乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

2024年09月03日 | 読書全般(古典など以外の一般書)
『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 

 

 

 

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月




 信吉法師が韜晦してから、十年たつた。



 はある日、ふと指を繰つて見て、十年といふことばの響きに、心の落ちつくのを感じた。

 信吉の馳落ちの噂を耳にしたとき、業病の苦しみに堪へきれなくなつて、海か川かへ身を投げたものと信じてゐた。

 遠い昔のことである。



 ある時信吉法師は寂寥と、やるせなさとを、この親身な相弟子に打ちあけて聞かしたのであつた。

 源内法師は足音を盗んで、身毒の部屋の方へ歩いて行つた。



 身毒は板敷きに薄縁一枚敷いて、経机に凭りかゝつて、一心不乱に筆を操つてゐる。

 捲り上げた二の腕の雪のやうな膨らみの上を、血が二すぢ三すぢ流れてゐた。



 源内法師は居間に戻つた。

 その美しい二の腕が胸に烙印した様に残つた。

 その腕や、美しい顔が、紫色にうだ腫れた様を思ひ浮べるだけでも心が痛むのである。

 そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 は持仏堂に走り込んで、泣くばかり大きな声で、この邪念を払はせたまへと祈つた。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

『身毒丸 』 折口信夫  10 accident 

『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。
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映画『Glass  ミスター・ガラス』2019年  129分 アメリカ  監督:M・ナイト・シャマラン  ブルース・ウィリス サミュエル・L・ジャクソン

2024年09月03日 | 映画
   映画『Glass  ミスター・ガラス』2019年  129分 アメリカ  監督:M・ナイト・シャマラン  ブルース・ウィリス サミュエル・L・ジャクソン

 


 映画『Glass  ミスター・ガラス』を見たが、かなり面白かった。

 この映画は、私は好きだな^^


 


 今回も見たという記録のみにて、失礼いたします。


 




解説(公式HP)
M・ナイト・シャマラン監督がブルース・ウィリス&サミュエル・L・ジャクソン共演で送り出した「アンブレイカブル」のその後を描いたサスペンススリラー。同じくシャマラン監督作でジェームズ・マカボイ主演の「スプリット」とも世界観を共有する。フィラデルフィアのとある施設に、それぞれ特殊な能力を持つ3人の男が集められる。不死身の肉体と悪を感知する力を持つデヴィッド、24人もの人格を持つ多重人格者ケヴィン、驚くべきIQの高さと生涯で94回も骨折した壊れやすい肉体を持つミスター・ガラス。彼らの共通点は、自分が人間を超える存在だと信じていること。精神科医ステイプルは、すべて彼らの妄想であることを証明するべく、禁断の研究に手を染めるが……。「アンブレイカブル」でデヴィッドを演じたウィリス、ミスター・ガラスを演じたジャクソン、「スプリット」でケヴィンを演じたマカボイが同役を続投。


2019年製作/129分/G/アメリカ
原題または英題:Glass
配給:ディズニー
劇場公開日:2019年1月18日

スタッフ・キャスト
監督
M・ナイト・シャマラン

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『身毒丸 』 折口信夫  10 accident

2024年09月02日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 

 

 

 

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月




 信吉法師が韜晦してから、十年たつた。



 はある日、ふと指を繰つて見て、十年といふことばの響きに、心の落ちつくのを感じた。

 信吉の馳落ちの噂を耳にしたとき、業病の苦しみに堪へきれなくなつて、海か川かへ身を投げたものと信じてゐた。

 遠い昔のことである。



 ある時信吉法師は寂寥と、やるせなさとを、この親身な相弟子に打ちあけて聞かしたのであつた。

 源内法師は足音を盗んで、身毒の部屋の方へ歩いて行つた。



 身毒は板敷きに薄縁一枚敷いて、経机に凭りかゝつて、一心不乱に筆を操つてゐる。

 捲り上げた二の腕の雪のやうな膨らみの上を、血が二すぢ三すぢ流れてゐた。



 源内法師は居間に戻つた。

 その美しい二の腕が胸に烙印した様に残つた。

 その腕や、美しい顔が、紫色にうだ腫れた様を思ひ浮べるだけでも心が痛むのである。

 そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 は持仏堂に走り込んで、泣くばかり大きな声で、この邪念を払はせたまへと祈つた。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

『身毒丸 』 折口信夫  10  師匠が亡くなつてから、丹波氷上の田楽能の一座の部領に迎へられて、十年あまりをそこで過して居つたが、兄弟子の信吉法師が行方不明になつた頃呼び戻されて、久しぶりで住吉に帰つた。

『身毒丸 』 折口信夫  10 accident

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乱鳥徒然 できるだけ立って生活したい。 これまた、阿呆な行動をとっている。

2024年09月02日 | 乱鳥徒然 Rancho's room.



