三木成夫先生の「人間生命の誕生」築地書館 (1996/07)を再読しました。
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没後ますます評価の高まる著者の、未だ成書にされていない論文、講演録、エッセイなどを、生命論・保健論・人間論・形態論として編んだ、「三木学」のエッセンス。
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三木先生は解剖学、発生学の先生です。
自分が最初に三木先生の著作を読んだのは
〇「胎児の世界―人類の生命記憶」(中公新書)(1983/5/23)
という本ですが、この本には医学部学生時代にコペルニクス的転回のような認識の転換の衝撃を受けたものです。
それ以来、三木先生を私淑しています。
・・・・・
ひとは、一つの受精卵から、果てしなく卵割を繰り返して、60兆個の多細胞生物になります。
その過程で、からだの中のいろいろな臓器がつくりあげられていきます。
そのプロセスを研究するのが発生学という学問ですが、三木先生はヒトの胎児の発生を虚心坦懐に見ている過程で、様々な生物との共通項を見出すに至りました。
それは、胎児が赤ん坊になっていくプロセスが、まるで海から陸へと進化していった生物の歴史(生物は、3億年前古生代終わりに本格的な海から陸への上陸を果たしました。)そのものの歴史を繰り返しているようだ、という気付きです。
具体的には、
受胎1カ月の1週間において、
32日目 魚類
34日目 両生類
36日目 爬虫類
38日目 ほ乳類
このような進化の形態をたどります。
それは胎児の顔(すがた・かたち)からの洞察です。
ヒトの受精32-38日という1週間で、すがた・かたちに、急激な変化が起こるわけです。
海仕様の体から、陸仕様のからだへと。
少しずつ少しずつからだのバージョンが改変されて改造されていった。
その果てにできたのが、ひとのからだである、と。
生命進化のプロセスで、すべてが陸に残り続けたわけではありません。
一部の<出戻り組>は、母なる海へと再度戻って行きました。
再度海に戻った<出戻り組>としては
・ほ乳類 クジラ
・爬虫類 ウミガメ
・両生類 シーラカンス
など。
ほ乳類や爬虫類なのになぜ海を生活の舞台としているのか、という謎の答えもここにあります。
元々は海からやってきた生き物が、一度は陸に戻って進化したものの、再度海に戻った、というわけです。
そういう意味では、ヒトが海へ戻ったらクジラやイルカに進化していったと考えれば、海に生活する人間と同じような物なのでしょう。
そういう視点でクジラやイルカを見てみると、確かに高度な知性を備えているのが納得できる気がします。
===================
自然科学は、闘争の「しかけ・しくみ」を引き出すために全力を傾けている。
生きているのは「すがた・かたち」であり、「しかけ・しくみ」ではない。
「すがた・かたち」の中に「いのち」を見いだす。
===================
「すがた・かたち」を静観する眼 こころの眼 見守る
「しかけ・しくみ」を抽出する眼 あたまの眼 治す
===================
三木先生は、ひとのからだの「しくみ」ではなく、「かたち」を見つめることで、自然界の中での相動性を発見しようとされました。
===================
・生過程とは、成長と生殖の位相交替の果てしなく続く波形
・植物を形成する一つ一つの細胞形質に「遠い彼方」と共振する性能が備わっている
・巨視的に見れば、原形質の母体は地球であり、地球の母体は太陽。
・成長繁茂と開花結実の二つの相の交代が、日月星辰の波動と共鳴する。
===================
三木先生のまなざしは、自然界の植物世界、人間内界の植物世界に向けられます。
そして、人間のからだの中のミクロコスモスが、外に広がるマクロコスモスと照応していることを、美しい筆致で淡々と朗々と語られるのです。
三木先生の自然観、からだ観、生命観には大いに影響を受けています。
■
ヒトの体は内臓などに代表される植物性臓器が内側にあり、
感覚―神経‐運動の働きをする動物性臓器が外側にあります。
植物性臓器は自然・地球・宇宙と常に共鳴していますが、
動物性臓器である筋肉も、宇宙リズムの一環として収縮と拡張を繰り返しています。
内臓は植物性臓器ですが、そこを動かそうとする筋肉(内臓筋)は動物性臓器になります。
そういう風に植物世界と動物世界をつなぐ内臓筋は、(1)腸管筋、(2)腎管筋、(3)血管筋の3つがあります。
(1)腸管筋と(2)腎管筋は、その場の筋層内の神経細胞によって、
(3)血管筋は、はじめは内分泌細胞、のちに神経細胞により支配されます。
(1)腸管筋と(2)腎管筋は、は、延髄と仙髄の【副交感神経】(ブレーキ・リラックスの働き)により、
