妃の弟橘媛(おとたちばなひめ)は
「あなたに代わって海中に入ります。あなたは任務を果たしてください」と
言って幾枚もの敷 . . . 本文を読む
古事記のヤマトタケル(倭建尊)が重くなる足の病に耐えて、
能煩野(のぼの)にたどり着き、望郷の思いを詠んだ歌。
思国歌(くにしのひうた)と呼ばれる
倭(やまと)は 国の 真秀(まほ)ろば
たたなづく 青垣 山籠(やまごも)れる 倭し麗(うるは)し
(大和は国の中で最もよい所だ。重なり合った青い垣根の山、
. . . 本文を読む
ヤマトタケルの歌
尾張に直(ただ)に向かへる
尾津の崎なる
一つ松 吾兄(あせ)を
一つ松 人にありせば 大刀佩けましを
衣(きぬ)着せましを
一つ松 あせを
意味:尾張の国に、まっすぐ向かっている、尾津の崎、そこに生えている
一本松よ、ああ、お前は、一本松よ、よくぞ俺の大刀を守っていてくれた
な。褒美に、お前が人だったなら、大刀を佩かせてやりたかったのに。服
を着せてやりたかっ . . . 本文を読む
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ われらの恋が流れる
わたしは思い出す 悩みのあとには楽しみが来ると
日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ わたしは残る
手に手をつなぎ 顔と顔を向け合おう こうしていると
二人の腕の橋の下を 疲れたまなざしの無窮の時が流れる
日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ わたしは残る
流れる水のように恋もまた死んでいく
命ばかりが長く 希望ばかりが大きい . . . 本文を読む
【相聞】
風にまひたるすげ笠の
なにかは路に落ちざらん。
わが名はいかで惜しむべき。
惜しむは君が名のみとよ。
【船乗りの戯れ歌】
この身は鱶(ふか)の餌(え)ともなれ
汝(な)を賭け物に博打たむ
びるぜん・まりあも見そなはせ
汝に夫(つま)あるはたへがたし
「芥川龍之介」1991刊 ちくま日本文学全集
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「相聞」は芥川が他人の妻に思いをかけ、 . . . 本文を読む