  乱鳥徒然 できるだけ立って生活したい。 これまた、阿呆な行動をとっている。








 一説によれば、座る時間が長いと、頭や体に良くないという。

 私は本を読んだり何か考えたり自分と向き合う時間が好き。

 歩きながらそうすればいいのかもしれないのだが。

 どうしてもいすやソファーに座って過ごす時間が長い。

 掃除や家事の時間をできる限り増やそうと試みてはいるものの限界があるように感じる。

 
 立って過ごす時間を過ごすためにいかにすればよいか。

 そこで私は考えた。


 パソコンとむきあっている時間は長い。

 そこで、春に家族にプレゼントしてもらったノートパソコンの方は、立って使うことにした。

 置き場は、カウンターテーブルの高さが良さそうだ。

 立ったまま背を伸ばしたまま、パソコンと向き合うことができる。


     しめしめ


 これは好都合だ。

 パソコンを使う時間は長いので、相当立ったままの時間を過ごせている。

 現に今もこの記録を付けている只今も、立ったままの作業をしている。

 またゆーちゅ^部を付けながらの名側作業なので、意識が分散し、脳の活性化にもつながるというものだ。

 何なら、足踏みさえしながら、文字を売っている。


 さぁ!身体の為、健康のために、少しでも立った時間を伸ばしてみたいと感じて、これまた、阿呆な行動をとっている。


      いざ!さよ!
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『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

2024年09月02日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫


『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

 

 

 

 

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 四度目の血書を恐る/\さし出したときに、師匠の目はやはり血走つてゐたが、心持ち柔いだ表情が見えて、人を恨むぢやないぞ。

 危い傘飛びの場合を考へて見ろ。

 若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。

 否でも片羽にならねばならぬ。

 神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。



 写経のことには一言も言ひ及ばなかつた。

 そして部屋へ下つて、一眠りせいと命じた。

 経文は膝の上にとりあげられた。

 執着に堪へぬらしい目は、燃えたち相な血のあとを辿つた。



 自身の部屋に帰つて来た身毒は、板間の上へ俯伏しに倒れた。

 蝉が鳴くかと思うたのは、自身の耳鳴りである。

 心づくと黒光りのする板間に、鼻血がべつとりと零れてゐた。


 さうしてゐるうちに、放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。

 あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

 

 身毒は起き上つた。

 そして、机に向うて、五度目の写経にとりかゝるのである。


 夢心地に、半時ばかりも筆を動かした。

 然し、もう夢さへも見ることの出来ない程、衰へきつてゐる。


 疲れ果てた心の隅に、何処か薄明りの射す処があつて、其処から未見ぬ世界が見えて来相に思はれ出した。

 身毒は息を集め、心を凝して、その明るみを探らうと試みる。






 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。


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『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

2024年09月02日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
たくましい花嫁 in 大阪城





『身毒丸 』 折口信夫  8  人を恨むぢやないぞ。危い傘飛びの場合を考へて見ろ。>若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





「さあ、これ(『龍女成仏品』の事)を血書するのぢやぞ。

 一毫も汚れた心を起すではないぞ。

 冥罰を忘れなよ。」



 身毒はこれまでに覚えのない程、憤りに胸を焦した。

 然しそれは、師匠の語気におびき出されたものに過ぎない。


 心の裡では、師匠のことばを否定することは出来なかつた。

 経文を血書してゐる筆の先にも、どうかすると、長者の妹娘の姿がちらめいた。

 あるときは、その心から妹娘を攘ひ除けたやうな、すが/\しい 心持ちになることもある。

 然しながら、其空虚には朧気な女の、誰とも知らぬ姿が入り込んで来た。



 最初の写経は、の手に渡ると、ずた/\に引き裂かれて、火桶に投げ込まれた。

 身毒は、再度血書した。それが却けられたときに、三度目の血書にかゝつた。

 その経文も 穢らはしい といふ一語の下に前栽へ投げ棄てられた。



 連夜の不眠に、何うかすると、筆を持つて机に向つたまゝ、目を開いて睡つた。

 さうした僅かの間にも、妹娘や見も知らぬ処女の姿がわり込んで来る。



 四度目の血書を恐る/\さし出したときに、師匠の目はやはり血走つてゐたが、心持ち柔いだ表情が見えて、

「人を恨むぢやないぞ。

 危い傘飛びの場合を考へて見ろ。

 若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。

 否でも片羽にならねばならぬ。

 神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。」





 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。


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『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

2024年09月01日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
(写真はイラン。テヘラン博物館の『アイスマン』
 ずいぶん時を経て、氷の中から発見されたという。)



『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月



 踊り手は、一様に手を止めて、音頭の絶えたのを訝しがつて立つてゐた。

 と切れた歌は、直ちに続けられた。


 然しながら、以前の様な昂奮がもはや誰の上にも来なかつた。


 身毒は、歌ひながら不機嫌な師匠の顔を予想して慄へ上つてゐた。




 あちらこちらの塚山では寝鳥が時々鳴いて三人を驚かした。

 
 思ひ出したやうに、疲れたゞの、かひだるいだのと制多迦(せいたか)が独語をいふ外には、対話はおろか、一つのことばも反響を起さなかつた。


 家へ帰ると、三人ながら くづほれる様に、土間の莚の上へ、べた/″\と坐り込んだ。


 源内法師は、身毒の襟がみを把つて、自身の部屋へ引き摺つて行つた。


 身毒は、一語も上つて来ないひき緊つた師匠の脣から出る、恐しいことばを予想するのも堪へられない。


 柱一間を隔いて無言で向ひあつてる師弟の上に、時間は移つて行く。


 短い夜は、ほの/″\あけて、朝の光りは二人の膝の上に落ちた。



 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。

 かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。


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『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