(3)血管筋は、胸腰髄の【交感神経】(アクセル・興奮の働き)により、別々に支配されています。
さらに、(3)血管筋は、体壁性(からだの外側)と内臓性(からだの内側)の少なくとも二種の血管で大きく異なるものになります。
からだの血液を体壁系(からだの外側)に送るか、内臓系(からだの内側)に送るか、そこを仕切っているのが【交感神経系】です。
背骨をからだの軸とする<脊椎動物>は約5億年前にヤツメウナギの祖先から生まれました。
その時に、血液をからだの外側か内側かへとポイントの切り替えをする内分泌系ができました。
生命は、リラックスから緊張状態へと移行することになるわけです。
約5億年前に<脊椎動物>としての魚類の原形が海の中に生まれたとき、リラックスから緊張状態へと移行する手段としての<内分泌系>を持ったわけですが、
ひとのからだにはアドレナリンを分泌する副腎髄質や頸動脈小体に、その名残りがあります。
海と陸の間でどちらでも生活できる両生類になると、<内分泌系>は<神経系>に置換され、【交感神経系】が出来ることになります。
ちなみに、乾布摩擦として皮膚に刺激を与えるのは、からだの血液を体壁系(からだの外側)か、内臓系(からだの内側)に送る仕切りとしている【交感神経系】の鍛錬を行っているわけです。
ただ、乾布摩擦も、やりすぎると血管反射が過敏になるのでご注意ください。
そんな体壁系(からだの外側)の交感神経節には
幹神経節(gt)と腹腔神経節(gs太陽神経)があります。
幹神経節(gt)は、感覚‐運動という動物的な機能を受け持ち、
腹腔神経節(gs太陽神経)は、吸収‐排泄という植物的な機能を調和させる働きを持つのです。
三木先生のからだ観はほんとうに面白くて勉強になります。
60兆個の多細胞がどのようなバランスで調和をたもっているのか、生命の歴史の一端を垣間見せてくれるような気がするのです。
■
東洋医学でいう<上虚下実>という言葉。
頭や脳の上部はリラックスして、お腹周りを充実させよ、ということです。
そもそも、動物の体には「たまり」の部位が多いのですが、植物にはたまりはありません。
植物は、自分の体の延長が宇宙そのものです。自然に対して開放的。
動物は、宇宙を体の中に抱え込んでいるので、自然に対して自閉的です。
たまりのあるところに病気や癌は起きやすいです。
そこで流れが滞ることが原因なのでしょう。川の水も流れていると腐りませんが、流れないと水も腐ります。
肺での呼吸も同じことです。
肺の中もたまらないように、呼気こそが大事なのです。
呼吸法でも、かならず息を吸うことより吐くことの重要性を教わります。
執着はたやすく、手放すことが難しい、ということとも関連があるのかもしれません。
■
3つの心臓、という話。
<心臓>の働きをする者は、
心臓 横隔膜 筋肉
の3つ。
もともと、心臓という臓器は、魚の鰓に血液を送り込むためにできました。
魚は、個体運動として尻尾を動かす事で血流を送り、えら呼吸していました。
運動と呼吸がひとつだったわけです。
ですから、ヒトの呼吸はもともと魚の全身運動だった名残があります。
そのため、ヒトも3つの心臓(心臓 横隔膜 筋肉)が肺呼吸において重要な役割を果たすのでしょう。
静脈系にも3つあります。
・肝臓に流入する吸収性静脈
・腎臓に流入する排泄性静脈
・鰓腸に流入する呼吸性静脈
すべて門静脈をなしますが、心臓は3番目の門静脈が発達してできたものです。
肝臓が入口の関所、腎臓が出口の関所ということになります。
ただ、ヒトの場合は、腎臓へ流入する血液は、静脈ではなく腎動脈という動脈血が流れるようになります。
■
太陽型と太陰型のリズム。
太陽と月のリズム。
潮のリズムは、月を基準にして地球が自転(24.8時間)のリズムで生まれます。
ですから、1日24時間ですので、約50分(0.8時間)ずつずれるわけですが、約2週間で元に戻ります。
海から陸への移動。
魚類→両生類→爬虫類。
両生類時代に、1億年の浜辺の生活がありました。
浜辺の生命記憶が人の中にあります。
それは潮のリズムです。月のリズムです。
古代は海型の太陰型のリズムで、それが陸型の太陽型のリズムへと移動しました。
24.8時間から24時間のリズムへ。
そのことが、夜更かしなど、からだのリズム障害として残っているのかもしれません。
・・・・・・・・・・
三木先生の本は、からだを見ながら、遠い生命記憶を思い出させてくれます。
からだは全員の共有物。
だからこそ、三木先生の本からは、何らかのInspirationを受け取るはずです。
もっと世界的にも知られていい三木先生の偉大なお仕事。
自分はなんとか三木先生のお考えをもっといろいろな人に知ってもらいたいな、と日々思っております。
