urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

佐々木俊介『繭の夏』創元推理文庫

2006年02月08日 | reading
ネタバレ一応注意。

近作『模像殺人事件』が好評なようなので、デビュー作を引っ張り出してみました。十年で二作ってもはや寡作とかじゃねえな。
で、デビュー作はスリーピング・マーダーものです。「長い間ひとに知られずに<眠っていた殺人>が、ささいなできごと、多くは事件当時幼かった子供が成長して後鮮明に思い出す記憶などによって光をあてられ、やがて事件の真実が掘り起こされる、といったタイプのミステリ」(解説/若竹七海より)をそう呼びます。
このタイプの作例が他にすぐ出てこないのですが(綾辻なんかは「記憶」の謎みたいなのをよく書くけど)、読ませるのは難しいでしょうね。手がかりの出し方やロジックの結びがどうしても恣意的になってしまう。実際の犯行過程を細かに推理する、といったオーソドックスな謎の設定(記憶に残っている不可思議な情景の謎を解く、といったタイプのものじゃなくてね)をした場合、完成度の高い推理を演出するのは至難の業だと思うのですが。そしてこの作品もまた、その真っ向勝負に挑戦しつつも敗退してしまっている印象…。
ちょっとナルシスティックな印象がありますがまとまって読み易い文章、姉弟探偵のキャラクタ(と楽しそうな新生活)など、小説として読ませるものがあるし、咲江という人物をめぐっての真相の開示もなかなかエグく、青春ミステリとしての苦味もうまく演出されてると思います。しかし前述のように犯人の行動やそれに繋がる周囲の人物の行動といった部分の推理がまったく面白くない。小説としても、プロットとしても評価できるのに、ロジックの部分が成立してない、という残念な作品でした。
あと「アオイマユ」って単語がキーワードになるんだけど、別のもの思い出してしまって集中できなかった。だって「アオイマユ」って、めそ…

作品の評価はCプラス。

繭の夏繭の夏
佐々木 俊介

東京創元社 2001-06
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