乱鳥の書きなぐり

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『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

2024-09-02 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫


『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

 

 

 

 

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





 四度目の血書を恐る/\さし出したときに、師匠の目はやはり血走つてゐたが、心持ち柔いだ表情が見えて、人を恨むぢやないぞ。

 危い傘飛びの場合を考へて見ろ。

 若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。

 否でも片羽にならねばならぬ。

 神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。



 写経のことには一言も言ひ及ばなかつた。

 そして部屋へ下つて、一眠りせいと命じた。

 経文は膝の上にとりあげられた。

 執着に堪へぬらしい目は、燃えたち相な血のあとを辿つた。



 自身の部屋に帰つて来た身毒は、板間の上へ俯伏しに倒れた。

 蝉が鳴くかと思うたのは、自身の耳鳴りである。

 心づくと黒光りのする板間に、鼻血がべつとりと零れてゐた。


 さうしてゐるうちに、放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。

 あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

 

 身毒は起き上つた。

 そして、机に向うて、五度目の写経にとりかゝるのである。


 夢心地に、半時ばかりも筆を動かした。

 然し、もう夢さへも見ることの出来ない程、衰へきつてゐる。


 疲れ果てた心の隅に、何処か薄明りの射す処があつて、其処から未見ぬ世界が見えて来相に思はれ出した。

 身毒は息を集め、心を凝して、その明るみを探らうと試みる。






 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。


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