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没後ますます評価の高まる著者の、未だ成書にされていない論文、講演録、エッセイなどを、生命論・保健論・人間論・形態論として編んだ、「三木学」のエッセンス。
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三木先生は解剖学、発生学の先生です。
自分が最初に三木先生の著作を読んだのは
〇「胎児の世界―人類の生命記憶」(中公新書)(1983/5/23)
という本ですが、この本には医学部学生時代にコペルニクス的転回のような認識の転換の衝撃を受けたものです。
それ以来、三木先生を私淑しています。
・・・・・
ひとは、一つの受精卵から、果てしなく卵割を繰り返して、60兆個の多細胞生物になります。
その過程で、からだの中のいろいろな臓器がつくりあげられていきます。
そのプロセスを研究するのが発生学という学問ですが、三木先生はヒトの胎児の発生を虚心坦懐に見ている過程で、様々な生物との共通項を見出すに至りました。
それは、胎児が赤ん坊になっていくプロセスが、まるで海から陸へと進化していった生物の歴史(生物は、3億年前古生代終わりに本格的な海から陸への上陸を果たしました。)そのものの歴史を繰り返しているようだ、という気付きです。
具体的には、
受胎1カ月の1週間において、
32日目 魚類
34日目 両生類
36日目 爬虫類
38日目 ほ乳類
このような進化の形態をたどります。
それは胎児の顔(すがた・かたち)からの洞察です。
ヒトの受精32-38日という1週間で、すがた・かたちに、急激な変化が起こるわけです。
海仕様の体から、陸仕様のからだへと。
少しずつ少しずつからだのバージョンが改変されて改造されていった。
その果てにできたのが、ひとのからだである、と。
生命進化のプロセスで、すべてが陸に残り続けたわけではありません。
一部の<出戻り組>は、母なる海へと再度戻って行きました。
再度海に戻った<出戻り組>としては
・ほ乳類 クジラ
・爬虫類 ウミガメ
・両生類 シーラカンス
など。
ほ乳類や爬虫類なのになぜ海を生活の舞台としているのか、という謎の答えもここにあります。
元々は海からやってきた生き物が、一度は陸に戻って進化したものの、再度海に戻った、というわけです。
そういう意味では、ヒトが海へ戻ったらクジラやイルカに進化していったと考えれば、海に生活する人間と同じような物なのでしょう。
そういう視点でクジラやイルカを見てみると、確かに高度な知性を備えているのが納得できる気がします。
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自然科学は、闘争の「しかけ・しくみ」を引き出すために全力を傾けている。
生きているのは「すがた・かたち」であり、「しかけ・しくみ」ではない。
「すがた・かたち」の中に「いのち」を見いだす。
===================
「すがた・かたち」を静観する眼 こころの眼 見守る
「しかけ・しくみ」を抽出する眼 あたまの眼 治す
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三木先生は、ひとのからだの「しくみ」ではなく、「かたち」を見つめることで、自然界の中での相動性を発見しようとされました。
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・生過程とは、成長と生殖の位相交替の果てしなく続く波形
・植物を形成する一つ一つの細胞形質に「遠い彼方」と共振する性能が備わっている
・巨視的に見れば、原形質の母体は地球であり、地球の母体は太陽。
・成長繁茂と開花結実の二つの相の交代が、日月星辰の波動と共鳴する。
===================
三木先生のまなざしは、自然界の植物世界、人間内界の植物世界に向けられます。
そして、人間のからだの中のミクロコスモスが、外に広がるマクロコスモスと照応していることを、美しい筆致で淡々と朗々と語られるのです。
三木先生の自然観、からだ観、生命観には大いに影響を受けています。
■
ヒトの体は内臓などに代表される植物性臓器が内側にあり、
感覚―神経‐運動の働きをする動物性臓器が外側にあります。
植物性臓器は自然・地球・宇宙と常に共鳴していますが、
動物性臓器である筋肉も、宇宙リズムの一環として収縮と拡張を繰り返しています。
内臓は植物性臓器ですが、そこを動かそうとする筋肉(内臓筋)は動物性臓器になります。
そういう風に植物世界と動物世界をつなぐ内臓筋は、(1)腸管筋、(2)腎管筋、(3)血管筋の3つがあります。
(1)腸管筋と(2)腎管筋は、その場の筋層内の神経細胞によって、
(3)血管筋は、はじめは内分泌細胞、のちに神経細胞により支配されます。
(1)腸管筋と(2)腎管筋は、は、延髄と仙髄の【副交感神経】(ブレーキ・リラックスの働き)により、
