乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
(写真はイラン。テヘラン博物館の『アイスマン』
 ずいぶん時を経て、氷の中から発見されたという。)



『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月



 踊り手は、一様に手を止めて、音頭の絶えたのを訝しがつて立つてゐた。

 と切れた歌は、直ちに続けられた。


 然しながら、以前の様な昂奮がもはや誰の上にも来なかつた。


 身毒は、歌ひながら不機嫌な師匠の顔を予想して慄へ上つてゐた。




 あちらこちらの塚山では寝鳥が時々鳴いて三人を驚かした。

 
 思ひ出したやうに、疲れたゞの、かひだるいだのと制多迦(せいたか)が独語をいふ外には、対話はおろか、一つのことばも反響を起さなかつた。


 家へ帰ると、三人ながら くづほれる様に、土間の莚の上へ、べた/″\と坐り込んだ。


 源内法師は、身毒の襟がみを把つて、自身の部屋へ引き摺つて行つた。


 身毒は、一語も上つて来ないひき緊つた師匠の脣から出る、恐しいことばを予想するのも堪へられない。


 柱一間を隔いて無言で向ひあつてる師弟の上に、時間は移つて行く。


 短い夜は、ほの/″\あけて、朝の光りは二人の膝の上に落ちた。



 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。

 かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。


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『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
(写真は『俊寛僧都物語』

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 田楽師は、また村々の念仏踊りにも迎へられる。

 ちようど、七月に這入つて、泉州石津の郷で盆踊りがとり行はれるので、源内法師は 身毒と、制多迦童子(せいたかどうじ)とを連れて、一時あまりかゝつて百舌鳥の耳原を横切つて、石津の道場に着いた。

 其夜は終夜、月が明々と照つてゐた。


 念仏踊りの済んだのは、かれこれ 子の上刻である。


 呆れて立つてゐる二人を急き立てゝ、そゝくさと家路に就いた。


 道は薄の中を踏みわけたり、泥濘を飛び越えたりした。


 三人の胸には、各別様の不安と不平とがあつた。

 踊り疲れた制多迦(せいたか)は、をり/\ 聞えよがしに欠をする。


 源内法師は鑢ででも磨つて除けたいばかりに、いら/\した心持ちで、先頭に立つてぼく/″\と歩く。


 久かたぶりの今日の外出は、鬱し切つてゐた身毒の心持ちをのう/\させた。


 けれどもそれは、ほんの暫しで、踊りの初まる前から、軽い不安が始中終彼の頭を掠めてゐた。


 は、一丈もある長柄の花傘を手に支へて、音頭をとつた。

 月の下で気狂ひの様に踊る男女の耳にも、その迦陵頻迦のやうな声が澄み徹つた。

 をり/\見上げる現ない目にも、地蔵菩薩さながらの姿が映つた。


 若い女は、みな現身仏の足もとに、跪きたい様に思うた。

 けれども身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

 ある回想がの心をふと躓かせた。

 の耳には、あり/\と火の様なことばが聞える。

 の目には、まざ/″\と焔と燃えたつ女の奏が陽炎うた。



 



 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
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モーセの十戒とは

2024-09-01 | ことのは

   モーセの十戒とは

 映画『ヘルレイザー ジャッジメント』を見ていると、『十戒』という言葉が何度も出てきたので、しらべてみる。





 モーセの十戒 (Wikipedia)

 ホセ・デ・リベーラ作『モーセ』(1638年):十戒が書かれた石板を持つモーセが描かれている。

 モーセの十戒(モーセのじっかい、モーセの十誡、ヘブライ語: עשרת הדיברות‎、英: Ten Commandments)は、モーセが神から与えられたとされる10の戒律のこと。



 キリスト教 キリスト教の十字架 関連記事 原理 聖書 神学 歴史と伝統 東方教会 西方教会


 エジプト記20章2節から17節、申命記5章7節から21節に書かれており、エジプト出発の後にモーセがシナイ山にて、神より授かったと記されている。

十戒の内容は神の意思が記されたものであり、モーセが十戒そのものを考え出し、自らもしくは他者に記させたものではない、とされている。

 出エジプト記本文では神が民全体に語りかけたがそれが民をあまりにも脅かしたためモーセが代表者として神につかわされた、とされる。

 シナイ契約、または単に十戒とも呼ばれる。

 二枚の石板からなり、二度神から渡されている。最初にモーセが受け取ったものはモーセ自身が叩き割っている
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『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 何も知らぬ身毒は、其夜一番鶏が鳴くまで、師匠の折檻に会うた。


