乱鳥の書きなぐり

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『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

2024-09-02 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
たくましい花嫁 in 大阪城





『身毒丸 』 折口信夫  8  人を恨むぢやないぞ。危い傘飛びの場合を考へて見ろ。>若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。



   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月





「さあ、これ(『龍女成仏品』の事)を血書するのぢやぞ。

 一毫も汚れた心を起すではないぞ。

 冥罰を忘れなよ。」



 身毒はこれまでに覚えのない程、憤りに胸を焦した。

 然しそれは、師匠の語気におびき出されたものに過ぎない。


 心の裡では、師匠のことばを否定することは出来なかつた。

 経文を血書してゐる筆の先にも、どうかすると、長者の妹娘の姿がちらめいた。

 あるときは、その心から妹娘を攘ひ除けたやうな、すが/\しい 心持ちになることもある。

 然しながら、其空虚には朧気な女の、誰とも知らぬ姿が入り込んで来た。



 最初の写経は、の手に渡ると、ずた/\に引き裂かれて、火桶に投げ込まれた。

 身毒は、再度血書した。それが却けられたときに、三度目の血書にかゝつた。

 その経文も 穢らはしい といふ一語の下に前栽へ投げ棄てられた。



 連夜の不眠に、何うかすると、筆を持つて机に向つたまゝ、目を開いて睡つた。

 さうした僅かの間にも、妹娘や見も知らぬ処女の姿がわり込んで来る。



 四度目の血書を恐る/\さし出したときに、師匠の目はやはり血走つてゐたが、心持ち柔いだ表情が見えて、

「人を恨むぢやないぞ。

 危い傘飛びの場合を考へて見ろ。

 若し女の姿が、ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。

 否でも片羽にならねばならぬ。

 神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。」





 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。


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