(3)血管筋は、胸腰髄の【交感神経】(アクセル・興奮の働き)により、別々に支配されています。
さらに、(3)血管筋は、体壁性(からだの外側)と内臓性(からだの内側)の少なくとも二種の血管で大きく異なるものになります。
からだの血液を体壁系(からだの外側)に送るか、内臓系(からだの内側)に送るか、そこを仕切っているのが【交感神経系】です。
背骨をからだの軸とする<脊椎動物>は約5億年前にヤツメウナギの祖先から生まれました。
その時に、血液をからだの外側か内側かへとポイントの切り替えをする内分泌系ができました。
生命は、リラックスから緊張状態へと移行することになるわけです。
約5億年前に<脊椎動物>としての魚類の原形が海の中に生まれたとき、リラックスから緊張状態へと移行する手段としての<内分泌系>を持ったわけですが、
ひとのからだにはアドレナリンを分泌する副腎髄質や頸動脈小体に、その名残りがあります。
海と陸の間でどちらでも生活できる両生類になると、<内分泌系>は<神経系>に置換され、【交感神経系】が出来ることになります。
ちなみに、乾布摩擦として皮膚に刺激を与えるのは、からだの血液を体壁系(からだの外側)か、内臓系(からだの内側)に送る仕切りとしている【交感神経系】の鍛錬を行っているわけです。
ただ、乾布摩擦も、やりすぎると血管反射が過敏になるのでご注意ください。
そんな体壁系(からだの外側)の交感神経節には
幹神経節(gt)と腹腔神経節(gs太陽神経)があります。
幹神経節(gt)は、感覚‐運動という動物的な機能を受け持ち、
腹腔神経節(gs太陽神経)は、吸収‐排泄という植物的な機能を調和させる働きを持つのです。
三木先生のからだ観はほんとうに面白くて勉強になります。
60兆個の多細胞がどのようなバランスで調和をたもっているのか、生命の歴史の一端を垣間見せてくれるような気がするのです。
■
東洋医学でいう<上虚下実>という言葉。
頭や脳の上部はリラックスして、お腹周りを充実させよ、ということです。
そもそも、動物の体には「たまり」の部位が多いのですが、植物にはたまりはありません。
植物は、自分の体の延長が宇宙そのものです。自然に対して開放的。
動物は、宇宙を体の中に抱え込んでいるので、自然に対して自閉的です。
たまりのあるところに病気や癌は起きやすいです。
そこで流れが滞ることが原因なのでしょう。川の水も流れていると腐りませんが、流れないと水も腐ります。
肺での呼吸も同じことです。
肺の中もたまらないように、呼気こそが大事なのです。
呼吸法でも、かならず息を吸うことより吐くことの重要性を教わります。
執着はたやすく、手放すことが難しい、ということとも関連があるのかもしれません。
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3つの心臓、という話。
<心臓>の働きをする者は、
心臓 横隔膜 筋肉
の3つ。
もともと、心臓という臓器は、魚の鰓に血液を送り込むためにできました。
魚は、個体運動として尻尾を動かす事で血流を送り、えら呼吸していました。
運動と呼吸がひとつだったわけです。
ですから、ヒトの呼吸はもともと魚の全身運動だった名残があります。
そのため、ヒトも3つの心臓(心臓 横隔膜 筋肉)が肺呼吸において重要な役割を果たすのでしょう。
静脈系にも3つあります。
・肝臓に流入する吸収性静脈
・腎臓に流入する排泄性静脈
・鰓腸に流入する呼吸性静脈
すべて門静脈をなしますが、心臓は3番目の門静脈が発達してできたものです。
肝臓が入口の関所、腎臓が出口の関所ということになります。
ただ、ヒトの場合は、腎臓へ流入する血液は、静脈ではなく腎動脈という動脈血が流れるようになります。
■
太陽型と太陰型のリズム。
太陽と月のリズム。
潮のリズムは、月を基準にして地球が自転(24.8時間)のリズムで生まれます。
ですから、1日24時間ですので、約50分(0.8時間)ずつずれるわけですが、約2週間で元に戻ります。
海から陸への移動。
魚類→両生類→爬虫類。
両生類時代に、1億年の浜辺の生活がありました。
浜辺の生命記憶が人の中にあります。
それは潮のリズムです。月のリズムです。
古代は海型の太陰型のリズムで、それが陸型の太陽型のリズムへと移動しました。
24.8時間から24時間のリズムへ。
そのことが、夜更かしなど、からだのリズム障害として残っているのかもしれません。
・・・・・・・・・・
三木先生の本は、からだを見ながら、遠い生命記憶を思い出させてくれます。
からだは全員の共有物。
だからこそ、三木先生の本からは、何らかのInspirationを受け取るはずです。
もっと世界的にも知られていい三木先生の偉大なお仕事。
自分はなんとか三木先生のお考えをもっといろいろな人に知ってもらいたいな、と日々思っております。