 
 夜があけて、弟子どもが床を出たときに、青々と剃り毀たれた頭を垂れて、庭の藤の棚の下に茫然といでゐる身毒を見出した。


 源内法師の居間には、髪の毛を焼いたらしい不気味な臭ひが漂うてゐた。


 師匠は晴れやかな顔をして、廂に射し込む朝の光りを浴びてゐた。

 然しそれは間もなく、制多迦童子(せいたかどうじ)と渾名せられてゐる弟子の一人に肩を扼せられて出て来た、身毒の変つた姿を目にした咄嗟に、曇つて了つた。



 何も驚くことはない。

 あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。


 身毒を居間に下らした後、事あり顔に師匠の周りをとり捲いた弟子どもに、こだはりのない声で から/\と笑つた。



 瓜生野の田楽能の一座は逢坂山を越える時に初めて時鳥を聞いた。

 住吉へ帰ると間もなく、盆の聖霊会が来た。


 源内法師はこれまで走り使ひにやり慣れた神宮寺法印の処へさへも、身毒を出すことを躊躇した。

 そして、その起ち居につけて、暫くも看視の目を放さなかつた。

 どうも、うは/\してゐる、と師匠の首を傾けることが度々になつた。





 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
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映画『ヘルレイザー ジャッジメント』2018年  イギリス

2024-09-01 | 映画
    映画『ヘルレイザー ジャッジメント』2018年  イギリス


 映画『ヘルレイザー ジャッジメント』を見る。

 『ヘル・レイザー・シリーズ』(原題:Hellraiser、イギリス:Clive Barker's Hellraiser)は、1987年のイギリスのホラー映画。

 映画『ヘルレイザー ジャッジメント』はちょうど十作目にあたり、現在は十一作目が出ているそうだ。

     ヘル・レイザー(1987年)
     ヘルレイザー2(1988年)
     ヘルレイザー3(1992年)
     ヘルレイザー4(1996年)
     ヘルレイザー ゲート・オブ・インフェルノ(2000年)
     ヘルレイザー リターン・オブ・ナイトメア(2002年)
     ヘルレイザー ワールド・オブ・ペイン(2005年)
     ヘルレイザー ヘルワールド(2005年)
     ヘルレイザー:レベレーション(2011年)
     ヘルレイザー ジャッジメント(2018年)
     ヘル・レイザー(2022年)- リブート作品


 映画『ヘルレイザー ジャッジメント』は筋書きと映像が興味深い。

 ただし、何度も目をそむけたくなる場面あり^^


 こんなにロングランの面白い映画を、なぜ一作品も見てなかったかといえば、、、、

 わたくし、怖い物や怖い所や怖い映像が、超‼苦手だからなのです。

 なので『貞子』なんて何度も見ようとしましたが、怖すぎて、その都度断念。

 そのくせ、『羊たちの沈黙』などは、好きなんですよね。


 怖かったけれど、この映画も好きだな^^


 、、、、と、なんとまぁ、今回も見たという簡単な記録のみにて、失礼いたします^^はい
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これぞ、ポピュラーか?    映画『極上ディナー 狂気の夜 An Exquisite Meal』 2020年  61分

2024-09-01 | 映画
これぞ、ポピュラーか?    
    映画『極上ディナー 狂気の夜 An Exquisite Meal』 2020年  61分




 昭和のTVのようにノイズのかかった画面から始まる映画『極上ディナー 狂気の夜 An Exquisite Meal』 はふざけたばかりにあほらしい映画だったと云える。



 本当でしょうか?



 映画『極上ディナー 狂気の夜 An Exquisite Meal』 は監督の意図通りに造られた映画であると云える。

 一見ばかげた、何の意味も持たないような、ふざけた馬鹿らしい映画。

 B級映画をはるかに下回る映画。

 

 本当でしょうか?



 この映画は、一見意味を持たないが、実は大きな課題を抱えている。

    エリートとじ意識する阿呆と、下げずまれている賢人

    民主的一般人の異常と、個人の正常

 そして最も重要なこの映画の課題が

    popular(ポピュラー)

なのである。



 下げずまれている電気工事技師と偽る突然の訪問者は

    詩の引用

   『カラマーゾフの兄弟』の引用
を、普通のように話すが、自称エリートたちは
「ドフトエフスキーね。一番好きな作家よ。」
「ああ、、、」
「あああ、、、」
と、取り繕う。

 その後何もなかったように、くだらない話題に、エリートたちは花を咲かせる。

 ポピュラーなのだ。



 この映画の途中で、見逃せない 言い回し(字幕)がある。

    美しい映画なんて、必要ない。

    文学的要素なんて必要がない。

    映画は大衆のものでありポピュラーであるべきだ。


と。


 
 その割に、この映画は練られて造られている。

    ことごとくちりばめられたのであろう、言葉遊び

    異分子の排除
 
      殺された電気技術師
      一般人代表である、バイクで死んだ男

    思わせぶるなメニュー内容
    


 家主の男は、何度も声高らかに流ちょうに述べる。

 この上なくうまそうなメニューの内容を、何度も何度も(3回)唱え上げる)



 このメニュー内容にすれ、ワインの内容にすれ、私には図らなかったが、詩の引用や『カラマーゾフの兄弟』の引用のように分かりやすい引用は、親切に手ほどきしてくれている。

 だが、この映画の節々に隠されているであろうわたくしにはわからない言葉遊びが多く紡がれているに違いないと思わせるのだ。

 監督は、

    ポピュラーだと?