2024年09月01日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
(写真は『俊寛僧都物語』

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 田楽師は、また村々の念仏踊りにも迎へられる。

 ちようど、七月に這入つて、泉州石津の郷で盆踊りがとり行はれるので、源内法師は 身毒と、制多迦童子(せいたかどうじ)とを連れて、一時あまりかゝつて百舌鳥の耳原を横切つて、石津の道場に着いた。

 其夜は終夜、月が明々と照つてゐた。


 念仏踊りの済んだのは、かれこれ 子の上刻である。


 呆れて立つてゐる二人を急き立てゝ、そゝくさと家路に就いた。


 道は薄の中を踏みわけたり、泥濘を飛び越えたりした。


 三人の胸には、各別様の不安と不平とがあつた。

 踊り疲れた制多迦(せいたか)は、をり/\ 聞えよがしに欠をする。


 源内法師は鑢ででも磨つて除けたいばかりに、いら/\した心持ちで、先頭に立つてぼく/″\と歩く。


 久かたぶりの今日の外出は、鬱し切つてゐた身毒の心持ちをのう/\させた。


 けれどもそれは、ほんの暫しで、踊りの初まる前から、軽い不安が始中終彼の頭を掠めてゐた。


 は、一丈もある長柄の花傘を手に支へて、音頭をとつた。

 月の下で気狂ひの様に踊る男女の耳にも、その迦陵頻迦のやうな声が澄み徹つた。

 をり/\見上げる現ない目にも、地蔵菩薩さながらの姿が映つた。


 若い女は、みな現身仏の足もとに、跪きたい様に思うた。

 けれども身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

 ある回想がの心をふと躓かせた。

 の耳には、あり/\と火の様なことばが聞える。

 の目には、まざ/″\と焔と燃えたつ女の奏が陽炎うた。



 



 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
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モーセの十戒とは

2024年09月01日 | ことのは

   モーセの十戒とは

 映画『ヘルレイザー ジャッジメント』を見ていると、『十戒』という言葉が何度も出てきたので、しらべてみる。





 モーセの十戒 (Wikipedia)

 ホセ・デ・リベーラ作『モーセ』(1638年):十戒が書かれた石板を持つモーセが描かれている。

 モーセの十戒(モーセのじっかい、モーセの十誡、ヘブライ語: עשרת הדיברות‎、英: Ten Commandments)は、モーセが神から与えられたとされる10の戒律のこと。



 キリスト教 キリスト教の十字架 関連記事 原理 聖書 神学 歴史と伝統 東方教会 西方教会


 エジプト記20章2節から17節、申命記5章7節から21節に書かれており、エジプト出発の後にモーセがシナイ山にて、神より授かったと記されている。

十戒の内容は神の意思が記されたものであり、モーセが十戒そのものを考え出し、自らもしくは他者に記させたものではない、とされている。

 出エジプト記本文では神が民全体に語りかけたがそれが民をあまりにも脅かしたためモーセが代表者として神につかわされた、とされる。

 シナイ契約、または単に十戒とも呼ばれる。

 二枚の石板からなり、二度神から渡されている。最初にモーセが受け取ったものはモーセ自身が叩き割っている
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『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

2024年09月01日 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 何も知らぬ身毒は、其夜一番鶏が鳴くまで、師匠の折檻に会うた。


 
 夜があけて、弟子どもが床を出たときに、青々と剃り毀たれた頭を垂れて、庭の藤の棚の下に茫然といでゐる身毒を見出した。


 源内法師の居間には、髪の毛を焼いたらしい不気味な臭ひが漂うてゐた。


 師匠は晴れやかな顔をして、廂に射し込む朝の光りを浴びてゐた。

 然しそれは間もなく、制多迦童子(せいたかどうじ)と渾名せられてゐる弟子の一人に肩を扼せられて出て来た、身毒の変つた姿を目にした咄嗟に、曇つて了つた。



 何も驚くことはない。

 あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。


 身毒を居間に下らした後、事あり顔に師匠の周りをとり捲いた弟子どもに、こだはりのない声で から/\と笑つた。



 瓜生野の田楽能の一座は逢坂山を越える時に初めて時鳥を聞いた。

 住吉へ帰ると間もなく、盆の聖霊会が来た。


 源内法師はこれまで走り使ひにやり慣れた神宮寺法印の処へさへも、身毒を出すことを躊躇した。

 そして、その起ち居につけて、暫くも看視の目を放さなかつた。

 どうも、うは/\してゐる、と師匠の首を傾けることが度々になつた。





 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
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