    ポピュラーであって、ポプラ―じゃないんだよ、、


と言わんばかりの映画を作りたかったのではないかと感じる。




 メニューだけが唱えられ、家主以外の妻や客は腹を減らす過ぎて、それこそ狂気の沙汰である。

 ウン?

 オーブンの中身?
      人肉ではありませんでしょうね^^



      空っぽですよ、空っぽ。

      それこそ,ポピュラーなのですから




 




以下は公式HPより


極上ディナー 狂気の夜(2020年製作の映画)
An Exquisite Meal

製作国:アメリカ上映時間:61分
ジャンル:スリラー
1.8
あらすじ
デイヴとアイリーン夫妻は友人たちを招いてディナーパーティーを開催。
シェフであるデイヴは腕によりをかけて極上の料理を用意していた。
パーティーにはマークとベスのカップルや、アニーと、その友人という電気技師のポール、フランス人のチャーリーが駆けつける。
男女7名がワインを飲みながら会話を楽しむなか、ポールが参加者の目を盗み不審な行動を取り始める。
やがて夜が更け、空腹となったパーティーの参加者が自らの本音を語り始めるが、デイヴが用意しているという極上の料理は一向に出てこない。
その時、家の外で大きな音が響き、驚いた一同が表に出ると、転倒したバイクと1人の男が横たわっていた。

監督
ロバート・ブルース・カーター
出演者
マイク・ジマーソン
アムリタ・ダリワル
ヴィクトリア・ニュージェント
ロス・マジャール
バッサム・アブデルファッターフ
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『身毒丸 』 折口信夫  4  身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  4  身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 この仲間では、十一二になると、用捨なくごし/\髪を剃つて、白い衣に腰衣を着けさせられた。

 ところが身毒ひとりは、此年十七になるまで、剃らずにゐた。


 身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

 額ぎはからもみ上げへかけての具合、剃り毀つには堪へられない程の愛着が、師匠源内法師の胸にあつた。



 今年は、今年はと思ひながら、一年延しにしてゐた。

 そして、毎年行く国々の人々から唯一人なる、この美しい若衆はもて囃されてゐた。


 牛若というたのは、こんな人だつたらうなどいふ評判が山家片在所の女達の口に上つた。




 今年五月の中頃、例年行く伊勢の関の宿で、田植ゑ踊りのあつた時、身毒は傘踊りといふ危い芸を試みた。

 これは高足駄を穿いて足を挙げ、その間を幾度も/\長柄の傘を潜らす芸である。



 苗代は一面に青み渡つてゐた。

 野天に張つた幄帳の白い布に反射した緑色の光りが、大口袴を穿いた足を挙げる度に、雪のやうな太股のあたりまでも射し込んだ。

 関から鈴鹿を踰えて、近江路を踊り廻つて、水口の宿まで来た時、一行の後を追うて来た二人の女があつた。

 それは、関の長者の妹娘が、はした女一人を供に、親の家を抜け出して来たのであつた。


 耳朶まで真赤にして逃げるやうに師匠の居間へ来た身毒は長者の娘のことを話した。

 師匠は慳貪な声を上げて、二人を追ひ返した。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」   (病気)

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

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『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖ある。 身毒も法師になつ浄い生活を送れ」 

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」   (病気)



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月




「 とうちやん これは何うしたの」
と咎めたの顔を見て、返事もしないで面を曇らしたまゝ、急に着物をひつ被つた。

 記憶を手繰つて行くと、悲しいその夜に、の語つた言葉がまた胸に浮ぶ。


 父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。

 その為には得度して、浄い生活をしようとしたのが、ある女の為に堕ちて、田舎聖の田楽法師の仲間に投じた。


 の居つた寺は、どうやら書写山であつたやうな気がする。

 それだから、

というたやうに、稍世間の見え出した此頃の頭には、綜合して考へ出した。

 唯、からだを浄く保つことが、の罪滅しだといふ意味であつたか、血縁の間にしふねく根を張つたこの病ひを、一代きりにたやす所以だというたのか、どちらへでも朧気な記憶は心のまゝに傾いた。


 身毒は、住吉の神宮寺に附属してゐる田楽法師の瓜生野といふ座に養はれた子方で、遠里小野の部領の家に寝起きした。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」   (病気)
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『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

2024-09-01 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月




「おまへには、まだわかるまいがね」
といふことばを前提に、は小半時も、頑是のない耳を相手に、滞り勝ちな涙声で話してゐたが,大抵は覚えてゐない。


 此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。



 唯この前提が,その時、少しばかり目醒めかけてゐた反抗心を唆つたので、はつきりと頭に印せられたのである。


 その時五十を少し出てゐた父親の顔には、二月ほど前から気味わるいむくみが来てゐた。


 父親が姿を匿す前の晩に着いた、0奈良はづれの宿院の風呂の上り場で見た,父の背を今でも覚えてゐる。

 
 蝦蟇の肌のやうな、斑点が、膨れた皮膚に隙間なく現れてゐた。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背



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